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ファーザーをさがせ 3


 ガルガンチュア。

 一応人型モンスターに分類される、巨人型のバケモノだ。


 外見をリアルに想像したいなら、アメリカで州知事を務めたこともあるマッチョ俳優の肌を緑に染めて、全身の皮膚に装甲板よろしく大判のウロコを重ね、蛮族って感じの鎧を着せてみるといい。

 もろそんな感じだ。ついでに身長は五割り増しで頼む。


 世紀末的な説明を加えるなら、これもゾンビと同じく環境が生みだした人のなれの果てだ。もっともこっちは汚染物質ではなく、戦前に開発されていた生物兵器に寄生されるとこうなる。

 見た目通りのパワーファイターで、恐ろしいことにある程度の知性も残してやがる。


 画面で見てても「こっちくんな!」と叫びたくなるほどだったが、こうして現実に見るとそれはもう、迫力だけでお腹いっぱいだ。


 「少し厄介ね」

 足狙いから頭狙いに、リボルバーを構え直しながらシャイナが吐き捨てる。


 普通、人型モンスター排除の定石は足狙いだ。

 移動速度が早くちょこまかした敵が多いので、出会い頭に足を粉砕し、機動力を奪うんだ。


 ところがガルガンチュアにその定石は通用しない。

 奴らの足は丸太かってぐらいに太いんだよ。移動速度は大したことはないんだが、有り余るヒットポイントでゴリ押しされたら移動力なんて関係ない。


 このゲームはヒットポイント制だが、手や足、胴体など部位ごとに同じ武器でもダメージが違ってくる。

 どんな武器だろうと最大のダメージが入るのは、頭、もしくは心臓だ。心臓はモンスターによっては無いこともあるし、胴体の真ん中で狙いにくい。

 必然、一撃で最大のダメージを与える気なら、頭を狙うべきだ。


 「シッ!」

 シャイナが息を吐き、引き金を絞った。

 耳を聾する轟音が響き、リボルバーが火をく。


 横道を無視して進もうとしていたガルガンチュア一体が、頭を横向きに吹っ飛ばされる。

 が、それでぐらりとよろめいたっきりで、倒れる気配はない。


 「ならこいつでどうだ!」

 俺はアサルトライフルを、そいつの半壊した頭目がけて発砲した。


 ところがどっこい。

 「うをぉぉぉっ! 跳ねる!?」


 ブルパップ式の近未来チックなアサルトライフルは、命中精度が高いって売り文句なんてどこへやら、連射する側から跳ねるわ暴れるわ、おまけに顔の横の機関部がうるさいわで、とても集弾なんて望めない有様だった。


 頭を狙ったせいで、ほとんどの弾は肩から上に抜けている。


 「バカね! アサルトライフルで頭狙いなんかしてどうするのよ!」


 「プレイの時はこれで――」


 「フッチーの体力で押さえられると思ってるの!?」


 「そうですね」


 銃の命中精度って、もちろん器用パラメータが関係するんだが、もういっちょ体力、つまり筋力でどれだけ銃を押さえ込めるかも鍵になる。

 ま、つまりフッチーにスーパープレイは無理ってことだ。泣きたいぜ。


 「どうしても当てたいなら単射でやって! 連射なんて弾の無駄よ!」

 そう言うなり、シャイナはナイフ二刀流に持ち替えて走りだす。


 考えてみりゃ、体力MAX超えてるなら近接戦の方が有利だわな。

 どこぞの世紀末覇王のように素手で人間千切っては投げできるわけで、ナイフ持ってりゃ鬼に金棒、ゾンビに刃物だ。


 「そういや、もう一匹は?」

 もう一匹ガルガンちゃんがいるはずなんだが、どこにも姿が見えん。


 と、上から何かが降ってきた。

 ゴトン、ころころ……と転がるボールのようなもの。

 一部に不格好な飛び出し、いや、これってモヒカンじゃねぇの? 気がつけばバンディッド連中の声しなくなってるし。


 「はっ!?」


 「ダダガイ、ダイズキー!」


 真上を見あげた俺の目に、廃墟の天辺から躍り込んでくる異形の巨漢が映る。


 「うそだろぉっ!」

 とっさに横へダッジロール。


 ガルガンチュアの着地クッションになるのは免れたが、体勢を立て直すのは遅れた。


 「バッシーン!」

 口で効果音付けながら、ガルガンチュアが重量級の拳を振り抜く。

 俺が向けようとしていたアサルトライフルは、その一撃で見事に持って行かれた。


 「武器剥がしかよ! 卑怯くせぇ!」

 ホルスターからナイフを抜くが、正面切って殴り合えば早晩ミンチは確実だ。ここは距離を取らせてもらう。


 横道の出口へ走りながら、俺は背後でチャキッと嫌な音を聞いた。

 慌ててしゃがむ俺の上を、ゲボロロロッと小気味いい音を立てて機関銃の弾ががかすめる。

 もう見なくてもわかるだろ? 後ろの鬼さん、銃機関銃をお持ちでいらっしゃる。


 ガルガンチュアには知性が残ってる。

 おおむね五歳児並のな。

 だが、銃器の扱いはよくご存じなんだ。パワーファイターで蛮族っぽい見た目にだまされると、正面から銃弾のお出迎えを浴びるって寸法だ。

 なまじパワーがあるので、持ってるのが重火器ってのがいけねぇや。ヒットポイントで耐え、重火器でしとめるのがあいつらのスタイルだ。

 歩く戦車かお前らは!


 なんて解説している場合じゃねぇよな。

 俺は再度立ち上がるが、ガルガンちゃんはのしのし接近中。道の出口からはシャイナともう一匹の激しい攻防戦が音になって伝わってくる。


 手にあるはナイフ一本、俺はフッチー。

 これが意味するは……絶望だ。


 死んでも死にはしないが、ガルガンちゃんの腕力でバラバラババンと粉みじんにされる苦痛はごめん被る。その痛みはおそらく野犬よりも巨大昆虫よりもショットガンよりも大きいはずですし。

 そしてなにより、俺がここで死ぬと、シィたちを呼ばなかった理由が無くなる。


 「何か手は!?」

 あたりを見回すが、瓦礫の山ぐらいしかない。

 上は、ちょっとフッチーのジャンプじゃ届きそうもない。一番低い窓でも身長の二倍の高さだ。ついでに窓の中には入れ……ん?


 窓より少し高いところ、ガルガンちゃんの真上の板が剥がれかけている。

 分厚いコンクリートが斜めになって、今にも崩れてきそうだ。


 いかにも意味ありげなそれを前に、俺は一瞬、考えをめぐらせた。

 あれがシステム的な背景なら、何をしても動くはずはない、未来永劫そのままだろう。だが、俺にとってはここは現実。

 いける気がする。いや、やれると信じる。

 それに例え無意味でも、再度の機関銃までに俺ができるアクションはこれだけだ。


 「えいままよ!」

 鍛え抜かれた放物予測をもって、俺は手にしたナイフをコンクリート壁に投げつけた。


 刃先が継ぎ目に当たり、ほんの少しめり込んで。


 次の瞬間、壁は崩落した。


 「ガボゲッ!!」

 ガルガンチュアの上に一トンはあろうかというコンクリート塊が落下し、異形の巨漢をあっさりと押しつぶした。


 「……やってみるもんだ」

 頭の上でレジスター音。どうやら経験値まで入ったらしい。


 ぱーぽーぱらぁ、とファンファーレが聞こえ、俺のレベルアップがアナウンスされる。ガルガンちゃんって、無駄に経験値高いんだよなぁ。


 しっかし、今ので上手くいくとは驚きだ。

 少なくともプレイ中に、一度もダメージ与えてない相手を罠で殺しても、経験値が入ったことはない。

 というか、撃って崩れる壁を見たのもこれが初めてだ。


 「どうなってんの?」


 「どうしたのフチオミ君?」

 いつの間にトドメを刺したのか、ガルガンチュアの死体を引きずったシャイナが俺の後ろに立つ。


 「いやあれ、あんな倒し方ってありなのか?」


 俺が指差したガルガンチュアの圧殺死体に、シャイナが眉をひそめる。

 「なにこれ。上のものを落とした? ……見たこと無い殺し方ね。ちょっと私には経験がないけど、フチオミ君にもわからない?」


 「ああ、俺だって初めてだ」


 しばし疑惑の視線でコンクリートを眺める俺たち。


 やがてシャイナが、俺の肩をポンと押す。

 「何にしても、悩んで出る答えじゃなさそうね。それより、これからどうする気?」


 「そうだった!」

 俺はガルガンちゃん(轢死体)に駆けより、その懐から機関銃を引っぱり出す。


 「シィたちを呼ぶ前に、これとそっちのガルガンチュアの銃とを合わせて一丁でっち上げろ。でもって、それを俺のリュックに押し込んでくれ」


 「……シィちゃんに黙ってネコババする気?」


 「いざというときの保険だ。俺には使えそうにないが、この先何があるかわからん。自由になる武器が一つは欲しい」


 機関銃は強力な遠距離武装だ。シィに取られて無駄遣いされる前にこっそり回収したい。だからそのために、二人でガルガンチュアを仕留めたかったんだ。



 「シィちゃんのこと信用してないのね、フチオミ君は」


 バラバラにした機関銃から使える部品を集め、一丁に組み立て直しながらシャイナがぼやく。さすが完璧超人の元主人公、その手並みは鮮やかだ。


 「初心者に持たせたら、無駄になる武器を知ってるだけさ」

 シャイナの手元を懐中電灯で照らしてやりながら、俺は鼻を鳴らす。


 「そういうのを、信用してないって言うのよ。はい、できあがり」

 シャイナがため息をついて俺のリュックを開き、機関銃を無理やり押し込む。


 「もうちょっと考えた方がいいわよ、妹の扱い方ってのを」


 「余計なお世話だ。部外者に、それもゾンビに言われたかねぇよ」


 「ゾンビ差別反対。さぁ、シィちゃんとヒャハ子を呼びにいきましょう」


 そういって立ち上がるシャイナに、俺は適当に相づちを打ってついていく。



 この時のこと、それを俺は、もっと早く思い出すべきだったのかも知れない。

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