世紀末生活向上委員会 END
なんてな、まさか新居解説だけで、今日が終わったと思ってもらっちゃぁ困るぜ?
なんのために風呂を用意したと思う?
もちろんあれだ、健全な作品には欠かせない、ラッキースケベを実践するために決まってるじゃねぇか! もちろん、今日という今日はゾンビだのヒャッハーだのはナシだ。
実は先んじて、シィを風呂に入らせるべくあれやこれやと策を打っておいた。今ごろ奴は何も知らずに、ヒットポイント回復の名目で湯船に浸かっているはずだ。
まぁ、本当に回復効果はあるんだがな。
とにかく! ゾンビにストリップを見せつけられ、ヒャッハーに押し倒されかけたこの恨み、妹に似てるとはいえ、充分に興奮できるヤツの裸で晴らさせてもらう!
これぞまさに生活向上!
さてそんなわけで、俺は脱衣所前の物入れに潜んで隙をうかがっている。
実はさっきから、喜びすぎて訳わかんなくなったヒャハ子が走り回ってるせいで、なかなかここから出て行けなくて困ってるんだが。
「ひゃっはぁぁぁっ!」
あいつの足音が階段を上がり、さらにもう一つの階段も上がって消える。
よし、チャンスは今しかない。
俺はさりげなく偶然を装って脱衣所に入る。
もちろん服着たままで言い訳が立つはずもないので、着ていたレザーコートを脱ぎ、収納状態で棚の上に置くと、足音を忍ばせてドア越しに中の様子をうかがう。
「…………」
誰かの吐息、そしてシャワーの音。
間違いない、シィはこの中にいる。
はやる気持ちを押さえて、俺は一度深呼吸をする。
……よし、心の準備はできた。
俺はドアに手をかけ、そろそろと引き……
「ひゃっはぁ!」
(おっふろぉ!)
後ろから素っ裸で走ってきたヒャハ子にぶつかられ、ドアを押し開けタイル床に盛大な顔面ダイブを決めた。
星が見える。月が見える。ついでにチラチラとまたたく彼岸の光景も。ああ、向こう岸で手を振ってるのは、ばーちゃんかな?
「こらヒャハ子、湯船に浸かる前に、まず泥を落としなさい」
「ひゃっはぁ」
(ごめんなさい)
シャワーの音がして、俺はハッと顔を上げる。
周囲は一面の湯気、湯気、そして湯気。
濃すぎる湯煙で、一寸先も見えない。まさか湯気さん、日頃の行いを反省して俺を隠してくれたのか?
ナイスすぎる改心だ。
痛む頭を振り、俺は立ち上がって一歩踏み出す。どうにもフラフラする。強いていえば失血多量で死ぬ寸前の感じだ。
「きゃっ! フ、フチオミ君!?」
俺の名前を誰かが呼ぶが、答えようにも声が出ない。
そして俺はまた、暖かいお湯が流れるタイル床に突っ伏した。今度はマジで力が入らん。
湯気をくぐって、何だか見覚えのある美女がやってくる。
長い銀髪を官能的な身体にまとわりつかせた、紫の猫目美女。ちょっときつめの顔が……俺の……どストライク、だ。
「きゃっ、ちょっと、こんな所で死んじゃ駄目よ、裸のままシィちゃんの前にリスポンする気? ねぇ、フチオミ君! 目を開けなさい!」
何やら美女が俺に叫んでいるが、俺はそのまま脱力する。
ああ、もうどうでもいいや。
ちゃぷっ
水音がする。
目を閉じていると、肩の辺りでたゆたう水面を感じる。
肩から下を包み込む、暖かく心地いい感覚。これはお湯だ。一週間、いやもうちょっと長かったか。とにかく久しぶりのお湯の感触。
ああ、風呂作っといて、本当によかった。
「フチオミ君? 大丈夫?」
背中の方から声がする。涼やかな女性の声、いい声だ。
そういえば、背中に当たるお湯の感触が何か違う。お湯っていうか、もっとやわらかな何か。柔らかいんだが張りがあり、なおかつ滑らかで心地いい。
これって、誰かの肌か?
「ひゃっはぁ?」
(目を開けて?)
その声に、俺はバチッと目を開いた。
目の前にヒャハ子の顔がある。
垢や泥がすっかり落ち、健康的な赤みのある肌が綺麗だ。あの二列モヒカンも水に濡れてへたり、パッと見はショートヘアの普通の女の子だ。普通どころか、かなり可愛いレベルと言えよう。
俺の意識が急に復帰を始める。
と同時に、背中に妙な違和感を憶えた。そう、お湯の層を挟んで感じる、ガサガサ質感の肌。
これはまさか……
「お湯に回復効果あってよかったわね。フチオミ君」
「うをばぁぁっ!?」
ふり返るとそこには、頭にタオルを巻いたシャイナの姿が。
しっとりとお湯に濡れたその質感は、さながら水から引き上げられたばかりの流木のごとし。
「ちょ、ちょっと待てお前ら……シィは?」
「シィちゃんなら、フチオミ君が入ってくるだいぶ間に上がったわよ。彼女プレイヤーなんだから、回復したらさっさと上がっていったわ」
「そうか……シィにはお湯の質感なんて……迂闊だった!」
「フチオミ君たら、混浴したかったならそう言ってくれればいいのに、こっそり入ってこようだなんて、照れ屋さんなんだから」
そう言ってピトッとひっつこうとするシャイナを、俺は湯船の反対まで湯を蹴立てて回避する。
「ち、近寄んな人外! 誰がゾンビと混浴するかよ!」
「もう、さっきまであたしの胸の上で気持ちよく伸びてたくせに、そんな意地悪言っちゃうんだ?」
「そんな事憶えてねえし、そして思い出したくもねぇ!」
「ひゃはっ、ひゃっはぁ?」
(なら、あたしといっしょに入る?)
バスタオル装着、入浴ルール違反のヒャハ子が近寄ってくるが、こっちはこっちでプロボーション的に気まずい。いくら何でも平坦すぎだ。
物事には超えちゃなねぇ一線てものがある。俺は断腸の思いで、ヒャハ子が回してきた手をかいくぐり、立ち上がる。
「いい、俺は上がる」
俺は濃すぎる湯気で体が隠れることに感謝しながら、そそくさと湯船から出た。
「私なら、いつでも一緒に入ってあげるからね、フチオミ君」
背後で光るゾンビが何か言ってるが、もちろん無視だ。
くそっ、ラッキースケベは改めて仕切り直し、作戦を練ってからにすべぇ。
俺はドアを開けた。そして
「あれ? 外したグローブどこ置いたっけ……」
脱衣所に立つシィと遭遇する。
無言、無表情。無音。
ショットガンが抜き放たれ、俺の眉間に狙いを定め。
「何これ、信じらんない!」
咆吼一声。俺の頭部は弾け飛んだ。
こんな事なら、意地を張ってねぇでヒャハ子と混浴しとくんだったよ……
俺は泣きたいよ。涙腺粉々だけどさ。
はい、微妙に落ちてませんが、第三話はここまでとなります。
いやはや、三話目ともなるとネタ切れ感がしてきますね。まだ本筋に足を踏み入れて無いどころか、殺伐とした世紀末からも脱線しつつありますし……
とにかく次回からはググッと本筋に近いところへ方向を修正していきたいと思います。
自分はお色気方面にはちょっと疎く(本番ありなら書いたことはあるのですが)寸止めのテクニックはちょっとまだ掴めていません。
特にヒャハ子を断る明確な理由を思いつかなかったのが痛い。どなたかいいアイデアはありませんか? もしありましたら、ぜひとも教えてくださいまし。
ご感想、評価、お叱りなど、何でもお待ちいたしております。
それではまた、次の話でお会いしましょう。




