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潜入アーミー・クラン 6


 「ハハハー! オレヅヨイ!」

 高笑いを上げ、ガルガンチュアが階段を下っていく。


 それを見ている俺は、もの凄く奇妙な感覚に囚われていた。


 腹から下がないのは、まぁ、大丈夫だ。大丈夫って言い方は変かもしれないが、これまでだって怪我すりゃ痛かったし、何度も死んでるわけだから、その辺は慣れっこだ。


 違うのは……眠気だ。

 異様に眠いんだよ。


 授業中とか試験勉強とか、あと深夜のネトゲとかで、起きなきゃいけないとわかってるのに眠い状態があるだろ? あれに近い。意識が小刻みにブラックアウトしては、ハッと目を覚ます。


 何だこりゃ? 俺、そこまで疲れてたっけ?


 いやいやそうじゃない。システム上死亡状態になったことは何度もあるが、一度だってこんな状態になったことはないぞ。意識は常にはっきりとしていたはずだ。


 それがどうだい、このねむ、け……




 「おや、また君か?」

 誰かの声がする。


 目は死んだときのまま、開いてるはずなんだが、何も見えない。


 「む? 死んでいるのか。いや、そうじゃないな……」


 柔らかく小さな手が、俺の傷口を撫でる。


 「ふむ、〈こっち〉では死んでいるが、〈あっち〉では生きている状態かな? やれやれ、ややこしい存在だな。君は」


 何かがズリズリと引きずられる音。それもどんどん聞こえなくなっていく。

 傷口に何かが押し当てられ、俺の腕にチクッとした痛みが走る。


 「この方法で問題はないはず、だ。ああ、そうそう、意識があるのなら聞いておけ。あまり〈こっち〉に近づきすぎるなよ? 君はどうやら、だいぶ近くにいるようだからな」


 ふいに、足を誰かがつかんでいるのを感じる。

 眠気が晴れては襲い、覚めては落ちる意識の向こうで、俺は白衣を着た何かを見る。


 「そう、そのまま戻っていくがいい。できれば二度と会いたくないが、どうやら君とは縁があるようなので、こちらの挨拶の方がいいだろう」


 薄暗がりの中、白衣を引きずった女の子が背を向ける。


 「では、また会おう」


 異様にかび臭い風が吹き、俺は目を閉じた。




 「フッチー! 無事か!?」


 俺は目を開けた。

 目の前には、マスクを開いた素顔のアンジー。その向こうには挽肉状態のガルガンチュア。


 「……あれ? 俺は」


 確か撃たれて、真っ二つになって、死亡状態で……おかしいな、何でまだここにいるんだ?


 「よかった。生きていてくれたか」


 アンジーがほっと胸をなで下ろす。


 「なぁ、何がどうなって……うぇっ」


 自分の腹を見てびっくりしたのは、おそらくこれが初めてだ。パワスケの腹部には大穴が空き、インナースーツすら鮮血で真っ赤に染まっている。

 が、ちょっと引きつれた感じはあるものの、腹は無事のようだ。


 「撃たれてその程度で済んだのだ。まさに奇跡と言える。すばらしい、これが愛の力……」


 そのまま泣き崩れそうになるアンジーを、壁に背を凭せ掛けたまま支える俺。


 愛とか何とかは置いておくとして、いったい何がどうなった?


 「俺は死んだんじゃ、無いのか?」


 「バカを言うな! こうして生きているではないか! はっ、もしや頭の方をやられたか?」


 アンジーに肩をつかまれガクガク揺すぶられながら、俺はただ呆然と宙を見つめ続けた。


 いったい、何がどうなった?




 その後、アンジーに担がれて、俺は新兵訓練場を出た。

 要塞でも戦闘音が聞こえていたらしく、押っ取り刀で駆けつけようとしてた部隊と途中で合流し、そのまま鉄武者五人に担がれ英雄のご帰還、と相成ったわけだ。


 「ハタモト・オリオン。これはどういった事じゃ!」


 血相変えてアンジーと俺を出迎えたのは、迷彩柄の陣羽織、と言うかローブと防弾チョッキをまとった、ひげ面の老人。


 中央要塞の責任者、ショーグン・ラッセル・オリオンその人だ。


 名字が同じだし、そもそも出かける前にアンジーが言っていたように、このラッセル翁はアンジーの父親でもある。


 アンジーはすっかりしょげかえり、ボソボソと事の次第を報告した。


 「夜間は単独行を控えるようにと、あれほど厳命しておいたものを!」


 ラッセル翁はアンジーを激しく叱責したが、俺に振り向いたときは激しく破顔し、目を潤ませていた。


 「君は確か、ジョナサンの娘の友人じゃったな。娘の無茶に付き合わせてしまって済まない。身を挺して娘を守ってくれたそうじゃな。恩に着る」


 「は、はは、いや、やれることをやったまでで……す」


 俺の答えには力が乗ってない。


 腹の傷、やっぱり相当深手だったらしい。

 自分で打ったか、それとも誰かが打ってくれたのか、戦前の治療薬の効果が切れるや、俺は腹の激痛にうめく羽目になった。

 さらに、復活し損なったらしいという実感が湧いてきて、心の方にも重い何かがのし掛かってくる。

 フィジカルな痛みとメンタルな混乱で、俺の頭はぐちゃぐちゃだ。

 英雄気取りで図に乗る余裕なんてありはしない。


 「ふむ、謙虚なところが気に入ったわい。どうじゃね? ACで働いてはくねぬか?」


 ラッセル翁の申し出は丁重にお断りしたが、それでも何かしたいと言う爺さん的な頑固さに、俺はとうとう負けた。


 「では、君の望み通りにしよう。フォートコアの上位アクセス権を君にも渡す。それと、その鎧とハタモトの位も持っていくがよい」


 何だか余計なおまけが付いたが、とにかくこれでミッション完了だ。




 「フチオミ君。ちょっと男前になったわね」

 医務室から松葉杖付いて戻ってきた俺を、シャイナはそんな言葉で迎えた。


 「へっ、いい男には、夜の冒険がつきものなのさ」


 俺も軽口で応えるが、今のはかなり滑った気がする。ま、俺の精神状態を考えて、できれば大目に見て欲しい。

 唯一相談できそうな相手が目の前にいるのだが、不思議とこれ以上口を開く気になれない。


 「冒険になるとわかってれば、付いていくんだったわ」


 シャイナはいつものゾンビ顔を、それと判るほど曇らせている。

 そういえば、ここ数日こいつの顔色がよくわかるようになったというか、少しだけゴア度がマイルドになった気がする。


 「とにかく、計画通りとは行かなかったが、望みの物は手に入れた。もう一度フォートコアに質問しに行くぜ。今度は、堂々とな」




 「さぁてフォートコア、キャピタルプール水質浄化施設についての情報を出して欲しい」


 『かしこまりました。どのようなデータをご希望ですか?』


 俺とシャイナはほっと息をつく。一応登録が済んでいるとはいえ、内心またタレットガンを向けられるんじゃないかとビクビクしていたからだ。


 「どうした、二人とも?」

 後ろから、データの取り出しに付き合ってくれたアンジーが、不思議そうな声をかける。


 「いやなに、少しビビッただけさ」

 「ちょっと、ね」


 二人して微妙な答えを返し、俺は気を取り直してフォートコアのコンソールへ向かう。


 「フォートコア、欲しいのは浄化装置の設計図、ならびにその作動概要の説明と、使用されている部品の一覧だ」


 『かしこまりました。では印刷しますので、少しお待ちください』


 カタカタと動きだす印刷機を見ながら、俺とシャイナはうなずきあった。



 これでようやく、事態が前に進む。

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