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ファーザーをさがせ 6


 あれから三時間。

 俺はちょっとした混乱状態にある。

 

 現在位置はメトロ47駅。目的地である中央要塞は目と鼻の先だ。


 ここは初期の激戦区の一つで、駅構内はガルガンチュアとゾンビの連合軍によって占拠されている。

 正面突破はけっこう難しく、俺の好きなプレイスタイルなら、メトロトンネルからの狙撃が定番だ。



 それがどうだい、この有様。


 本来なら猛威を振るうべき人型モンスター連合軍は、我が三英傑の前に総崩れとなっていた。


 手前からヒャハ子、見た目に似合わぬ知的な立ち回りで、ゾンビもガルガンちゃんも軽くあしらっている。

 その次にシャイナ、こいつに説明は不要だな。いつもながらの一人ジェノサイダー全開だ。


 そして一番奥、つまり三人の先陣を切って暴れ回るのは……シィだ。

 片手にオートショットガン、もう片手に哀れなガルガンちゃんから奪った重機関銃を抱え、近寄る者に片っ端から弾丸を浴びせてやがる。

 それも、ただ暴れてるんじゃない。

 巧みに両手を使い分け、それぞれ弾を見事に節約していらっしゃる。

 立ち回りも見事だ。ある時は引きつけ、ある時は大胆に距離を取り、優先的に厄介な相手を潰し、ザコはまとめてなぎ払う。

 奴を狙った弾はほとんど障害物に阻まれ、投げられた手榴弾は全て空中で迎撃される。


 あいつ……俺なんかよりよっぽどFPS上手じゃね?



 俺はというと、荷物番がてら、フラフラ逃げてくる哀れな敗残兵にとどめを刺す係だ。


 「イダイヨーガアヂャン!」

 半泣きで逃走する手負いのガルガンちゃん発見。


 「オラ」

 もう気合いも不用で、とにかく胴体に当てればいい。

 もう九分九厘ヒットポイント削れてるから。……ああ、死んだよ。


 そういやヒャッハーマーケットの時も思ったっけ。

 こっちが悪人じみてる。っていうか、もろ悪人の所行だ。


 ここにつくまでの間に、俺とシャイナである程度シィの腕試しをして、その上でのこの殲滅戦だ。

 腕試しにとぶつけたゾンビ十体を、五秒かからずにあっさり屠りやがった時には、俺どころかシャイナまでが舌を巻いたよ。


 「ちょっと、今まで見たことがない戦いだったわ」


 ですって。そりゃ俺も一緒だ。



 とにかくものの数分で、メトロ47は安全地帯となった。

 シィのポケット、それに俺たち三人のリュックには、精一杯持てるだけの戦利品が詰め込まれている。

 あれだ、五条大橋の弁慶が三人いると思ってくれ。

 ただし、持ってるのは刀じゃなくて、ほとんどが重機関銃な。


 「んー、おもしろくなってきたぞ」


 「こっちは、居たたまれなくなってきたよ」


 何だか無表情面をツヤツヤさせているシィにつぶやくが、もちろん聞こえるわけはない。


 「何だか道案内も不用って感じね」

 シャイナが腐るのも無理はない。


 一度目印の読み方を憶えたシィは、しっかり壁面の案内に沿って、メトロ47を地表へと進んでいる。方向音痴はどこへやら、だ。

 ここまで来ると杞憂というか、事前にあれこれ考えていたこっちが馬鹿に思えてくる。


 「ひゃっはぁっ!」

 (明かりだぁ!)

 げっそりする俺とシャイナを置いて、唯一脳天気なヒャハ子が声を上げた。


 共同溝の階段を上りきった俺たちの前に、フェンス張りの扉が姿を現す。外からは日の光と、ときおり風の音が聞こえてくるだけ。


 「さてと、地獄へようこそって感じだな」


 「嵐の前の静けさ、ね」


 シィが扉を開けるのを見ながら、俺とシャイナは銃に手をかけた。




 中央要塞前広場。


 広場といったって、爆弾で建物が更地になっただけの空間だ。所々に壁や柱が立ってるし、適度に瓦礫の山もある。


 俺たち一行が顔を出したのは、広場の北側、壁になった瓦礫の足下だ。


 「左右警戒、敵影なし!」


 「正面方向も大丈夫ね」


 「ひゃっはぁ!」

 (後ろにもいないよ!)


 慎重に中腰で動きながら、俺たちは広場を南下する小道に入る。

 もちろんシィも、手慣れた動きで瓦礫から瓦礫に素速く移動している。


 「様になってるなぁ」


 「ぼさっとしないでフチオミ君。いつ歓迎セレモニーが始まってもおかしくないわ」


 「そうだな、すまん」


 この広場は、扱い的には激戦区からは外れている。

 外れてはいるんだが、ときおりガルガンチュアたちが激しい攻勢を展開してくる。


 理由はあれだ。


 広場の南にほぼ無傷で残る建物。

 南米のピラミッドを思わせる、階段状のコンクリート建造物、中央要塞セントラル・フォート。戦前の政府施設で、武装と情報の宝庫だ。

 そして何より、強固な防壁を持つ砦でもある。


 現在はある勢力が占拠しているんだが、他の勢力にとっても魅力的な陣地であるため、絶えず攻撃に晒されているんだわ。


 ストーリー的にいえば、主人公一行がここにやってくるとガルガンチュアたちの攻撃が開始される手はずになっている。

 苦境に立たされた中央要塞を主人公が救うことにより、その内部へ招かれるって寸法だ。


 「フチオミ君、ここの進入スイッチは?」


 「いや、ここは進入スイッチじゃない。会話スイッチだ。もうすぐ中央要塞、あいつらの教導部隊がここを通りかかる。そいつらと会話したら、ドン、だ」


 「……もしかして、あの暑苦しいお嬢ちゃんの部隊?」


 「そうだ。あの部隊だ」


 元主人公と元プレイヤー、つまりシャイナと俺は、そろってため息をついた。


 「いっそのこと、会話前に撃ち殺しちゃ駄目? どうせお嬢ちゃん死なないんだし」


 「無茶を言え。死なない以前に、あのお嬢ちゃんは倒れんわい。下手に敵対されて状況がややこしくなると困る」


 「……そうね敵に回すと厄介だわ」


 「味方にすると頼りないけどな」


 「ひゃっはぁ!」

 (前に何かいるよ!)


 ヒャハ子の声に、俺たちは会話を中断して前を向く。

 瓦礫の間を縫って動く鉄色の人影が四人。おいでなすった。


 「なんか来た。撃っていいのかな?」

 シィが物騒なつぶやき放ち、重機関銃を構える。


 「撃っちゃ駄目よ!」

 シャイナが慌ててシィの前に出た。


 その間にも、鉄色の人影は規律正しく行進隊列を作って接近してくる。その細かいところが見える距離になると、俺は思わず感嘆のため息を漏らした。


 鉄の武者。


 身長二メートルを超える、まさしく鉄の武者たちだ。全身にまとった分厚い装甲板に、刀代わりに腰に携帯したアサルトライフル。

 装甲板には小札(こざね)、つまりラメラーアーマー的な加工が施され、肩や腰に追加装甲板が張り出しているところなど、どこからどう見ても日本の大鎧にしか見えない。


 先頭を行く鉄武者の顔がこちらを向く。

 顔面は暗視ゴーグルとガスマスク、そして面鎧を足して三で割ったような……というか、どこぞの暗黒卿めいたマスクで覆われており、素顔を見ることはできない。


 「そこの者たち、止まりなさい!」

 ごつい見かけとは正反対の、若く張りのある女性の声がマスクから響いた。


 「ここは我ら〈アーミー・クラン〉、ACの定めた警戒区域。見たところ民間人のようだが、こんなところで何をしている」


 先頭の鉄武者が、刀ならぬライフルを抜きはなち、ジリジリと俺たちに近寄ってくる。


 シャイナの後ろで、シィが重機関銃のセイフティを外す。

 撃つなよシィ。そいつはあと三歩で……


 「きゃっ!?」


 鋼鉄の足が瓦礫に引っかかり、鎧武者は威厳も何もなく地面へ顔面ダイブした。ドスンと音を立てて転がる鎧武者。後ろの武者たちがそれを指差し、腹を抱えて笑う。


 「だ、大丈夫?」


 歩みよるシャイナの手を借りて立ち上がった鎧武者は、未だに笑い転げる他の武者に向けて、アサルトライフルをバラバラと撃つ。


 「お、お前ら! 〈アシガル〉が〈ハタモト〉を笑うな! 今度笑ったら、本気でハチの巣にしてやるぞ!」


 あーここで一つ説明しとくぞ。

 今のアシガルだのハタモトだのは、足軽や旗本とはかなり発音が違うからな。なんて言うかアメリカンに間違えた感じの、アシガールとかハターモトとか、そんな発音だ。


 『サー、イェッサー!』

 三人武者がビシッと直立し敬礼するが、肩が揺れてるあたり、鎧の中では絶対爆笑してるに違いない。


 シィが重機関銃をポケットにしまい、鎧武者に歩み寄る。

 会話イベントの開始だ。


 「……あんた誰?」


 「私は……」

 鎧武者のマスクが三分割され、兜に収納された。

 「私はACのハタモト・サージェント、アンジェラ・オリオンだ。お前は?」


 現れた素顔は……メガネっ娘だ。どう考えても身長と釣り合いの取れない小さな顔。ソバカスの浮いた頬。ポヤッとした丸顔。

 間違いねぇ、あのアンジーだ。


 「私はシィ。こいつらは私の仲間だ」


 「民間人か?」


 「……そうだ」

 ここまでは無難な選択肢を選んでいる。このまま上手くいけば、歓迎セレモニーのあと、中央要塞にご案内コースだ。


 「ふん、民間人がこんな所に来るものではない。即刻立ち去りなさい」


 「冗談! 瓦礫に躓くアホに、何か指図される筋合いはないわ!」


 顔面蒼白になる俺とシャイナの前で、堂々と中指を立てて宣言するシィ。

 馬鹿野郎! いきなり会話決裂の選択肢選んでんじゃねぇよ!


 「ヒャッハァァッ! とんだ間抜けだぜぇぇぇっ!」

 火に油注ぐなヒャハ子! こいつら敵に回すと厄介なんだぞ!


 「い、言わせて、おけば……」

 鎧武者、アンジーの手の中で、カタカタとアサルトライフルが震える。


 「シャイナ! やっぱ駄目だ! 戦闘に――」


 しゅるしゅるしゅる……。

 妙な風切り音。これは……榴弾砲!


 「みんな伏せろ!」

 俺が叫んだ瞬間、横の瓦礫が弾け飛んだ。

 爆風が周囲を襲い、その場にいた全員をはじき飛ばす。


 俺は全身ボロボロになり、空中を錐もみしながら吹っ飛びつつ、頭の片隅で感謝と恨みを混ぜた笑いをこぼした。



 一応、決裂せずには済むのか。代わりに死ぬけどな。

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