ファーザーをさがせ END
さて、どうしたもんか。
とりあえず、さっき説明し損なったことをザラザラ説明しておこう。
まずは、榴弾砲だ。あれは簡単、ガルガンチュアたちがぶち込んできたもんだ。歓迎セレモニーの合図だな。
んでもって歓迎セレモニーってのは、目下進行中の大規模戦闘のことだ。
俺の眼下に広がる瓦礫の広場には、ガルガンチュアと鋼鉄の鎧武者が入り乱れて大合戦をやっている。まぁ派手だぜ。
あっちこっちで機関砲弾が飛び交い、流弾が炸裂し、手足が飛ぶわ血しぶき散らすわ、ちょっとしたゴアの宴だな。
そうそう、鋼鉄の鎧武者。
あいつらの正式名称は〈アーミー・クラン〉。略してAC。……広告とは関係ないぜ。
前ちろっと話したが、アメリカ陸軍のなれの果てだ。最終戦争後に生き残った兵士たちを、日本かぶれの将軍がまとめ上げて作った軍事組織だ。
一応、行動理念があって、最終的には過去の技術を復活させて人類、いやアメリカを復興させたいと願っているらしい。
ただし、ACはちょいとばかり軍隊とサムライをこじらせ過ぎてるんだ。つまり上から下までガッチリの階級制と、死ぬことを良しとする特攻精神が特徴でね。高潔になろうとしてそっち突っ込んでしまうあたり、誤解もはなはだしいってもんだ。
その結果がほれ、この有様だ。
「名誉のために!」
雄叫びを上げて、ガトリング砲を手に鉄武者が突っ込んでいく。
「オマエノノウミソクッテヤル!」
でもって、ガルガンちゃん数人に囲まれ、あえなく戦死、と。さっきから戦闘の大部分がこの調子だ。
ちなみにあの鎧。あれは一種のパワードスーツ、強化外骨格だ。
この世界じゃパワースケルトン、略してパワスケって呼ばれている。中身の人間は普通でも、あれを着れば百人力ってわけだ。
だがなぁ、正面からガルガンちゃんにガチ合うには、ちょっとばっかり分が悪い。重機関銃四丁の集中砲火であえなく沈む程度の防御力じゃ、正面切っての戦闘は無理だ。
巻き込まれなくて正解だね。
俺が今いるのは、広場の西、崩れかけたビルの上だ。
榴弾砲の爆発でぼろくそになり、運良くここに死体が引っかかったので、普段は入れない所にリスポンできた。
おかげでこうして、クラッカー片手に高みの見物をしゃれ込んでいる。
シィをはじめとする仲間三人は、現在俺のいるビルの一階で篭城中。さすがにガルガンちゃんの数が多くて、攻勢に出られない模様だ。
おっと、俺に加勢に行けとか言わないでくれよ?
俺はフッチーだ。幸運以外に取り柄のない脇役だ。下に降りていったって、三秒と立たずハチの巣になるのは目に見えてる。
ほら、出る杭は何とやらって言うだろ。俺はこうして隠れてるのがお似合いの……
「ヅガマエダー!」
ビルの下で動きがあったようだ。
例のメガネッ娘AC、アンジーっていう名の、わりと重要なNPCなんだが、そいつがガルガンちゃんに抱えられてお持ち帰りされかけている。
シィは……ガルガンちゃんたち相手にするので精一杯か。ヒャハ子は姿が見えないし、シャイナも階段まで追いつめられてる。
あのアンジー、今後のシナリオに関わるNPCなので、助けておいて損はない。もちろん切っても突いても死なないシナリオNPCだから命の危険はないが……お持ち帰りは話が別だ。
例のMODが変なことをしでかすのは、ヒャッハーマーケットで証明済みだしな。
「出る杭は打たれる、出過ぎるガルガンちゃんは……」
ライフルを構えてゆっくり狙いを付ける。
こいつは狙撃銃じゃないし、俺も狙撃なんて夢のまた夢だが、一発ぐらい当てて、気をそらすぐらいはできるだろう。
「……撃たれる!」
タン! とライフルが吠え、弾はお持ち帰りガルガンちゃん右肩にヒットする。
後はこの調子で、もう何発か当ててシィたちのところへ誘導すればオッケー。
「アゾゴニイルゾ!」
「ウデウデ!」
ごめん、付近のガルガンちゃん全部こっち向いたわ。
やっぱ出るフッチーはあれだね。
足下にコロロン、とレバーのない手榴弾。
「撃たれるんですね!?」
手榴弾が破裂し、俺は破片でハチの巣になりながら、ビルの屋上から吹き飛んだ。
アイキャンフライ、ウィズハンドグレネード。
「オイ、ゴイヅマダイギデル!」
「ヅレデゲ!」
手榴弾の爆風プラス破片、ついでにビルからの落下ダメージ。これで死なない俺って、運がいいやら悪いやら。
昨日のガルガンちゃん撃破の経験値のおかげか、ちょいとヒットポイントに余裕があったみたいだ。
だからって無事じゃねぇよ。ちくしょう!
残りヒットポイントはおそらく一桁。
厄介なのが全身に食らった破片と、落下で負った骨折だ。両脚が熱いわ痛いわで言うこと聞かないし、全身から血が溢れて止まらない。爆風に叩かれた筋肉はグズグズで、はっきり言って虫の息だ。
もういっそ殺してくれ。そしたら全快状態で復活できる。
そんな願いもむなしく、俺の両脚をつかんだガルガンチュアは、ちょっと離れたビルの残骸まで俺を引っ張っていく。
惜しくもギリギリ呼び戻し範囲の内側だ。
あと数メートルでシィの所に戻れるってのに、ガルガンチュアは俺をドサリと床へ放り出した。
ここはたぶん、ガルガンチュアの前線拠点だ。
設定の話になるが、ガルガンチュアは生物兵器、この場合ヤバイ細菌と思ってくれ、に感染、寄生された人間の変異体だ。
あいつらは捕まえてきた人間に細菌を感染させることで、仲間を増やしている。ゲームでガルガンちゃんを相手にしていると、時たま捕虜に出くわすことがあるんだが、これはその設定の再現だ。
で、要は俺、その捕虜になっちゃったわけだな。
プレーヤーとして見ている限りは、捕虜がガルガンチュアになるシーンは出てこない。が、俺は今NPCだ。プレイヤーとしての常識が通じるかどうかは怪しい。
ガルガンチュアになったフッチー……それはそれで強そうだが、自分がなると考えると願い下げだな。
マイシスター、早く来てくれ。お兄ちゃん怪物になっちゃう。
と、そこへ別のガルガンチュアがやってくる。担いでいるのは……アンジーだな。
「ナガマヤラレダ! アダラジイナガマイル!」
「ゴッヂジニガゲ、ゾッヂノオンナガラヤロウ!」
ガルガンちゃんたちが声をかけ合い、アンジーを暗がりに寝かせる。
今のって「こっち死にかけ、そっちの女からやろう」って事ですよね? てことはまさか?
俺が心配したとたん、ガリバギゴキッと破砕音を立てて、アンジーからパワスケが引き剥かれる。
ああやっぱり。青少年によろしくない展開が待ってたよ。
さながら伊勢エビの皮を剥くがごとく、ごつい鎧の中からアンジーが引きずり出される。
白いインナースーツが汗に濡れ、身体にピッタリ貼りつきとても艶めかしい。気を失ったメガネッ娘の、筋肉質かつ豊満な身体に緑の手が伸び、薄皮を剥くようにしてインナースーツを破り裂いていく。
ここで俺がどうこうできればいいんだが、数値上はどうあれ痛覚はどうしようもない。身体は言うことを聞きそうになく、そもそも武器もナイフ一丁。
精神的にも、眼福とか言える余裕はない。
とうとう紐ビキニクラスまで布地の減ったインナースーツ。むき出しの肌を撫でながら、一匹のガルガンチュアが吠える。
「オレガヤル! ナガシコム!」
それに対し、もう一方が牙を剥く。
「チガウ! オレヤル! ブチコンデヤル!」
力の抜けた人形のような、しかも全裸寸前のアンジーを巡って、二匹のガルガンチュアが取り合いを演じる。
たわわな膨らみや、みずみずしい太ももが暗がりに揺れ、はっきり言ってあれだ、超エロい。
まさかこのまま、俺ですらまだ到達していない、成人年齢向けの内容が展開されたりはしませんよね?
シィ早く来いよ。乙女のピンチだぞ、主人公なら助けに来るところだろう?
とそこへ、やたらのんびりとした声がかかった。
「失礼するよ」
ビルの裏口から、瓦礫を押しのけて長身の人物がヒョイっと入ってくる。緑の皮膚、装甲板のように尖った鱗、ガルガンチュアだ。
だが何かおかしい。
ガルガンチュアといえば蛮族アーマーが基本なのに、そいつは緑のアーミーパンツにブーツを履き、なぜかボロボロの白衣を着ている。
おまけにメガネもかけてる。
プロポーションもおかしい。筋肉は異常と呼べるほど発達してないし、何よりその、合わせていない白衣の間から覗くのは、くっきりとした胸の谷間だ。
筋肉ではない豊満な隆起、スッキリ切れ長の顔、こんなはっきりとした女性型ガルガンチュアなんて、MODでもいないぞ。
その女ガルガンは俺、アンジー、そしてポカンとする同族二匹を無視して、部屋の隅に置いてある、弾薬や食料の前にかがみこむ。
「ヂョッドマデ! オマエ、ナニジデル!」
「いや、気にしないでくれ……単なる泥棒だ」
立ち上がり威嚇するガルガンチュアに、女ガルガンは背を向けたまま物資をがさごそと漁り続ける。
「ろくなものがないな……おお、医薬品じゃないか。助かるね」
物資からいくつかの包みを手にし、立ち去ろうとする女ガルガン。
それを慌ててドスドスとガルガンチュアが遮る。
「マデ! ゾレナガマノモノ! ガッデニドルナ!」
「言ったじゃないか泥棒だって。もらっていくから、そこを通して欲しい」
「ゴドワル!」
ガルガンチュアが掴みかかろうと両手を振り上げ、そして止まる。その胸に深々と女ガルガンの抜き手が刺さっていた。
正確に心臓を貫く一撃、しかも早い。
「ゴ、ブッ」
「おっと失礼、これでは泥棒ではなく強盗だな」
腕がずるりと引き抜かれ、ガルガンチュアが崩れ落ちる。
メガネの下から底冷えのする視線をこちらに向け、女ガルガンが牙を剥いた。
「邪魔をしないなら、見逃してやるがどうする? 言っておくが、私は同族には容赦しないことにしているんだ」
「ゴ、ゴ、ゴワイヨーガアヂャン!」
野太い悲鳴を上げ、アンジーを放り出し、残ったガルガンチュアは一目散に逃走した。
「ふん、弱いものいじめは得意なくせにな。ま、人間なんてそんなものか……ん?」
女ガルガンが、虫の息で震える俺に目を留める。
「君は……君、大丈夫かい?」
「こ、れが、大丈夫に、見えるかよ?」
「見えんな。どれ」
俺の横にしゃがみ、女ガルガンが目を細める。
「ひどい外傷だがまだ助かる。戦前の治療薬は……あるな」
手元の包みがから赤く輝く注射、回復薬を取り出し、女ガルガンは俺の腕に打つ。
俺の心臓が一気に跳ね回り、頭がガンガンと痛みだした。回復薬って、こんなきつい代物だったのか。
「数分で収まる。それまでは辛抱しろ」
次にそいつは、アンジーの横に行く。
「……まだ注入されてないな。気を失ってるだけか」
女ガルガンはとって返して物資を漁り、適当な武器と弾薬を見繕って俺の横に置く。
「泥棒は、じゃないな。強盗は退散させてもらうが、身の守り方はわかるな?」
俺は体中を走る不快感に声も出せず、ただ数度うなずいただけだ。
「よろしい。外の戦闘も落ちついてきている。すぐに助けが来るだろう。ではこれで」
来たときと同じく、そのガルガンチュアは裏口に向かう。俺は精いっぱい声を振り絞って、そいつに訊ねた。
「あ、んた、名前は?」
緑の美人はふり返り、牙をむき出しにして笑う。
「訳あって名は語れん。どうしても呼びたければ教授、プロフェッサーと呼んでくれ。といっても、もう会うことも無かろうがな」
そう言って、そいつは裏口を抜け廃墟へ消えた。
十数分後。
シィたちとACが助けに来て、俺たちは救助された。
はいどうも、第四話ここまでとなります。
引きが付いてしまってすみません。
路線修正の結果、ちょっとコメディを仕込む場所が減ってしまい。看板に何とやら、という状態になっています。
次回はさらにシリアスが入る予定なので、ジャンルをファンタジーに戻そうか思案中ですが、悩む時間はあまりなさそうです。どうでしょう?
ご感想、評価、お叱りなど、何でもお待ちいたしております。
それではまた、次の話でお会いしましょう。




