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潜入アーミー・クラン END

 「うーん、やっぱりそうなる、か」


 シィと共にいったんボムシティへ帰ってきた俺たちは、買い出しに向かったシィを抜いた面子で自宅の談話室に籠もり、分厚い紙束と格闘していた。


 中身は、浄化装置の設計図と、機能の概要、そして部品リストだ。


 書いてあるのは英文ばかりだが、洋ゲーオタの俺的には何とか読める範囲だし、わからない文章はシャイナに読ませれば一発だ。


 「浄化装置の一般的な機能は、普通の浄水器と一緒ね」


 「しかしあれだ、ジョナサン親父は、それで都市廃墟の全ての水を浄水しようってんだ。やっぱりあのアイテムが鍵なんだよ」


 引っぱり出してきた資料が戦前の物のためか、肝心のジョナサン氏の改造部分がさっぱり掴めない。


 真面目に論議しているのは俺とシャイナ、そしてあともう一人。

 言っておくがヒャハ子じゃない。あいつは文字が読めない上に飽きっぽいので、早々にリタイアして机の下でお昼寝中だ。


 「お二方、この付属資料に気になる部分が」


 そう言って紙束をこっちに差し出したのは、そう、アンジーだ。

 勝手な真似をした件でラッセル翁に大目玉を食らい、罰としてシィに同行する事を命じられたらしい。


 また仲間が増えましたよ。


 ま、謎な熱血少女なのは置いておくとして、常時パワスケ着用のこいつのせいで、談話室が狭く感じられて仕方がない。

 やっぱり鎧は普段着代わりなのか。


 「記載されている中で、〈物質転換コア〉について触れられているのはここだけです」


 「どれどれ」


 俺が紙束を受け取ると、それをシャイナが俺の手から引っこ抜く。


 「フチオミ君に読ませると日が暮れちゃう。私が読むわ」


 「そりゃどうも」


 「えっと……これは、戦前の施設改修計画の一部みたいね。従来の浄水装置のフィルタ部分に〈物質転換コア〉を取り付けることで、浄水量を飛躍的に高めるプランだわ」


 「そいつだ!」

 俺は思わず立ち上がった。


 間違いなく、それが探していた資料だ。


 〈物質転換コア〉とは、ゲームの中でも飛び抜けて重要なキーアイテムだ。

 戦前の超技術で作られた部品で、物質を別の物質へ作り替えることができる。有り体に言えば科学の産んだ賢者の石、まさしく錬金術の世界だ。


 このアイテム、メインシナリオでとても重要な役割を担っている。

 というか、これこそがエンディングにおけるプレイヤーキャラの死の元凶と言っていい。


 ジョナサン氏の遺志を受け継いだ主人公は、最終局面で浄水装置を稼働させなければならない状況に追い込まれる。

 が、この物質転換コアは、稼働時に一時的に汚染物質を大量に発生させるという欠点を持っていた。そのため、主人公はエンディングで汚染物質を浴び、人生の幕を閉じなければならなくなる。


 「計画書によると、コアのから一時的に放出される汚染物質は、これを遮蔽する事ができると書いてあるわね。具体的には基礎設計図のフィルタユニットを参照……」


 「これだ」

 設計図の束から、アンジーが器用に一枚を引っこ抜き、テーブルに広げる。


 そこに描かれていたのは、俺には見覚えたっぷりの装置の外観と、断面を表した図だ。

 ドーナツ状の制御室。その中央に何層もの浄化フィルタブロック。

 浄化装置の中央フィルタユニット、つまり心臓部であり、同時に主人公の棺桶でもある。


 「具体案では、中央の三重防止隔壁で汚染は止まるって書いてあるけど、そんなの有り得ないわ。だいたい、コアから発生する汚染度が低く見積もられすぎよ、これ」


 「あー、あるある。公文書でよくあるパターンだな」


 俺はシャイナが読んでいる箇所と、机の上の設計図を見比べる。

 制御室のさらに内側に設けられた円筒形の隔壁、これが汚染を食い止める予定らしいが、現実的にそうならないのは知っている。

 お役所仕事で不利益を低く見積もったって奴だな、うん。


 「ちょっと待たれよお二方、その資料に対応した図があったぞ」

 アンジーがひょいっともう一枚の図を出してくる。


 今ある図と似ているが、フィルタユニットの内部構造がずいぶん違う。

 本来なら単なるフィルターが付いている場所には、正八面体の小さな物体、物質転換コアが取り付けられ、その周囲を関連機器が取り巻いている。

 その配置はジョナサン氏による改造後の浄化装置とよく似ていた。


 「これ、そのまんまだな」


 「そうね。父、ジョナサンの改造はこれを下敷きにしたのね。……あらここ、何か書いてあるわ。『使用するコアは最新のグレード2以上のものであること。それ以前のものは汚染許容量を超えるので使用不可』……これってまさか」


 「ああ」


 俺はシャイナの手を取る。

 「謎は全て解けた、だろ?」



 答えは単純だ。

 使用する部品を間違えたわけだ。


 ゲームで鍵となる物質転換コアは、放棄された核シェルターから手に入れる。

 その核シェルターなんだが戦前の、それもけっこう古い時代に建設されたものだ。一方、問題の付属書類なんだが、作成年月日は最終戦争、つまり世界が滅びた日の二ヶ月前となっている。


 つまり付属書類で注意書きされた、それ以前のものに該当する部品を付けたがために、主人公の死を招いてしまったわけだ。


 ならば回避策は簡単だ。まともな部品を、最終戦争前夜に製造された転換コアを取り付ければいい。


 「しかしそのようなコア、この一帯にはないと思うが」


 最初に首をひねったのはアンジーだ。


 「そうなのか?」


 俺の問いに、アンジーはうむうむと首肯する。


 「戦前遺跡調査は我々ACの主任務でもある。特に物質転換コアともなれば、見つけたならかならず回収するべき貴重な品だ。そんな我々が、ウェイステッド・キャピタルどころが、周辺の汚染砂漠地帯をくまなく探して、一個も発見できなんだ」


 その言葉に、俺も爪をかんで下を向く。

 実はゲームの設定として考えても、今のアンジーの発言は正しい。


 このゲームは、Fullmetal Oath 3の名からもわかるようにシリーズものだ。

 実は前作、2の方に物質転換コアが出た際に、それが世界で唯一残ったグレード2以上のコアであるという設定がされてしまい、以降の続編でもそれが継承されている。


 なら2の物を拝借したくなるが、それはできない。

 残念なことに、2の舞台はここから遙か離れたアメリカ西海岸。いまからちょっと行ってくるというわけにはいかない。


 「せっかくここまで来て! どうあっても私たちに死んで欲しいのね。この世界は!」


 シャイナが怒りも露わに机を叩いた。落ちくぼんだ目には涙が光っている。

 そんなシャイナに対し、詳しい事情も知らされていないのに、アンジーが優しく寄り添う。


 「気落ち召されるな、シャイナ殿。何かきっと妙案があるはず。ほらフッチー殿はあきらめる様子がありませんぞ?」


 そこで指されても困るが、事実、俺はまだあきらめてはいない。


 もちろんシャイナへの義理立てというか、一刻も早くリアルに戻りたい気持ちもある。正直言って、俺は世紀末を舐めていた。


 ほんの一週間少し過ごしただけだが、この世界のどこに行こうとも目にする破壊と理不尽、それに少しばかり嫌気、いや恐怖を感じ始めていた。リアルに満足しているわけでもないが、かといってこんな所で永久に暮らすのは嫌だ。何もかもが荒れ果てていて、心の安まる場所も時間もない。


 それにシャイナにはまだ話してないが、中央要塞への遠征の頃から、いや、そのずっと前から、世界がゲームからずれ始めている予感というか、妙な感触がある。

 このままだと、いつまで自分のゲーム知識が役に立つかわからない。


 目の前の紙束にしたって、ゲームのアイテムではありえない代物だ。推論からあるだろうとは確信していたが、実際に目の当たりにすると恐ろしくなってくる。


 ここは本当に、俺のプレイしていたゲームの中なのだろうか。


 「せめて、要塞よりも戦前の情報が残った場所か、終末時代の遺跡でもあれば……」


 アンジーがそう言って腕を組む。

 それを見た俺は、一つの心当たりにたどり着いた。


 「……あるぜ、両方の条件を満たす場所が」


 俺のつぶやきに、二人が揃って顔を上げる。


 「それは?」

 「フチオミ君、まさか……」


 片や怪訝な顔、片や驚きと少しの嫌悪をにじませた顔。


 二人に向けて、俺はその場所を告げた。



 「キャピタル・セネターズの本拠地。ヒュージロック基地だ」

第五話はここまでとなります。

前回に続いて引きが来てしまいました。ちょっと反省しております。


今後の予定について軽く触れておきます。

次の六話目を折り返しポイントにして、第一部の完結は十二話を予定しています。これより短くなることはあるかも知れませんが、長くなることはありません。

リアル生活が少しあわただしくなってきましたが、できる限り、十二話までは一日2~4片のペースを維持するつもりです。


引き続き、ご感想、評価、お叱りなど、何でもお待ちいたしております。

モチベアップの為にも、ぜひ何かありましたらご遠慮なくどうぞ。

それではまた、次の話でお会いしましょう。

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