ようこそ世紀末へ 2
そして至る現在。
俺の足下には、核シェルターの警備員が伸びている。
ちょっと状況を説明しよう。
このゲーム、最初は核シェルターから始まる。俺の周りにあるのがそれだ、冷たく暗い照明、コンクリートと鉄でできた殺風景な部屋。
空気は冷え切っていて、はっきり言って長居したくない雰囲気だが、主人公はそもそもこのシェルターで生まれた。
話の筋立てから言うと、主人公の父親である科学者が世界を救いたいと外へ飛び出し、それを追って主人公もシェルターから出る、事になっている。
ちなみに、俺は主人公じゃない。
「フッチー! 無事か?」
部屋にちんちくりんの美少女が飛び込んでくる。作業服を着て、手には警棒を握り、頬には血糊が付いている。
こっちが主人公だ。
対して俺は、主人公より頭二つ分は背が高い。
さっきのシーンと矛盾するようだが、ストーリー的には問題ない。
なにせさっきの殴り合いは、物語の中では八年も前の出来事になっている。主人公だけ年をとってないのは、おそらく俺が入れた「主人公子供のままプレイMOD」のせいだ。
俺は作業服に革ジャン姿。野球のバットを握って、呆然と警備員を見下ろしている。
この服装、そしてさっきのセリフから考えるに、俺は間違いなく、とあるキャラクターになっている。
そのキャラクターとは……
「親友! 付いてこい、お前の助けがいる!」
主人公が、無表情でそう言った。
そう、俺は主人公の親友、というか悪友。
つまりゲームの脇役だ。
このゲーム、いちおうRPGということもあり、旅には仲間が付けられる。仲間になるキャラは何人もいるが、その中でも最初に仲間になるのが、この俺だ。
名前はフリッツ・デロリアン。愛称はフッチー。ちょっと悪ガキ入った十九歳。将来の夢は、この世界で最高のギャング団を組織すること。
はっきり言おう。
このキャラ、仲間の中でも最弱の座を争うダメキャラだ。
いちおう突き抜けたダメさ加減でプレイヤーの評判は高いのだが、いかんせん世紀末を生き抜くには基本パラメータが足りてない。威勢だけはいいので、いわゆる噛ませ犬、おバカキャラ、マスコットとして愛されているだけだ。
「……なんで固まってんのよ……パソコンの調子悪いのかな」
主人公が口を動かさずにつぶやく。
さっきのセリフとは、微妙に声質が違う。
その声に、俺は聞き覚えがあった。パソコンなんて言ってるあたりで、その声の主にもだいたい当たりが付いている。
だが、その推測を俺は認めたくない。
認めた日には、自分が置かれている状況を受け入れ無くてはならない。ゲームの中にいるとか、いくらゲーオタの俺でも受け入れたくない。いやでござる。
「殴ったら、反応するかな?」
主人公が真顔でそう言って、警棒を振り上げる。
ちょっと待て、落ち着け! 主人公補正の付いた威力で殴られたら、いくら初期装備と言えど間違いなく痛い! っていうか、その警棒で三発殴ると人が死ぬんだぞ!
まて、待ってくれ! と言うつもりで開けた俺の口から、違う言葉が流れ出した。
「よぉヌコ! 嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか! いいぜ、俺とお前で、この世界最高のギャングを作ろうぜ!」
何言ってんだ俺は!
ああ、そうか、たぶんセリフ以外は喋れないんだ。
頭を抱えたくなるが、そんな動きもできない。手足の動く方向が、あらかじめ決められているようだ。
このゲーム自由度は高いのだが、それはシェルターの外だけだ。
開幕からしばらくは、決められたシナリオに沿って物語が展開する。登場人物には、あらかじめその制限がかかっていると見た。
となれば、一刻も早く自由になり、こうなった原因を探さなくてはいけない。
「行こうぜヌコ! 親父さんを探すんだろ? こんな穴蔵とは、さっさとおさらばしようぜ!」
俺は幾度となく聞いたセリフを吐き、警備員から警棒を奪って走りだした。
後ろを付いてくる主人公は、相変わらず無表情、口パクなしでブツブツと何かを言っている。
「やっぱ名前がヌコってキモイ。どっかで変えらんないの?」
その言葉に、俺は確信すると共に唇を噛む。
全力で恥ずかしい。その人物に、このゲームをプレイされていることが拷問に近い屈辱だ。
いっそ自殺してでもゲームから今すぐ出たいが、残念、仲間キャラは死なないように設定されている。ここで自分を警棒で殴っても、その場に一定時間伸びるだけで、何事もなく立ち上がってしまうだろう。
「しかし親父さんもすげぇぜ、一人でここを飛び出すなんてな!」
(くそっ、口を開いても定型のセリフしか出てこねぇ!)
もうこうなれば、ストーリーを進めるしかない。
幸い、シェルターの警備員はザコ中のザコだ。
戦闘のチュートリアルもかねて、俺ことフッチーが先頭に立ち、シェルターの出口まで進むシナリオになっている。
ここは腹をくくるしかない、俺。
ゲーム初心者だろうこの人物を、なんとか出口まで導いてやろうじゃないか。




