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潜入アーミー・クラン 5


 「うほっ、あるわあるわ。天こ盛りだな」


 三階の柱に身を隠しつつ、パワスケの視覚ユニットを操作する。

 ゲームパッドでおなじみの親指ジョグダイヤル方式でメニューを探してみれば、視覚関係だけでとんでもない量の機能が搭載されてることがわかる。


 「赤外線、紫外線、赤外照射暗視に、スターライト暗視もあるか……このフォノンビューってのは……」


 目に付いた見なれない装置をオンにすると、視界はモノクロになって妙に画質がざらつく。驚くことに、柱を透かしてその後ろのガルガンちゃんたちがうっすらと見えた。


 「なる。こっちから音波出して、反射を拾って視覚化すんのか」


 便利だなとは思うが、俺はすぐに視界をスターライト暗視に切り替えた。


 こっちから音波を出すのは危ない。現にフォノンビューのメニューにはパッシブ表示、つまり相手からサーチされている旨の表示区域がある。

 アンジーにはおそらく気づかれるし、ガルガンちゃんに超音波が聞こえてたら困る……が、ちょっと待った。


 「これ、使えないか?」


 俺は試しにフォノンビューを再度起動し、柱の陰からそっと頭を出す。

 場をうろつくガルガンちゃんにしっかり視線を合わせてみるが、目立った反応はない。


 「オッケー、ガルガンちゃんに反応無し、と」

 しかし場のどこかにいるアンジーの視界には、おそらくパッシブ警告が出たはずだ。


 ならば、だ。


 ジョグダイヤルをフォノンビューに合わせっぱなしにして、俺は断続的に何度も押し込んでみる。

 視界はめまぐるしく切り替わるが、切り替えタイミングは充分に早い。


 「これならどうよ」

 パッドで鍛えた親指テクを駆使して、素速く切り替えを連続する。


 短いオンを三回、長めのオン三回、ついで短いオンを三回。満足のいく間隔で点滅したことを確認し、俺はさらに何度かそのパターンを繰り返す。


 何をしてるかって?


 ととと、つーつーつー、ととと、と言えばわかるだろう?

 そう、モールス信号だ。ちなみに今のは、かの有名な「SOS」だ。


 ガルガンチュアに超音波が聞こえないなら、この方式でアンジーだけにメッセージを届けることができる。パワスケにも無線はついてるんだが、さっき開いてみたら周波数がまっさらで使い物にならなかった。


 なんで十七歳高校生が欧文モールスを知ってるかって?

 へっ、俺の無駄知識をなめんなよ。洋ゲーにはモールスが出てくることが多いんで暗記したのさ。試験の暗記は苦手だが、ゲーム関係ならすんなり憶えることができるってもんだ。


 「S、O、S、ガルグス、アー、ヒア、と」


 そうそう、事のついでに説明しておく。

 俺ら、会話は日本語でやってるんだが、書き言葉や符号なんかは全部英語なんだよ。

 このゲームは洋ゲーなんで、何もおかしくはないんだが、会話だけはなぜが日本語で通じるからややこしい状態でね。

 念のためこのモールスは英語にしてあるんだが、通じてるかどうか、ちょっと怪しいな。


 とか思っていたら、こちらのパッシブ警告がパチパチと点滅し始める。


 「通じたか……えっと、なになに、R、A、D、I、O、F、R、E、Q、8、9、9、7、4……RADIOFREQ(ラジオフレック)……無線周波数か!」


 俺は無線のメニューを開いて、即座に周波数を合わせた。


 『フッチー、無事か?』

 すぐに兜の中に、アンジーの声が小さく響く。


 「何とかね、そっちは?」


 『問題ない。建物の奥にいたので全く気づいてなかったが、ガルガンチュア達の状況は?』


 「五匹来て、一匹撃破だ。残り四匹は訓練場をうろついてる」


 『撃破? 貴様が? ……音探を使ったモールスといい、ガルガンチュア一匹撃破といい、貴様、実はかなりの手だれだな?』


 探るようなアンジーの声に焦りつつ、俺はちょっと話題の変更に努める。


 「その話は後にしよう。とりあえずどうする? 撤退するか?」


 『撤退などありえん! 出会ったのなら殲滅あるのみだ!』


 「ああそうですか……」

 そういや忘れてたよ。こいつは脳筋特攻バカのACだったっけ。


 四対二、こっちがパワスケ装備なので戦力的にはそこまで不利ではない。

 が、それは味方二が真っ当な兵士だった場合だ。一人が突撃バカで、もう一人が役立たずなら、これはもう不利と言って差し支えない。そんな状況で殲滅ってあんた、ちょっと頭冷やそうや。


 いや、この場はアンジーに期待してもらちが明かない。俺が何とかしないと。


 「この無線で要塞に応援を呼べないのか?」


 『パワスケの無線は弱い。それに瓦礫に阻まれて長くは届かん』


 「マジかよ……アンジー、そっちは今どこにいる?」


 『東棟の地下一階だ。どうした? まさか怖じ気づいて、私を囮に逃げようなどと考えているのではあるまいな?』


 「バカ言え、その逆だ。こっちは……西棟の三階、連中の上を取っている。囮なら上の方が有利だろ。俺が連中の気を引くから、その隙に脱出して要塞に応援呼びに行け」


 『貴様……』

 何だかアンジーの声が震えているが、構ってる暇はない。


 「もし俺が帰ってこなかったら、権限はシィかシャイナに頼む」


 格好いいセリフを吐いてみるが、当然リスポン跳びできるので死ぬ心配はない。気分だ、気分って奴だよ。


 『な、なんという、なんという愛……わ、私は貴様を見くびっていたようだ。よろしい! 貴様の、いや貴殿の覚悟に応えよう! 貴殿が囮になってる間に、私が後ろから彼奴らを殲滅する!』


 ちょっと待ってくれ、アンジーさん。普通そこは「わかった、すぐ戻るから持ちこたえろ」とかいう場面じゃないか?

 何で涙声でモーレツに感動してるの? 感動スイッチおかしな位置についてないか?


 っていうか、アンタが戻ってくれないと、こっちがリスポン復帰で撤退する計画がおじゃんになるんですけど?


 『私は今、この荒野に神聖かつ崇高な愛の姿を目の当たりにしている! この感動、たぎる闘志に変えて、化け物共をかならず駆逐してみせるぞ!』


 何だかおかしな感動に打ち震えたまま、アンジーの無線からガチャガチャと足音が流れ出す。


 「動きやがった!」


 もう計画は台無し。

 後はアンジーが飛び出してくるまでに、こっちがガルガンちゃんの気を引くしかない。


 腰からアサルトライフルを抜き、柱から飛び出して射線を確保する。

 今までゆっくり動いてる分には大丈夫だったが、とっさに動いたことで人工筋肉があちこち変な伸び縮みを起こして、急に動き阻害してくる。


 「こなくそぉ!」

 俺は吠えながら、どうにかアサルトライフルを構える。


 何とかこらえているが、ときおり鎧が変な方向に跳ね上がろうとするので、狙いも何もあったもんじゃない。そのままデタラメに引き金を引けば、当然弾はあらぬ方向へすっ飛んでいく。


 数発が直下のガルちゃんに当たり、それ以外はまとめて地面を穿った。


 「イダ! ウデウデ!」

 「ダダガイダイズギー!」


 たちまち重機関銃による応戦が開始されるが、俺は間一髪後ろへ尻餅をつき、何とか無傷でやり過ごす。


 「うぉあぶねー! シャレになるかい!」


 しかしこれで、ターゲットは全てこっちが取った。後はしぶとく逃げ回りつつ適当に撃ちつつ、アンジーが全滅させるのを待てばいい。


 言うことを聞かないパワスケを引きずりながら、窓から顔を出しては射撃。終わったらしゃがんでズリズリ後退。これを四セットも繰り返すと、さすがのフッチーボディーにも限界がやってくる。


 「や、やっぱだめだ、こいつはコツがいる!」


 頭で考えて慎重に動くならまだしも、反射的な行動が必要だとアウトだ。

 関係ない所が動くせいで、ただ動きづらいよりも圧倒的に多くの体力を消費する。もう俺は汗だくだ。


 窓の外ではアンジーが活躍している。すでに二体を仕留め、こっちを撃とうと必死な三体目に弾を浴びせている最中だ。


 しかし一体、どこかに姿をくらましたっぽいんだが……


 「ゴゴガー! オマエノノウミゾグッデヤルー!」


 「出たぁぁぁ!?」


 登ってきてました。


 必死にアサルトライフルを向けようとする俺だが、やっぱり腕が変な方向へ持って行かれる。万事休す。

 でもあれか、こいつが最後の一体だし、アンジー一人でもなんとか……


 バギンッ!


 珍しい対物ライフル持ちのガルガンチュアが、俺に向けて弾丸を撃ち込む。

 弾体は装甲を貫通。鈍い衝撃を伴って弾丸が後ろへ抜けると、続いて俺は壁に叩き付けられる。


 おいおい、腹から下がないぞ俺。真っ二つですかい?

 まぁいい、これでシィの所へぶっ飛んで再生だ。



 ところが、そうはいかなかったんだ。

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