ようこそ世紀末へ 1
Fullmetal Oath 3 ――略してFO3。
世紀末本格サバイバルFPSRPGとして知られるゲームだ。
プレイヤーは核シェルターに生まれた主人公となり、徹底的にリアルを追求した世紀末世界で冒険をする。
ゴアゲーの本場アメリカで作られたゲームだけあって、えげつないほどのリアルさが売りだ。
銃で撃たれれば首が飛び腕が飛び、徹甲弾なんかで撃とうものなら全身バラバラになる。描写のリアルさだけでもとんでもないが、生き残り、つまりサバイバルの設定も恐ろしい。大地は汚染され、水たまり一つでも用心しなければ命取りになる。うっかり生水を飲もうものなら、汚染度が上がって即あの世行き、つまりゲームオーバーだ。
なぜ俺がそんなことを知っているかというと、俺はこのゲームのコアなファンだからだ。
総プレイ時間は一千時間以上、全てのシナリオをクリアし、歩いていないフィールドはないと言っていい。
パソコンゲームなことをいいことに、外国製のMOD、つまり改造データにも手を出し、徹底的に世界をカスタマイズしてきた。
その俺が最後に憶えていることは、通算数百回目のゲームクリアを迎えた時のことだ。
重々しいファンファーレが鳴り響き、画面の中で美少女が光に包まれ崩れ落ちる。
このゲームのエンディングは、常に一つだ。
主人公は自らの命を賭して、科学者である父親の遺志を継ぐ。
世紀末の大地を浄化された水で潤すために、欠陥のある浄化装置を、捨て身の覚悟で起動させる。浄化装置からは致死量の汚染物質が噴き出し、主人公は光に包まれて息絶える。
実にアメリカらしい、感動的なエンディングだ。
もちろん俺は何百回も見ているので、今さら感動することはない。というか、この時クリアしたのは単に、新しく入れたMODの出来を確認するためだった。
「んー、やっぱりエンディングになっちまう。このMOD機能してねぇ」
流れるエンディングムービーを前に、俺は首をひねった。
新しく入れたMODは、主人公の死を回避するデータだ。エンディングが終わったあとも、自由に世界を徘徊できるようにすることで、時間制限付きのミッションを楽にしようというわけだ。終わり無きゲームの始まりである。
ところが、そのデータがうまく機能しない。
何度試してもエンディングムービーが始まってしまい、あげくの果てに「THE END」の文字だ。
「このMOD不良品だったかな?」
俺は印刷したMODのマニュアルを見ながら、どこか間違って導入してないかを、再びチェックした。
その間にもエンディングムービーは続き、やがて画面が暗転する。
そして「THE END」の文字が――
出なかった。
「あれ?」
画面は再び明るくなる。
巨大なガラクタの山、もとい浄化装置の手前に横たわる主人公。全身が汚染物質で覆われ、緑色に光り輝いている。
「やったか? でもMODはムービーを飛ばすって書いて……」
その時、画面の主人公が動きだす。
のっそりと立ち上がると、ゆっくりとカメラに向けて歩いてくる。カメラ設定の限界まで近寄り、さらにその先まで迫ってきた。
いつの間にか、画面には主人公が大写しになる。
「おいおい、なんだよこりゃ。まるでホラーじゃん」
俺は笑いながら、ゲームを操作しようとキーボードに手を伸ばし……
その手を、何かにつかまれた。
「うわぁっ!?」
慌てて引こうとするがもう遅い。妙にひんやりとした五本の指が、俺の手首をガッチリと捕まえていた。画面の中で主人公が笑う。その手はカメラへ、いや画面の向こうの俺に差しのばされている。
俺は悲鳴を上げ、必死に手をふりほどこうとするが、信じられないほどの力で俺の手を締め上げてくる。
「……ずるいよ」
主人公がそう言った。
英語ではない。日本語だ。
「きみもおいで、この世界に」
俺の手はズルズルと画面に引き寄せられ、ついに液晶画面の境界に触れる。
そして俺は、気を失った。




