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潜入アーミー・クラン 2

 「フォートコア、キャピタルプール水質浄化施設について知りたい」


 『かしこまりました。ではあなたを不法閲覧者と認識し、十秒後にセキュリティを起動いたします』


 「ちょっと待て!」


 『はい、では起動までの時間を三十秒延長させていただきます。残り三十八秒』

 そのままカウントダウンを続けるフォートコア。


 俺はあわててシャイナをふり返る。

 「どうなってんの!?」


 「マズッたに決まってるでしょ! 今すぐ要求を撤回しないと、天井のタレットガンが火を吹くわ!」


 「マジかよ……フォートコア、要求を撤回する!」


 『かしこまりました、閲覧要求を無効にします。……フォートコア2974の音声ガイダンスが、ご用件をうかがいます』


 俺はほっと息をついた。

 横のシャイナは頭を抱え「だからこいつと話したくないのよ」とつぶやいている。


 「まさか、ここまでとは思わんかったわい」

 俺は命令待ちを続けるフォートコアを見あげる。


 このフォートコア、いわゆる人工知能付きスーパーコンピューターなんだが、普通の人工知能とはちょいと勝手が違う。

 自衛用の機関銃座、タレットガンがついてる時点で充分変なのだが、それ以上にこいつ、人工知能がまったく知能してないんだ。


 もし普通のパソコンでも、権限のない操作をしようとしたらエラーメッセージの一つは出るだろ?

 ところが、短絡思考気味のこいつにはそれがない。エラー即違反と解釈してズダダダ、というわけだ。


 こいつから欲しい情報を得たいなら直球は駄目だ。ひたすら回り込んで、こっちが知能を使って情報を引き出すしかない。

 こっちに知能を使わせる人工知能なんて、ちょっとした欠陥品だな。


 「どうするのフチオミ君。あきらめる?」


 「バカ言え、このくらい何とかしてやる」

 俺は数秒ほど黙って策を巡らせる。


 直球で無理なら回り道。

 とりあえずファイルを見たいだの、○○について知りたいだのはNGだ。まずはアクセス権を得ないと、話が先に進まない。


 「フォートコア、キャピタルプール水質浄化施設の情報にアクセスする権限をくれ」


 『できません。ゲストユーザーへ上位の権限を付与できません』


 「ではゲストを解除して、俺をユーザーに登録しろ」


 『できません。新規の登録には上位ユーザーによる手続きが必要です』


 「そうかい、じゃあ上位ユーザーが誰か教えてくれ」


 『かしこまりました。ではあなたを不法閲覧者と認識し、十秒後に……』


 「要求を撤回!」


 俺とシャイナは揃って三歩ほど下がり、顔をつきあわせる。


 「意外と上手くいかんな」


 「さっき自信満々で任せなさいとか言ってたじゃない。どういう勝算があったわけ?」


 「いやまぁ、ゲームのダイアログ(システム会話)じゃないんだから、頭絞ればなんとかなるかなぁって……」


 「呆れた。フチオミ君? この石頭は、本当に石頭なのよ! 真っ当に会話なんてできないわ。イェスノーぐらいが関の山よ」


 シャイナの言葉に、俺の頭にピンと来るものがあった。


 「イェス、ノー……それ使えるぜ」


 「はい?」


 怪訝な顔のシャイナを残し、俺は再びコンソールへ向かう。

 さて、フォートコアちゃんよ、今度はさっきのようにはいかねぇぞ?


 「フォートコア、俺の質問に答えられるか?」


 『はい。可能な範囲でお答えします』


 「よろしい、なら上位ユーザーの中に女性はいるか?」


 『はい、おります』


 「その中に、普段メガネをかけている者は?」


 『はい、おります』


 「さらにその中に、ソバカスが浮いて、丸顔の者は?」


 『はい、おります』


 「今まで挙げた特徴に該当する上位ユーザーは一名か?」


 『はい、該当するユーザーは一名です』


 「そのユーザーは過去百時間以内にここに来たことがあるか?」


 『はい、あります』


 「ありがとう、また来るぜ」


 『お待ちしております』

 そう言ってフォートコアが再び待機モードに入る。


 俺はニヤッと笑ってシャイナを見た。

 「ということだ」


 「どういう事なの? 説明をお願いするわ」


 「簡単な話だよ。上位ユーザーを特定するのに、名前聞く必要なんかないのさ」


 俺はシャイナを引っ張って部屋を出ながら、小声で説明する。


 「二十の質問って遊びがあるだろ? 回答者の思い描く人物について、質問者が二十の質問をして、回答者はそれにイェス、ノーで答える。人物を当てられたら質問者の勝ちだ」


 「それが何だって言うの?」


 「さっきの特徴を思い出せよ。女性、メガネ着用、ソバカスで丸顔、四日以内に確実にここに来たことがある。そんなの一人しかいないだろ?」


 ややあって、シャイナがポツリとその人物の名を告げる。

 「……アンジー?」


 階段に突き当たる所で、俺はふり返ってシャイナに正解だとうなずいた。


 「あいつはハタモト……将校だからな、ここのデータベースにしょっちゅう用事がある一人だ」


 「ちょっと待って、それが本当にアンジーだって確証は?」


 「ここさ」

 俺は自分のおでこを、シャイナに示す。


 「このゲームの登場人物はおおむね憶えてる。少なくともこの要塞の中に、アンジーと特徴の一致する奴はいない」


 呆れたのか感心したのか、シャイナは腰に手を当てて俺を見る。


 「そこまで断言するなら信じるわ。でも、どうやってアンジーに協力させる気?」


 「……そこまでは考えてなかった」

 シャイナの鉄拳が神速で俺の腹部にめり込み、俺は悶絶した。


 「この大馬鹿ッ!」




 つーことで、俺はアンジーの部屋の前にいる。


 自分の無策が招いた事とはいえ、シャイナに「説得できるもんならしてみなさい」と冷たく突き放され、孤立無援の説得任務を仰せつかったわけだ。

 「ちくしょう、憶えてろゾンビ女」


 最悪、あいつの馬鹿力を頼りに威圧外交としゃれ込むつもりが、対話路線への切り替えである。早くも交渉決裂の臭いがしてきた。


 とはいえ、こうしていつまでも部屋の前に突っ立ってるわけにもいくまい。

 冷たい鉄のドアをいくら睨んだって、協力が得られるでもなし。


 「アンジー、じゃないアンジェラ・オリオン閣下、いらっしゃいます?」


 俺のノックに、部屋の中から返事がある。


 「失礼しまー……うをっ!」

 ドアを開けたとたん、俺はびたっと一歩下がった。


 そりゃ誰だって驚くさ。マスクこそ開いてるとはいえ、身の丈二メートルの鉄武者が目の前に立ちはだかってたら無理はない。


 ちなみにACの連中、特に実戦部隊はパワスケが普段着みたいなもんだ。

 見た目には暑苦しいが、設定上スーツ内は冷暖房完備で至極快適なんだそうだ。汗の臭いとかどうなってんだ?


 「なんだ、使いの小姓かと思えば、貴様……いや貴殿は確かシィ殿の」


 胡散臭そうにこちらを見るアンジーに、俺は先手を取って頭を下げる。

 「仲間だ。フリッツ・デロリアン、フッチーと呼んでくれ」


 「ふむ、フッチー殿か。しかし、このような夜更けに何の用か?」


 「実は折り入って相談したいことがある。中に入ってもいいかな?」


 アンジーはしばらく俺を凝視していたが、ややあってガチャリと半歩引いて、鉄の平手で俺に部屋を示す。


 「よかろう、入るがよい」


 「かたじけない」


 いつのまにかアンジーの口調に釣られてサムライ口調になりながら、俺は彼女の部屋に踏み入った。



 俺が自分の無策を嘆くのは、それから五分後のことだ。

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