潜入アーミー・クラン 1
「人後を話す、どっからどう見ても長身筋肉美女のインテリっぽいガルガンチュア?」
「そう、心当たり無い?」
そう言った俺を、シャイナは殴り倒して足蹴にする。
「寝言は寝てから言いなさい、フチオミ君。 もしかして頭でも打ったの?」
「……今な」
ここは中央要塞内、宿舎の一室だ。
二段ベッドが十基ぐらい並んだ薄暗い部屋で、俺は今床に突っ伏してシャイナに踏まれている。
一時はどうなるかと思ったが、アンジー救出で協力した事が功を奏し、俺たちは一応、ACに客として迎えられた。
ひとまずはシナリオ通りだ。
シィはいま、別室でメインシナリオ関係の会話の最中。
俺たち、つまり俺とシャイナとヒャハ子は待機中だ。
「ひゃっはぁ、ひゃはひゃはぁぁ?」
(あたしは、心当たり無いよ?)
二段ベッドの上段に寝そべり、銃でだだだだ~などと遊びながらヒャハ子が答える。
「そうね、私もそんなの見たこと無いわ。大方死にかけて夢でも見たんじゃないの?」
「これが夢かよ」
俺は袖をまくり、回復薬が打たれたあとを示した。極太の注射針を刺された部分が、しっかりとミミズ腫れになっている。
「それも自分でやったんじゃないの?」
「爆風と破片で全身ガタボロになった状態で、どうやって自分に注射を打てと?」
「私は打てるわ」
「ひゃっはー!」
(あたしもー!)
ああそうですか。俺だけ軟弱ですか。
「もういい、知らん」
俺はいじけて、ベッドに横になる。
何だかこいつらと話していると、どんどん自分の見たことが信じられなくなっていく。
「つーことで、外出許可となりました。明日の朝ここに集合のこと。あたしは疲れたので寝る」
それだけ言ってシィは二段ベッドの上段へ上がり、一秒で爆睡した。
しばらくして俺は立ち上がり、椅子に腰かけて思案顔のシャイナをに手招きする。
「なに?」
「いくぞ、ここに来た目的を果たす」
「……はいはーい」
高いびきのお子ちゃま二人を残し、俺たちは部屋を出た。
中央要塞は戦前の施設だ。
その昔、まだアメリカ合衆国があった時代には、ここは陸軍の総合発令所として使われていたらしい。
建物の上層部は一度廃墟になったあとに再整備されているが、地下を含めたいくつかの施設は戦前のまま運用されている。
違う点といえば、主がアメリカ陸軍からACに変わったぐらいだな。
「で、どこに行くわけ?」
「とりあえずデータベース室だ。例の装置の情報と、本来の設計図が欲しい」
「そんなものがあるの?」
「むしろそれがなきゃ、主人公……あんたの親父がここに来る理由がねぇ」
「なるほど。その通りね」
真夜中、建物下層へ通じるパイプだらけの通路を、抜き足差し足で進む俺とシャイナ。
一応ACから仲間扱いは受けているが、まだまだ客人の身、迂闊な場面を見られたくはない。
俺たちが目指しているのは、コンクリートピラミッドの基礎近く、データベース室と呼ばれるフロアだ。
そこには戦前の情報が記録された、馬鹿でかいコンピューターが置いてある。
メインシナリオの筋書きでは、ACの一員と面識のあった主人公の父親がここを訪れ、コンピュータから昔の水質浄化装置の情報を手に入れた事になっている。
あ、ちなみにその父親自身はもうここにはいないぞ。
メインシナリオに則り、もうここを旅立った。どこに行ったのかは知っているが、すぐに追いかけても感動の再会とはならない。
そのはずだ。
「普通のプレイ、つまりお前の前世とシィの今、どちらでも、ここでは親父の情報以外は手に入らない。そうだよな?」
「そうね。データーベースにはロックがかかってたし、私もそれ以上興味なかったからスルーしたわ」
「そうだよな、それがゲームの限界だ。でもちょいと考えてみてくれ、ロックのかかった情報があるとして、現実的にそれが無いはずがあるか?」
前を歩くシャイナが、立ち止まって怪訝な顔をする。
「どういう事? フチオミ君の言葉の意味がわからないわ」
「まぁまぁ、歩きながら喋ろうぜ」
俺はシャイナの背中を押して、コソコソムービングを再開する。俺がいるのでスニークにはならないがな。
「つまりだな、俺が言いたいのはこういう事だ。
ゲームのデータとしてはアクセス禁止、存在しないデータがあるとする。しかしそのゲームが現実のようなフリをしているこの状況で、はたしてそのデータが存在しないなんて事があるのか、だ」
「まさか……あるって言うの?」
「そっちの方が自然だ。ま、俺も確証はないぜ。そうだったらいいな、ぐらいだよ」
肩をすくめる俺を、シャイナは肩越しに見やって固い息を吐く。
「……もしあるとして、どうやって見る気なのかしら? ロックがかかってるのよ?」
「親父は見たんだろ? って事は、誰かがロックの解除方法を知ってるか、どこかに解除するための何かがある。というのが現実的な推測になるぜ」
「まさか真夜中に連れ出した理由って、それを探すためなの?」
「大当たりだ」
通路が階段に突き当たる。この下がデータベース室になる。
俺はシャイナの前に出て、人気がないことを確認してから階段へ踏み出す。そしてシャイナをふり返ってニヤリと笑ってみせる。
「ま、どのみちここで手がかりが無くても、他にも考え中の策は残ってるさ。ダメ元で、気楽に行こうぜ」
「右よし、左よし。当直無し、人影無し」
「ほんとに誰もいないわ」
階段を下りきった俺たちは、扉を開けてそっと中をうかがう。
八メートル四方の黒い立方体を納めた巨大な空間が広がり、その中には誰もいなかった。
かすかにコンピューターの作動するカチカチという音以外は、物音ひとつしない。
「にしても、でっけー箱だねぇ」
「フォートコア。この世界に三台残ったスーパーコンピューターの一つよ。って、知ってるんでしょう?」
「もちろん。ついでにMODが有効な今となっては三台どころか六台あるぜ。これ豆知識な」
にへらっと笑った俺の後頭部に、シャイナの静音チョップが炸裂する。
「こんな欠陥コンピューター、どこの馬鹿が三台も追加したわけ? プレイヤーって、もしかして揃いも揃って馬鹿ばかりなのかしら」
「いつっ……この素敵な外観、コンピューターとしての存在、これに魅力を感じる男心は、女ゾンビにゃわかるまいよ」
「わかりたくもないわ。さっさと済ませましょう」
俺たちは室内に入り、チカチカと色とりどりのライトを点滅させる黒い立方体、フォートコアの正面に寄る。
そこにテーブルがあり、上にはこれまたレトロなブラウン管モニターと、ごっついキーボード、そして何やらテープリールがはまった機械やプリンターなんかが所狭しと置かれている。
「さてとフォートコアちゃん。お目覚めの時間ですよ」
俺はキーボードに赤く光るパワースイッチを押しこむ。後ろでシャイナが床をイライラと踏みならしている。
「フチオミ君に任せるわ。こいつと話したくないもの」
「へっ、まかせなさいな」
何度かカチカチブンブン音がして、画面に緑の文字列がだーっと映し出される。文字が一気にスクロールしたかと思ったら、だしぬけに画面はブラックアウトした。
そして黒い箱が、女性ボイスで語り出した。
『ようこそ、ゲストユーザー。フォートコア2974の音声ガイダンスが、ご用件をうかがいます』




