潜入アーミー・クラン 4
そして五分後。
「さて、そろそろ行きますかね」
文字通り重い腰を上げて、俺はまわりを見回した。
広場には案山子の群れ。外壁の窓には動くものひとつ無い。
「どこから探し……ん?」
広場の反対側に、のっそりと動く巨大な人影発見。並の人間より遙かに大きい。おそらくアンジーだろう。
隠れると言っておいて、隠れてあとでも尾けるつもりか。姑息だが嫌いじゃないぜ。
「だが、そうはイカ釣り漁船じゃん?」
俺はアサルトライフルを抜き、ゆっくり片膝立ちになって構える。
この五分間何もしてなかったわけじゃないのよ? どこの筋肉にパワスケが反応するのか、あっちこっち振り回して確かめたりしてたんですからね。
ま、おかげで少しは動けるようになってきたし、動けるならこの鎧は使い物になる。
ゲームのスペックで表すなら、素早さと外見以外の全てのパラメータにプラスが付く代物ですから。幸運以外は壊滅しているフッチーには、まさにもってこいだ。
「手始めに、初弾をヘッドショットでも……」
しっかりとライフルを肩と手で固定し、照星と照門を合わせて人影の頭に向ける。距離が百メートル以上離れているなら、多少は弾道曲線を考慮する必要がある。ついでに風もわかった方がいいが、こればっかりは鎧越しにはどうしようもない。
「アンジー覚悟!」
引き金にかけた指をやんわりと引き絞り、ここぞというタイミングで正確に力を込める。
生身で撃ったときとはまるで違う、跳ね上がりのほとんど無い、見事な発射姿勢。銃口で光の花が一瞬咲き、パカンッ、という音と弾丸が一瞬で相手に突き刺さった。
「グルガァァァァァァッ!」
遠くに聞こえる野太い悲鳴。
「あれ?」
アンジーって、鎧武者だけど声は顔と同じく可愛いぞ? 間違ってもあんな野太い悲鳴なんて上げませんよ? それ以前に、こんなへなちょこライフルでパワスケの兜に穴開くはず無いし。
「待てよ、パワスケには確か望遠レンズが」
今さらながらそんな機能を思い出し、俺は兜の左側面を探る。
返しの裏側に隠れていたスコープを発見し、引っぱり出してマスクの前に装着する。
暗視視界の中で、倒れ伏した巨人が大写しになった。
鎧の造作は、パワスケにしては尖っている。毛皮だのトゲだの満載の、いわゆる蛮族風だ。小脇には重機関銃を抱え、むき出しの皮膚には尖った鱗が……
「……もしかしてガルガンちゃん?」
その答えは、突然広場に響きわたった怒声で与えられた。
「ナガマ! ジンダ!」
「ドゴニイル! デデゴイグッデヤル!」
倒れたガルガンチュアに歩み寄る影が二つ。暗視視界にはっきりと浮かび上がる巨体もまたガルガンチュアだ。
「やべっ!」
俺はすぐに身を伏せ、匍匐前進で手近な入り口に潜り込んだ。
乱れた呼吸を苦労して整えながら、俺は心中で悪態をつく。
まさかACが標的用に、生きたガルガンチュアを飼ってるなんて事はないだろう。ということは、あれは外部から入ってきた野良ガルガンチュアだ。
ACの連中め、訓練場の警備はガバガバか! ザル警備は正義の味方の専売特許ってか?
見た限りでは、撃ち殺した奴を含めて3体。
ただし、慌てて入ったのでそれ以上の確認はできていない。周囲の状況は果てしなく不明に近く、あと何体敵がいるのか、それにアンジーがどこにいるのかもわからない。
さっきは運良くヘッドショットが入ったが、あれで死んでくれたのは奇跡に近い。向こうが警戒状態でなく、こちらが非発見状態であれば、最初の一撃にはスニークショットというボーナスダメージが上乗せされる。
クリティカルとヘッドショットのボーナスも合わせれば、確かにライフル弾一発でガルガンちゃんを昇天させられる計算だ。
が、もう使えない。
さっきので、ガルガンチュアは警戒状態に入っている。今さら二匹目のドジョウを狙っても、重機関銃で撃ち返されるのがオチだ。
「冗談じゃないぜアンジーさんよ……いきなり難易度ガバ上がりじゃないっすか」
こうなった以上は速やかにアンジーと合流して、迎撃なり撤退なりを決断する必要がある。
近づいてくる重い足音から逃げるように、俺は廃墟を奥へと進んだ。
「ひのふの、みの、よ……四体か」
何とか外壁を三階まで上がった俺は、枠だけ残ってガラスの溶け落ちた窓から、こっそり中庭をうかがう。
警戒状態で歩き回るガルガンチュアは四体。星明かりに照らされ、暗視視界におぼろな影になって映っている。
音を立てないように首を引っ込め、ライフルの弾倉と、予備のマガジンポケットを確認する。
「本体に二十九発、満タンのマガジン二個で六十発。合わせて八十八発」
弾数的には申し分ない、一体につき二十発は使える計算だ。
問題は、発見されると三体からの集中砲火を受けるため、おそらく十発も撃たない内に俺が死ぬということだ。死んでもリスポンすれば助かるが、その場合、おそらく俺は要塞内のシィの所に戻される。
つまり俺が死ぬと、アンジーがここに置き去りになる。
昼間の戦闘でもそうだったが、ACの武者は、圧倒的にガルガンチュアに対して不利だ。要塞から助けに戻るとしても、その間のアンジーの無事が保証できないのでは、先々に不安が残る。
合流して撤退するも、共闘して粉砕するも、全てはアンジーを見つけないと話にならない。俺は廃墟を右に左に確認するが、アンジーが潜んでそうな気配はない。
「また昼間みたいにお持ち帰りとか勘弁してくれよ」
慎重に、一歩ずつ鉄の足を動かして闇の中を進む。
隠身スキルがあってもパワスケを着れば多少発見されやすくなる。素早さ全滅のフッチーならなおさら被発見率は倍ドンだ。
パワスケに装備されたコンパスのおかげで、俺の視界の隅には東西南北が表示されていた。周囲の状況と照らし合わせると、おおよその状況が見て取れる。
訓練場は長方形の建物で、真ん中には巨大な中庭がある。
建物はおおむね南北に長く東西に短い。向きは多少ずれているが、ほぼ方位とピッタリの配置だ。
ガルガンちゃんご一行が進入してきたのは南側面、俺とアンジーの初期位置は北側面になる。
俺は現在、西側面の建物三階を南に移動中。ガルガンちゃんたちは相変わらず中庭をウロウロしている。
さて、アンジーはどこに隠れているのか。
アンジーの潜り込んだ入り口は東側で、こっちの建物とは対面になる。
慌てて潜り込んだのが逆側とはしくじった限りだが、対面とはいえ一番高いところを押さえているわけだから、どこか安全なところから確認すれば発見できるかも知れない。
実のところ、俺はパワスケについて全く素人ではない。
そりゃまぁ、実際に着て動かすのは初めてだが、画面越しなら愛すべき主力装備の一つだった。さっきの望遠スコープもそうだが、一通り機能は熟知している。
おまけにこの視界。
なんの因果かパワスケのゴーグルに表示されている視界は、ゲーム画面とそっくり同じレイアウトになっている。つまり並んでるアイコンを見れば、それが何の機能を指しているのかだいたいわかるわけだ。
……だからって、もう慢心はしないよ? だってほら、慢心したら即座に暴力的ツッコミで粉砕されるの、お約束になりつつあるし。
「勝てるかどうかは、やってみなけりゃわからん」
俺はそう嘯いて、西側面の一番南にある、壁面の崩れた所へと一歩ずつにじり寄っていった。




