世紀末生活向上委員会 6
「素晴らしい献身ね! あなたたち最高のアシスタントだわ!」
雑貨屋に戻り顛末を報告するなり、マリーは飛び上がって大喜びした。
「そうね、このスプレーはまだちょっと改良の余地がありそうだわ。虫さんたちに悪いことしちゃったわね」
いやまぁ、いいんじゃないですか? 浄水施設を復旧するんなら、どうせ皆殺しでしたし、はは、は……
「それにしてもフッチー君。ずいぶんと真っ黒ね。シィちゃん、彼どうしたの?」
「別に、どうもしてないよ」
どうもしてますとも。
結局、クモを潰した際の黒粘液を被った俺は、頭の上から爪の先まで真っ黒かつドロドロに汚れ、まことに悲惨な外見と相成り申した。なんせ地下から戻った瞬間、保安官に射殺されそうになったぐらいだ。
ファクションの識別飛び越えるこの有様。どう表現してくれようか。
「で、報酬なんだけど……シィちゃんたち、建物の改築に興味ある?」
俺は安堵のため息をついた。
見事にMODは機能している。これでようやく、俺たちは悲惨な生活を抜け出せる!
「ただじゃないけど、二千チップぐらいいるかな」
「二千……無いんじゃないかな?」
はい?
シィのつぶやきが、俺の希望にヒビを入れる。
いや、この前のヒャッハーマーケットの仕事報酬と俺の身体を張った人体実験の報酬。合わせれば楽に二千チップ超えるはずじゃ?
「シャイナ!」
ビシッと指で答え、シャイナがシィのコンピュータをのぞき込む。
そしてあいちゃあ、と顔をしかめた。
「うわ、なにこの子。使いもしないのに大量の弾薬と食料品……そりゃ二千飛ぶわね」
「冗談じゃねぇ! 今すぐ売り払わせろ!」
「無茶言わないでよ! いくら私でもプレイヤーの行動にまで干渉できないわよ!」
「俺はどうなんだよ!」
「それはそれ、これはこれよ!」
頭を抱えるシィの横で、醜い言い争いを続けた俺たち。
やがて、どちらからともなく、手を組む事で合意に達し、あれやこれやと手を尽くして、シィにいらないものを売り払わせはじめた。
「シィちゃん、これは三個で大丈夫だから」
「シィ! 銃もねぇのに弾持ちすぎだ!」
セリフを変更できるシャイナはともかく、俺は脳内のフッチー語録をひっくり返して使えそうなセリフを探すしかない。幸い、話すタイミングなら俺の意思で変更できるようなので、それフル活用し、どうにかこうにかシィを説得する。
やってみれば、案外デフォルトのセリフだけで会話できるもんなんだな。こいつはちょっとした発見だった。
そして十分後。
「はい、二千チップ確かにもらったわ。すぐに改築するから、ちょっと待っててね」
マリーが笑顔で雑貨店を出て行く。
シィを説得しきった俺とシャイナは、互いに荒い息をついて手を組み合う。
「なんとか、なったな……」
「苦労に見合うだけの、家であってほしいわね、ああ、もう喉ガラガラ」
「そいつは保証するぜ――」
その時、店の外から何かが吹き飛ぶ音、崩れる音、そして組み合わさせる音が三重奏で響く。
「なに今の!?」
「気にすんなシャイナ。ただの効果音の組み合わせだ」
「ひゃっはぁ?」
(何が起こったの?)
「へへっ、今日からベッドで眠れるのさ」
ややあって、雑貨店にマリーが戻ってくる。
「お待たせ、ちょっと時間かかちゃった。これ、新しい自宅の鍵よ、大切にしてね」
シィがなんの感動もなく鍵を受け取る。
その横で俺とシャイナはひっそりと抱き合って喜び、ヒャハ子はとにかく笑っていた。……あれ、俺たちいつの間にこんなに仲良くなったんだ?
「す、す、す、素晴らしいわっ!」
新居に入った途端、シャイナがカサカサの肌を震わせて号泣する。
誰だ、外面だけ見て「トタンで作った前衛芸術」呼ばわりした奴は? 中に入ったら意見を即ひっくり返しやがって。
「ひゃっはぁぁぁぁぁぁ!」
広くなったダイニング改め談話室を、棍棒持って走り回るヒャハ子。若干目がイッちゃってるが、喜んでいるのは間違いない。
二人が喜ぶのも当然だ。文字通りこの小屋は生まれ変わったのだから。
さぁて、洒落たピアノ曲でもかけながら紹介タイムといこうか。
ボムシティの裏通りに、ひっそりと佇む、小さな小屋。
ほんの一週間前に新しい住人が決まったものの、小屋はすでに倒壊寸前のありさま。一人用の小屋にはベッドがひとつしか無く、四人が暮らすにはあまりにも狭すぎました。
さらに困ったことに、小屋にはトイレもお風呂もありません。
みんな近くの公衆トイレを使い、風呂にはいるなんて夢のまた夢。日増しに募る疲労感に、住人たちのやる気は減るかばかりでした。
そんな不満を解消するべく立ち上がったのは、リフォームの匠、マリー店長。
徹底的に人のことを考え、明日を見つめて今日を打破する。
そんな、世紀末のマッドサイエンティストが仕上げた、リフォームの全貌をご覧いただきましょう。
猫の額ほどの敷地に、建築概念もなく廃材を積みあげて作られていた、小さな小屋。
強度も頼りなく、すきま風の吹き込む雑な仕上げの外壁。それを、世紀末のわびた雰囲気はそのままに、航空機の残骸を使って雰囲気を統一。周囲の建物を取り壊して面積を拡張し、より広く、より芸術的に仕上げました。
人一人出入りするのが精一杯のドアも、両開きの大きなドアに交換。これでもう、出入りのたびに獲物を取り落とす心配もありません。
入ってすぐの玄関には、大容量の武器ロッカーを完備。目的の武器が素速く取り出せるインデックス機能付きで、急な襲撃にも慌てずに応戦することができます。もちろん、襲撃準備にも便利な、大きな姿見付き。
かつて扉を開けたらすぐそこにあったダイニング。それを少し奥へ移し、広い談話室へと変身させました。調度品も、おしゃれな60年代アメリカ風に統一し、もちろん世紀末に合わせて、程よく廃墟テイストで整えました。
大幅に広がった一階には、それまで無かった広い通路を整え、動線を整理。
階段とは名ばかりで、ロフトへの上がり口でしかなかった所が……三階建てへの拡張に合わせて、広く機能的な階段へ大変身。
不用になった古い個室を広いトイレに変え、その隣りにできた新たなスペースには、大型冷蔵庫を備えた、真新しいキッチンを追加。狩ってきた獲物を調理するもよし、手に入れた食材を保存するもよし、食事の楽しみが広がりそうです。
かつては狭い荷物起きロフトだった場所は、大胆に天井をかさ上げしたことで、広々とした二階と三階に変貌を遂げ、ここが住人たちの新たなる生活空間に。
二階に三部屋、三階に三部屋、計六部屋も設けられた個室は、それぞれ大容量のアイテムボックスを作り付けてあり、収納量も申し分なし。もちろん寝心地のいい、パイプベッドもあります。
そして、地下へ続く階段を下りると……なんということでしょう! そこには住人たち待望の、洗面脱衣所付きの大浴場があるではありませんか。
住人たちの協力により、二十四時間、三百六十五日利用可能なったお風呂は、大人五人がゆったりと足を伸ばせる広い浴槽を備え、毎日、住人たちの疲れを綺麗に洗い流してくれることでしょう。
ある住人の献身的な協力、そして、幾度となく繰り返されたリスポンの結果、リフォームはなんとか予算内に収まりました。
さぁ、はたして、この快適さ溢れるリフォームは、主人公に喜んでもらえるでしょうか?
「んー、まーまぁかな、値段の割りには」
ああそうですか。
けっ、小娘にはこの世紀末的プチ豪邸の良さなどわかるまい!
ともあれ、俺はこうして今後の活動拠点となる、快適な我が家を手に入れたのだった。
世紀末生活向上委員会は、ここにその使命を終えた。




