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引き返せない道 3


 昨日の今日と言うほどでもないが、俺たちは装備を調えると、早々に中央要塞へと戻った。


 「ガバいシステムメッセージだわぁ。目的地が一緒なら、前のついでに表示すればいいのに」

 二度手間もいいところの呼び出しに、主人公にして我が妹、シィのご機嫌は相当に斜めなご様子だ。

 瓦礫を乱暴に踏むその背中に、なだめる声の一つもかけたくなるが、もちろんできないので以下省略。




 着いてすぐに、要塞の責任者ラッセル翁と一悶着あったものの、そこはアンジーが取りなす形、と言うよりダダをこねる形で何とか丸く収まった。


 地下格納庫と封鎖区域に入ることを許された俺たちは、ただ今錆び付いてガタガタ揺れるエレベーターの中だ。


 「次の階が格納庫だが……フッチー殿、目が輝いておるぞ?」


 「あ、やっぱりわかっちゃう?」


 事態の深刻さに対して、不謹慎にもワクワクしっぱなしの俺に、アンジーがメガネの底から冷えた視線を送る。


 「未来を知る、となれば、当然あれのことも知っておるのだろうが。格納庫には止まらんぞ、絶対に止まらんからな」


 「そんなこと言うなよアンジー、せめて三分、いや一分だけでもお願いします代官様」


 「誰がダイカンか。そんなに見たければ扉の網にへばりつくがよい。少しなら見えるであろう」


 「へへーっ」


 恥も外聞もなくドアの金網にへばりつく俺に、アンジーだけでなくシャイナまでもがため息をついた。


 「フチオミ君、もしかしてあれを見たいわけ? 男の子ってどうしてこうなのかしら」


 「私にもわかりかねる。部下共もあれを見るたび口笛を吹くわ歓声を上げるわ、鬱陶しいことこの上ないのだ」


 「うるへー女子共め、男のロマンが女にわかってたまるか!」


 そうこうしている内に、ギシギシ音を立ててエレベーターが下り始める。

 突然、金網の向こうでコンクリート壁が途切れ、巨大な地下空間が窓の外に広がった。


 「すっげーっ! やっぱり本物は違うぜ!」


 俺に奇声を上げさせたもの。

 それは地下空間の中央に鎮座する、特徴のありすぎる物体だった。


 身の丈十九メートル、細長い手足と、卵形の胴体を備えた鉄色の巨人。

 局地殲滅用ロボット兵器タイタン・パトリオット。戦前に開発された有人ロボット兵器で、早い話がモービルなスーツ、つまりパワスケの超拡大版だ。

 シナリオ次第では、主人公が乗って動かすこともできるぞ。

 本来はメインシナリオ最終局面で主人公をサポートする、マップ兵器って感じの代物だ。ちなみにその時のパイロットは、アンジーだったりするんだが。


 しかし無情にも、素晴らしき機械を俺が堪能する暇もなく、エレベーターは格納庫を素通りして床に潜る。


 「畜生、いつか絶対、じっくりまったり溶けるまで観賞してやるからへぶっ」


 歯を軋らせて悔しがる俺の後頭部に、シャイナ先生の容赦ないツッコミパンチが炸裂した。


 「いい加減にしてフチオミ君。今はこっちの用事の方が大事なのよ」


 「ふ、ふぁい」


 俺が顔面を金網にめり込ませながら答えると同時に、エレベーターは要塞最下層に停止した。




 封鎖区域と呼ばれる最下層は、汚染計数がちょいちょい高い場所があるので、普段は利用されてないエリアだ。


 たたずまい的には廃墟寸前の有様で、コンクリートには水の流れたあとが無数に走り、壁や床の鉄板には錆が浮きまくり。壁の配管もあちこちで破断して、断面からは緑に光る水がポタポタと滴っている。


 区域の一番南にちょっとした体育館ほどのスペースがあり、対爆大扉はその壁面いっぱいを使ってそびえ立っていた。


 扉の前に俺たちが着く頃には、アンジー旗下のアシガル・ソルジャーの皆さんが勢揃いしていた。と言っても総数は八人だ。皆パワスケを着ているとはいえ、迫力は今ひとつだな。


 アンジーがアシガルの一人に歩み寄り、威厳を持って話しかける。

 「アシガル・ローガン。扉の駆動部はどうだ?」


 話しかけられた鋼鉄の鎧武者が姿勢を正すが、マスクから流れてきたのは頼りなさそうな若者の声だ。


 「ハタモト・オリオン、やっぱり駄目ッすわ。動かしてなかったからサビサビのゴチゴチです。根本のモーターは生きてるみたいっすけど、この人数でギア回せるかはちょっと」


 「ふがいない声を出すな! 根性で回すぐらいは言えんのか?」


 「やってみますけど、ダメでも怒らないでくださいよ」


 そう言いつつ鎧武者が合図を出し、その場のアシガルたちが一斉に扉の下部に取り付く。パネルが開けられむき出しになった巨大な歯車に、全員で体重をかけて回すつもりらしい。


 「いっせーの!」

 『せいっ!』


 全員が声を上げて歯車を押すが、軋むばかりで動く気配はない。


 「かってぇぇぇっ」

 「やっぱ無理じゃねぇか?」


 口々に文句を垂れるアシガルたち。


 その様子をほけっと見ていた俺の肩に、アンジーの手がかかる。


 「ここは我々も行くぞ」


 「へ? 俺も?」


 「貴殿もパワスケを着ているではないか。さぁ、一緒に力を合わせよう!」


 「ああ、そうでしたね」


 訓練場での一件以降、俺の装備は一気にランクアップし、今はラッセル翁にもらったパワスケを着用している。

 動かすコツについては、ここ数日の要塞への往復中にアンジーに特訓されたおかげで、どうにか物にできた程度だ。


 「フチオミ君、ささっと終わらせなさい」


 「ひゃっはー」

 (がんばれー)


 外野二人の応援を背に、俺はアンジーと共にアシガル達に合流する。


 近くで見るとわかるが、動かすべき歯車はざっと俺の背丈の二倍近い大きさがある。アシガルの報告通り錆が厚く堆積していて、ざっと見動くようには見えない。

 鎧武者が十人集まったからって、どうこうなるものなのか、これ?


 「我らも手伝う。気合いを入れろ皆の衆!」

 『マム、ィエスマム!』


 暑苦しく答えるパワスケ武者に混じり、俺も歯の一つに手をかける。すると、その上を持っていたアシガルが俺にマスクを向ける。


 「ああ、新しいハタモトさん。そこだと手を挟むからこっちに、そう、その出っ張りをつかむといい」


 親切に俺の手をつかみ、もっと持ちやすくて安全な場所に置き直してくれた。


 一応、俺はラッセル翁からは鎧と一緒にハタモトの位までもらっている。と言っても、今のフランクな対応からわかるように、アシガルの皆さんからは名誉称号くらいの扱いを受けていた。ぶっちゃけお客さんだ。


 「よし、ゆくぞ!」

 『せいやぁっ!』


 アンジーに応える八人分の野太いかけ声と共に、歯車にギリギリと力が加わる。


 「フッチー殿、もっと腰を下げんか!」

 気を抜いていた俺に、アンジーから檄が飛ぶ。

 こっちはまだパワスケ初心者だぞ! とは思ったが、それを口に出すより、俺は腰を落として力をかける方を選んだ。


 この扉は希望へ続く扉だ。

 これが開かなければ、ここまで来た意味など無い。


 あまりに力をかけすぎたため、鎧の人工筋肉だけでなく俺の筋肉にもピキッと嫌な音が走る。


 限界かと思われたその瞬間。

 歯車がほんの少しだけ、角度にして三度ほど回転した。


 「今だフルパワァァ!」

 『マム、ィエスマム!』


 号令一喝、総勢十人分の人工筋肉がギリギリとうなりを上げる。

 歯車から大量の錆が剥がれ落ち、キリキリという鉄の悲鳴を上げて徐々に回転し始める。


 大扉自体に鈍い振動が走った。

 水によって溶けたコンクリート片や、堆積した錆のツララなんかが俺たちのまわりにバラバラと降り注ぎ、扉が目覚めに喘ぐ。


 ひときわ大きな軋みが上がり、しっかりとしまっていた扉に僅かなすき間が開いた。その間隔は一ミリ、一センチ、十センチと開いていき、アンジーが止めの号令をかけたときには、一メートル近くにまで拡大していた。


 「総員抜銃、警戒態勢を取れ!」

 アンジーの号令で、一斉にアシガル達が腰からアサルトライフルを抜く。


 扉の向こうからは、かすかに緑に発光する霧が流れ出し、扉前の広場を薄く覆ってゆく。


 この向こうはメトロ66。他のメトロとは隔絶された死の通路だ。


 「よし、ローガンのグループは前。ミッチェルのグループは後ろの警戒。シィ殿、シャイナ殿、ヒャハ子殿は真ん中へ」


 アンジーがテキパキと指示を出し、アシガル達で囲むようにしてシィ達をガードさせる。


 指示が出されていない俺は、手を上げてアンジーに質問する。

 「俺は?」


 「人手が足りん、フッチー殿は私と共に前衛だ」


 「マジかよ」


 肩を落としつつライフルを抜き、グループに先行して立つ俺に、横に並んだアンジーがマスクを向けてくる。

 「マジだ」


 「……らしいね」

 俺も含めた鎧武者達が一斉に赤外線暗視を起動させ、霧のわだかまる闇へと歩み出す。



 ここから先は、意図的にゲームの裏をかく未知の世界。

 文字通り、引き返せない道だ。

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