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潜入アーミー・クラン 3


 中央要塞は核攻撃すらしのいだ伝説の建物だ。

 ま、核については超ポジティブシンキングなアメリカ産だけあって、その基本的な構造方針は以下のようになる。

 1、窓を作らない。2、外壁を分厚くする。3、できるだけ頑丈にする。


 そんな建物の居住空間がどうなるか、アンジーの部屋は如実にそれを教えてくれる。


 コンクリート打ちっ放しの壁と床、そこに走るぶっとい鉄の筋交い、超強力だけど全くおしゃれじゃない空調機。そして窓はない。

 俺、こんな部屋に暮らしたら三日でノイローゼになる自信あるわ。

 

 「ふむ、事情はわかった。つまりシィ殿のためには浄化施設の詳しい情報がいるのだな?」


 いかつい鉄鎧姿で椅子に座り、アンジーはふむふむと首を縦に振る。

 兜は外してもらえたが、やはり普段着代わりの鎧を脱ぐ気はないらしい。


 「そうそう、その通りなんだ」

 詳しい事情を省いた説明にも関わらず、何とかアンジーは納得してくれたようだ。やっぱあれだね、大切なのは腹を割った話し合いだよ。

 威圧外交とかとんでもない。


 アンジーは長い金髪を紐で結いながら、メガネの奥から俺に視線を向ける。


 「しかしフッチー殿。その情報はおいそれと渡せるようなものではない。いくら放棄したとはいえ、あの施設はACの管理下にあったもの。その情報を部外者に易々を開けると思うか?」


 「でも、シィの親父、ジョナサンには見せたんだろう?」


 髪をアップポニーに結び終わり、アンジーは、はぁ、とため息をついた。


 「あれはそもそも縁あってのこと。ジョナサン殿はショーグン・オリオンと、つまり父と面識があったし、なにより過去にACと繋がりがあった。全くの部外者ということではない」


 「だったらシィだって一緒だろ、ジョナサンの娘だ。部外者ってわけじゃない」


 俺の反論に、アンジーは苦い顔になる。


 「しかしACの一員でもなければ、過去に功のあった者でもない。それに私の救出に力を貸してくれたとはいえ、私個人の意見としてあの娘は好かん。阿呆呼ばわりは忘れていないぞ」


 妹のしでかした会話ミスが、ここに来て響いてこようとは。鼻を鳴らし、床をライフルのストックで鳴らすアンジーに、俺は心底頭を下げる。


 「その件については済まなかった」


 「よせ、親友とはいえ他人が頭を下げる事ではない。謝罪なら本人がするべきだ」


 暑苦しくて真面目。アンジーの人柄を形容するならそれで充分だ。

 プレイヤーとして付き合うなら、まぁ程度のいい協力者なんだが、こうして脇役の身分で会話すると会話が運びづらいったらありゃしない。


 「とはいえ、だ。そうまでして親友たるお前が頭を下げるのだ。おそらく、貴殿にとってよき友、いや特別な間柄なのだろう?」


 うっすらと笑ってみせるアンジーに、俺は一筋の希望を見た気がした。


 この世界に飛ばされた事情も、実は俺はプレイヤーの兄だというのも、ましてやこの世界はゲームですなどとも言えない俺に、何という神々しい勘違いの祝福か。

 この勘違い、ぜひとも利用させてもらう!


 「はい!」


 輝かしい作り笑いでそう答えた俺に、アンジーはにっこり笑って言う。

 「そうか。ではその愛、試させてもらうぞ?」


 「……は?」


 俺、もしかして何か、墓穴的なものをディギングしてません?




 「う、うごきずらひ」


 「文句を言うでない。せっかくハタモト用のパワスケを貸してやったのだ。感謝せい」


 横で完全武装したアンジーが鎧を鳴らして笑う。

 片や俺は立っているのがやっとだ。パワスケの人工筋肉に押されて、膝が小刻みに震えている。

 感覚的に言うと、まっすぐ立とうとする度に膝カックンを食らってる状態だ。


 えっと、状況を確認しよう。

 ここは要塞外縁部、外壁の一段目だ。

 分かりやすく言うと、六段あるコンクリートピラミッドの一番下の段だ。俺はパワスケを着て、その上に立っている。


 目の前には都市廃墟群。

 今はまだ夜中なので本来なら真っ暗なはずだが、パワスケの暗視ゴーグルのおかげで、薄暗いグリーンで視界が照らされている感じだ。


 「お主の愛はその程度か? 気合いだけで鎧を御してみいや」


 「無茶いうな!」


 補足しとくが、パワスケの制御には訓練がいる。

 設定上の話だが、こいつは神経の電流を読んで人工筋肉を操る仕掛けになっている。だから初心者がほいほい着られる代物じゃない。

 プレイヤーとして着る場合でも、ACと仲良くなって特殊トレーニングを受けてからでないと着られない。


 それをいきなり着ることになれば、それはもう連続で膝カックンでも仕方のない話だ。


 「このままじゃ動けねぇ!」


 「やれやれ、その調子では到底、情報は渡せんなぁ」

 横で腕を組むアンジーの鎧。首の動きがどう考えても笑っている。


 アンジーが上位ユーザー権限と引き替えに、俺に要求したもの。

 それはすなわち、俺の身柄だった。といっても、無理やりACに入隊させられたわけじゃない。いや、もしかしたらそうなるかも知れないが。


 とにかく彼女の要求は、俺が何の準備もなしに課題をパスすれば、それに免じて権限をくれてやろうというものだった。

 もし失敗したら、権限がもらえないばかりか俺の身柄をACに、というかアンジーに委ねるという罰則付きだ。


 「古い記録によるなら、若い武者は愛しき姫のために竜の鱗を取ってきたという。シィ殿を思う貴様の心があれば、そのくらいは容易くできよう」


 「どこの古い記録だよそれ! アメリカ陸軍のでも、日本の昔話でもねぇだろ!」


 「その口のきき方、少しは鎧に慣れたと見える。では行こうか」


 涼しくそう言って、外壁をひょいひょい下るアンジーの後ろを、俺は滑落寸前の危なっかしい足どりで付いていく。


 ちなみにシャイナはへそを曲げて不参加で、ヒャハ子は寝ている。ま、仮に同行するといっても、アンジーが認めないだろう。


 「この先の古いビル、そこが新兵の訓練場だ」


 「俺は、そこで何を、すればいいんだ?」


 全く意のままにならない鉄の大鎧に苦労しながら、俺は外壁を降り、瓦礫を押しのけて歩くアンジーに続く。


 「本来ならば体力、気力などを徹底的に調べるところだが、この時間ではそれはできまい。代わりに訓練場でちょっとした遊びに付き合ってもらう」


 「遊び?」


 「私からこの旗を奪え」

 そう言ってアンジーは背中の武器ラックから簡素な白旗を取り出す。


 「二時間以内に逃げ回る私からこいつを奪えば、貴様の勝ちだ。だができなければ、貴様には私の配下としてACに入ってもらう。もちろん、一から新兵としてしごいてやるから覚悟しろ」


 「マジですか?」


 クワガタの付いた兜がふり返る。そしていかにも真面目な声でひと言。

 「マジだ」



 ガチャギチョと鎧を鳴らして俺とアンジーは廃墟群の小道を進み、そこへ到達した。


 四方を壁に囲まれた、サッカーグラウンドほどの空き地。

 暗視の効いたグリーン視界では、壁には無数の窓が並び、広場に面した入り口も複数見える。どうやら昔は何かの建物の中庭だったらしい。広場の中央には鉄の骨組みだけのピラミッド構造物も見える。


 広場のあちこちに、ねじれた鉄骨で組まれた案山子が立ち、その手にはサビの浮いた缶が乗せられている。射撃訓練の標的に違いない。


 「さて、ここが新兵の訓練場だ」


 「この案山子の中で鬼ごっこしようってか?」


 「いや、ここ全体を使うのだ」


 そう言ってアンジーが、ライフルの銃口で四方の壁を指す。どうやら広場を囲む建物も、訓練場の一部らしい。


 「ルールを今一度説明してやる。貴様はここに立ち、五分待て。その間に私は訓練場のどこかに潜む。貴様が二時間以内に私を発見し、旗を奪えればよし、奪えなければ貴様の身柄はもらい受ける。奪うための手段は不問。腰のものをどう使おうが自由だ」


 腰のもの、つまり腰の武器ラックに懸架されたライフルは好きに使え、と。

 事前にチェックした限りでは、弾は実弾が装填されていた。アサルトライフル程度ならパワスケの装甲は貫通できない。しかし正面から当たれば足止め程度にはなる。


 「異存あるまいな?」


 「あるって言っても、聞いちゃくれないんだよな?」


 「もちろんだ」


 なら聞かないでくださいよ。


 「では勝負と行こう。これから五分、その場を動くでないぞ!」


 「はいよ」


 俺の返事を待つことなく、アンジーの鎧は闇の中を滑るように遠ざかる。

 そこだけ特殊部隊を思わせる動きで外壁の入り口に近づき、そっと入りこんだと思えばすぐに闇に同化した。


 「なるようになれ……まったく」


 あまりの展開に投げやりなつぶやきを上げて、俺はその場にしゃがみ込む。

 身体に合っていないパワスケが、妙に重く感じた。

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