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ファーザーをさがせ 2


 って事で、俺たちは今、どでっかい廃墟の真ん前にいる。


 シィをメッセージで呼び戻してすぐ町を発った俺たちだったが、ここにつくまでに半日以上経過しちまった。もう今は夜だ。


 しかしあれだな、世紀末の夜ってのは本当に真っ暗なのな。街灯もネオンもないから、当たり前といえば当たり前だが。

 おかげで俺は今、素晴らしいものを見てるぜ。


 「見てみろよ、星が綺麗だ」

 空を見あげ、俺はシャイナに声をかける。


 「見飽きてるからいいわ」


 だよな、こいつはこの世界の住人だしな。


 だがこの空!

 雲一つ無い、満天の星空ってやつだ。俺の住んでた、いや住んでる日本の地方都市じゃ、絶対に見られない光景だ。

 ゲームだから作り物だと頭ではわかってるんだが、心の方が納得しないぐらいに綺麗だ。こりゃ人生変わりそうだわ。


 

 さて、簡単に状況を説明するぜ。


 俺たちは今、この世界でもひときわ大きな廃墟の入り口に立っている。


 どでっかいんだよ、とにかくどでっかいんだ。

 どんくらいでかいかと言うとだな、軽く東京二十三区が入るぐらいでかいんだ。なにせ首都一つ分の廃墟だからな。


 これぞこのゲーム名物、都市廃墟群。

 またの名をウェイステッド・セントラルだ。


 途方もない量のコンクリート、鉄骨、トタンにレンガ。それらをかろうじて都市に見える程度に積んでおいて、爆弾で適当に爆破したらこうなるって感じの、廃墟マニアにとっての夢の国だ。

 まわりが真っ暗だってのに、シルエットだけで俺を威圧してくるこの存在感。たまらないねぇ。


 もちろん外側だけじゃない。この内部には広大な()都市空間が広がっている。瓦礫に阻まれて八割は通行不可だが、中には往事の姿を止めている地区もある。

 そういったところが、いわゆるダンジョンとして機能しているわけだ。


 今から、ここに俺たちは入る。


 シャイナが昼に激戦区と言っていたように、この中では都合七つの勢力がひしめきあい、覇権を争っている。そのうちプレイヤーの味方になりそうな勢力は一つだけ。つまりここに入れば、まわりは事実上敵だけになる。


 そんなヤバいゾーンに入ろうってんだから、一応全員、装備は更新してきたぜ。

 もっとも、真にお役立ちな武装のたぐいは、ほとんどがこの都市に眠ってる。それの取得も今回の目的の一つだ。


 装備をざっと上げると、俺はコンバットアーマー、これは迷彩服の上にファンタジーの軽装鎧を合わせたような防具だ。

 武器は程度まずまずのアサルトライフル、それと愛用のコンバットナイフだ。陸軍リュックも背負ってるので、アメリカ陸軍スタイルってやつだな。


 シャイナは黒いタクティカルスーツ。

 局所に防御鉄板がついたピッチピチの服だ。ボディラインはともかくとして、肌の露出を避けてくれたのはありがたい。

 手にはコンバットナイフ二刀流、サイドホルスターには50口径のリボルバーを下げている。武装選択のセンスが渋くていいね。


 ヒャハ子はいつも通りの世紀末ファッションだが、背中にはショッピングカートを再利用したリュックサックを背負っている。

 網を透かして、ドクロだの骨だのが見えるが、もちろん演出だ。ほんとに入ってないからな。

 武装の方はいつもの棍棒と、型の古いサブマシンガンが一丁。


 そして我らが主人公、シィについては……してやったり。

 MOD装備のファイバースーツを着ていただいた。

 どういうものかというと、最近流行な萌え系ロボットもののパイロットスーツを思い浮かべてもらえばいい。とてつもなく格好いいんだが、身体の線はバッチリ出るあれだ。

 各所に光る線も入っていて、見てるだけでこっちは幸せな気持ちになれる。

 極薄な見た目に反して防御は固く、おそらく防御力は四人中最高だ。さすがMOD装備、反則に近いぜ。


 ちなみに買ったわけじゃなくて、自宅の床下に隠していたのを引っぱり出した。元々は俺のプレイ用だ。あまりの高性能に自分で着ようかと思ったが、よく考えたら女性専用でな。俺が着ても王様の服状態になるんであきらめた。

 武器の方は、いつものショットガンとナイフを持参している。




 「でっかー」

 立ちならぶ建物(廃墟)を見ながら、懐中電灯を手に立ちつくすシィ。


 そうだろうそうだろう、俺も初プレイの時、画面の前で感動の涙を流したもんだ。


 「でもよく見えねー」

 ……ですよね。だって夜だし。


 「まぁいい、シャイナ、野営できそうな場所は?」


 「無いわね。ここら辺はいろいろ出るし。寝てるときに襲われないのはプレイヤーだけだから、とにかく中に入って安全地帯を確保しましょう」


 「だな」


 一部を除いて、荒野から直接に都市廃墟群へ進入することはできない。崩れた建物がバリケードのように道をふさいでいるからだ。


 「フッチー、シャイナ偵察。ヒャハ子ここに残って」

 シィが淡々と指示を出す。


 そういえばヒャハ子なんだが、いちおうシステム上は俺の仲間扱いなんだ。が、その俺がシィの仲間扱いなので、結局ヒャハ子もシィの指示に従うようになっている。

 しかし、知らないうちに増えた仲間だってのに、シィは全く気にする様子がない。器がでかいのか、なにも疑ってないのか……


 ま、偵察指示を出されれば、それに従うのがフッチーとしての定めだ。


 それに俺は、この指示を待っていた。


 さっきの続きだ、直接に進入できないなら、別の方法があるはずだろう?

 もちろんある。ここは地上こそ瓦礫の山だが、実は地下に、昔の地下鉄が縦横無尽に張り巡らされている。そこを通れば廃墟の中へと入れるわけだ。


 で、俺は当然、その入り口を知っている。

 これって重要なことなんだぜ。初見プレイヤー時代は入り方がわからず、三日近くこの付近を彷徨った記憶がある。それくらい入り口が見つけづらいんだ。


 俺と並走していたシャイナが足を止め、周囲を見回す。

 「この辺だったかしら、メトロ22の入り口」


 「もうちょい先だな。目印は三本並んだ街路樹、四階建てのビルの足下だ」


 「さすが、詳しいじゃない」


 「伊達に一千時間もプレイしてねーよ」


 また走りだす俺たち。懐中電灯の明かりを頼りに、倒壊したビルのすき間を抜けて、足下の薄汚れたタイルをたどる。


 色が青から赤に変わったらまずい。プレイヤー時代の知識が、俺の頭で警鐘を鳴らす。

 そして……


 「タイル赤! 止まれシャイナ!」


 「えっ!?」

 シャイナが間一髪、赤タイルを踏む前に止まる。


 「ちょっと待ってろ」


 俺は懐中電灯を振り回し、周囲の瓦礫の配置を確認する。

 間違いない、ここであってる。


 「シャイナ、そっから二歩左、タイル踏むなよ」


 「何よ。説明してくれないの?」


 「動くのが先だ。指一本髪の毛一つ、そこから先に出すなよ」


 「無茶、言うじゃない」

 シャイナがぎこちなく横にずれる。

 あと三十センチ、あと十五センチ。……よし、オッケーだ。


 「もういいぞ」


 「いったい何なの?」

 俺の方を胡散臭そうに振り向き、シャイナが説明を求めた。


 「そこな、進入スイッチだ。入ったらバンディッド五人とヤバイの二体が湧く仕掛けになってる。恒例の歓迎イベントってやつだ」


 「……見えてるの?」


 「まさか、憶えてんだよ」

 俺は肩をすくめて、シャイナの後ろに並ぶ。


 正直、マジな世紀末を生き抜く自信はないが、ゲームなら別だ。

 ゲームってのはシステムから成り立ってるだろ? システムにはそれを動かす部品がある。例えば、どこかにキャラクターが入りこむと動作するスイッチだとか、物の触れた判定をする層とかな。


 一千時間も同じゲームやってると、そういったシステム部品がある場所をあらかた憶えてしまう。

 この場合は、シャイナの右前、一見なにもない五メートル四方の領域がそれだ。


 「ずっとこの世界を繰り返してるけど、こんなの気づかなかったわ」


 「そりゃそうさ。仕掛けがあるなんて思うのは、プレイヤー、つまり部外者だけだ」


 ゆっくりと領域を迂回する俺たち。

 この領域の場合、左側の壁との間に人一人分ほどのすき間が空いている。ここを抜ければ、主人公を歓迎する手荒な歓迎団は現れない。


 「思ったより頼りになるのね、フチオミ君」


 「なに、こんな使い方でもなきゃ、単なる無駄知識さ」


 「でも、どうせ七匹ぐらいなら、出しても私一人で抑えられるわ」


 「挟み撃ち食らいたいならご自由に、俺は逃げるけどな」


 そうなんだよ。

 領域踏んだからって、領域に敵が湧くわけじゃない。この場合だとバンディッド五人は後方に、そしてメトロ22への入り口から、さらにヤバイのが二体湧く。

 この先の横道に逃げ込めば正面で迎え撃てるが、間に合わなければ挟み撃ちになる。


 ヒャッハーの何人でも、シャイナがいれば楽勝だろうが、さらにヤバイ方は本当にヤバく、はっきり言ってそっちに背中を向ける方が怖い。


 ようやく狭いスペースを抜け、迎撃に適した横道まで来た。


 「で、どうするつもり?」


 「俺はフッチーだから隠身のスキルはないが、お前ならできるだろう? 領域踏んで、こっそり戻ってきてくれ。俺はここからヘッドショット狙いをする。上手くいけばヒャッハーとヤバイ奴で潰し合いになるから、弾の節約にもなる」


 「せこいわね」


 「クレバーと言ってくれ」


 シャイナが肩をすくめ、領域の方に戻る。


 俺は素速く横道に入ると、突き当たりの巨大なコンクリート片に身を隠し、アサルトライフルを確認する。

 考えてみれば、これが人生初めての射撃になる。ヘッドショットなんて格好付けてみたが、FPSのように簡単にいくものか正直自信はない。


 無駄知識に従ってセイフティを解除、コッキングハンドルを引いて装填。肩に押しつけるように構えると、今さらながら軽い震えが走った。


 と、その瞬間。

 「ヒャッハァァァァァッ! お客さんだぜぇ!」


 バンディッドの声が廃墟にこだまする。シャイナめ、予定通り領域を踏んだな。


 すぐに横道に、猫のようなしなやかな動きで光るゾンビが戻ってくる。

 あんだけ光ってて見つからないってんだから、やっぱり本当は光ってないんだろうなぁ。


 シャイナが素速く俺の横に付き、ホルスターからリボルバーを抜く。

 「もう一組は?」


 「まだだ。メトロから上がってくるから時間がかかる」


 と、俺が答えた直後。

 『ブルグルグワァァァァァァァァァァァッ!』


 威嚇するような叫びが二重奏で轟き、空気がビリビリと震えた。

 「……来やがった」


 重々しい足音が左、メトロ入り口から迫ってくる。


 「ひぇぇぇぇっ! 撃て撃てッ!」

 ヒャッハーたちが取り乱す声が聞こえる。

 続いてパカパカと軽い射撃音と共に、マズルフラッシュがカメラのフラッシュのようにまたたく。


 何度かの銃声、低いうなり声、ヒャッハーたちの悲鳴。

 やがて、マズルフラッシュに照らされたそれが、横道の入り口で立ち止まる。



 「会いたくなかったぜ、ガルガンチュアさんよ」


 俺はクールっぽく銃を構えていたが、正直、ちびる寸前だった。

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