突撃ヒャッハーマーケット 6
「ヒャッハー」
(んで、この先が食料庫だよ)
「ヒャッハァ」
(そうか。 道理で前来たとき、死体がいっぱい吊されてると思ったよ)
どうも、俺だ。
現在謎のモヒカンヒャッハー少女に連れられ、ヒャッハーマーケット地下の倉庫区画を探索中だ。
しかし探索って言うか、あれだな、自宅を案内されている客の気分だな。
なぜだか知らんが俺に敵対しないこいつはいいとして、なぜか道行くヒャッハーまでが俺に親切だ。例えば……
「ひゃっは?」
(あれ? 道間違っちゃった)
ヒャッハー少女、はいいかげん呼びにくいのでヒャハ子(仮)としておこうか。とりあえずヒャハ子がこうして道に迷うと、だ。
「ヒャッハァァァァ! どうしたビビってんのかぁ!?」
曲がり角からから怖いモヒカン登場。
盛大に叫んでいるが、顔はいたって優しい近所のおじさんって感じだな。迷子になった近所の子に声をかける、怪しくないおじさんを想像してもらえばいい。
「ひゃっはぁぁっ?」
(ねぇおじさん。しまっちゃうお兄さんの部屋ってどこだっけ?)
「ははっ! なんだヒャハ子じゃねぇか! ビビらすなよ! あいつの部屋ならこっちの通路じゃなくて、一つ右の通路の突き当たりだ!」
……ヒャハ子(仮)の、(仮)は必要なかったみたいだ。っていうかモヒカンおじさん、普通に喋ってるよな? 何でヒャハ子だけヒャッハー語(?)なんだ?
「ところで、こいつ見ねえ顔だな! 新入りか?」
モヒカンおじさんがスッゲーおっかねぇ顔で俺を睨んだ。
こんな時だけ人型モンスターの本領発揮しやがる。最初の時はすわ戦闘かと焦りもしたが、もうこれで三度目なので俺もビビッたりはしないぜ。
「ヒャッハァ!」
(ううん、よその人。女の子を探してるんだって)
「そうか! おいお前! 早く獲物を見つけろよボケナス! じゃな、ヒャッハァァッ!」
モヒカンおじさんはそう言って俺の背中を優しく叩き、通路を去っていく。
「ヒャッハー!」
(さあ行こう、お兄さん)
ヒャハ子が俺の手を引く。
俺は連れられるまま、もと来た道を引き返した。
さっきから万事この調子なんだよ。
ヒャハ子が道に迷ったり、棍棒落としたり、肩パッドずれたりするたびに、道行くモヒカンが駆けよってきて世話を焼く。
これでもし、背景がどっかの田舎町で、道行く人が全て普通の人間だったら、人情ドラマか、子供だけで旅行する番組のワンシーンって言われて納得する風情なんだ。
何かが違う。
何かが俺の知っている世紀末ゲームと違うんだ。
いやもちろん、幸運だけが取り柄の俺が道行く大勢のモヒカンに敵対されれば、ミンチにされる回数が三桁になるだろうから、この状況はとってもありがたいんだが。
まるで世界全体が気を抜いているがごとき、この空気はいったい何なんだ?
先を行くヒャハ子が俺にふり返る。
「ひゃっはー?」
(そういえば、お兄さんの名前は?)
「お、俺か? 俺はフチオ……いやフッチーだ」
「ひゃっはぁぁっ! ふっちーだぁぁぁぁぁぁっ!」
そう言ってカラカラ笑うヒャハ子。
薄汚れてはいるが、よく見ればけっこう可愛いじゃないか。服装と髪型とヒャッハー語を別にすれば、まずまずの美少女といってもいい。
こうなるとさっきのあれ、トイレでの一件が惜しかった気もするが、過ぎたことは悔やまないのが、俺の唯一の取り柄だ。
……負け惜しみじゃないぞ。負け惜しみじゃないからな!
と、そんなことを考えている内に、どうやら目的地到着のようだ。
通路の突き当たりに、血まみれのドクロで飾られた大きな鉄扉がそびえている。いかにもボス部屋的な感じだし、実際、増強MODではボス部屋だ。
って、ここが目的地? そりゃ当たりを付けた監禁場所の第一候補ではあるが、でもここボス部屋だぞ? 強化モヒカンでも最強クラスの人のお部屋ですよ? マジで入る気?
ビビリまくりの俺に代わって、ヒャハ子が鉄扉をノックする。
「ヒャッハァァァァ!」
(しまっちゃうお兄さん、いますかー)
返事はない。鉄扉に空いたすき間からは、寝息のような物が聞こえてくる。
「ひゃっはぁ、ふっちーひゃっはー?」
(まあいいや、ふっちー中に入ろう?)
「ちょ、ちょっと待て! 心の準備がっ!」
あわてふためく俺を、ヒャハ子は開いた鉄扉に押し込んだ。
結論から言っといてやる。
それは確かに、心の準備を必要とする光景だった。
汚れたダブルサイズマットレス五段敷きの、世紀末的ゴージャスベッドに、裸で寝転がって野生熊の毛皮を毛布代わりにする男女の図。
ただし男は超強そうなモヒカン、女は光るゾンビだ。
「なんじゃそりゃぁぁぁぁぁっっ!」
開口一番叫んだ俺の頭に、光るゾンビ女ことシャイナがコーラの空き瓶を投げつける。補足しとくとガラス製だ。世紀末はレトロな物が似合う。おかげで瓶は割れ飛び、俺の額はぱっくり裂けるが。
「いきなりうるさいわよ、フチオミ君。でも、案外早かったじゃない。てっきり逃げ出したんだと思ってたわ」
「ふっざけんなゾンビ女! 連れ去られたと思って心配して来て見りゃ、何でこんな事になってんだよ! てか服着ろよ! 目の猛毒だ!」
「はいはーい、フチオミ君はウブなのねぇ」
叫び散らす俺に、唇を尖らせるシャイナ。
横を見ればヒャハ子が顔を真っ赤にして頬に手を当てている。
いやもう、何もツッコミたくない。いいんだ、どうせゾンビ女に見えてるのは俺だけなんだ。
「……るっせぇ……なんだよ、入ってきたと思ったらぎゃーぎゃーと」
超強そうなモヒカンが目を覚ました。
口ひげがモッサリしてるが、顔立ちはイケメンと言っていい。目の下にはクマができ、心なしかどころか、相当に機嫌が悪そうだ。
「ひゃ、ひゃっはー」
(あ、しまっちゃうお兄さん。おはよー)
「おお、なんだヒャハ子か。ん? そっちのしけた面のバカっぽいのは誰だ?」
「ふっちーひゃっはー! ひゃっはぁぁ!」
(ふっちーっていうの、その女の子を探しに来たって)
「ああ、そうか……思い出したぞ。上にいた、かわいそうな兄ちゃんじゃねぇの。荷物持ちの」
俺の顔を見てニヤッと笑うモヒカン男。
「荷物持ちは、っていうかかわいそうも余計だ」
「ははっ! 粋がんなよフレッシュミート。ああ……頭痛ぇ、やり過ぎた。クスリはどこだ?」
「はい、どうぞ」
レザーコートを着込んだシャイナが、システム的には〈スピードブースター〉と表示される吸入器を手渡す。
いやそれ、立派なオクスリですからね。アメリカ直輸入の公式解説書にも「いやあれ、ぶっちゃけると覚○剤なんスよね(英語)」って書かれてる超ヤバイ物なんですけど?
スピードブースター、ダメ、ゼッタイ。
それを眠気覚ましよろしく一息でブシュッと吸い込むと、モヒカンはベッドから起き上がって手足を伸ばす。全裸MOD適用で何かが丸出しになるかと思ったが、クマ革のトランクスを履いていたので、とりあえずは一安心だ。
「んーやっぱ寝覚めの〈スピードブースター〉は違うねぇ。活力が湧いて来やがる!」
一応主人公、いや脇役として、これ以上青少年によろしくない展開を続けさせるわけにはいかない。
俺はシャイナに詰め寄った。
「いったいどうなってんだ! 俺は断固として説明を求めるからな!」
「あら、説明なんて不要じゃない。お持ち帰りされた女性NPCの末路を、本人から語らせるわけ? フチオミ君って案外サディストなのね」
「俺はもっと多人数で容赦なく…………じゃねぇ。どんなMODだって、こんなリア充的な展開になんかなりゃせんわい! 夜更けの朝チュン楽しんでないで、もっとシャッキリとした答え聞かせろや!」
「あーはいはい、答えはあそこよ」
そう言ってシャイナが指差す先には、ドクロだの骨だので真っ赤に飾られた、年代物のソファーがある。そしてその上には、何とシィが横たわって、いや寝ていた。クークーという寝息が聞こえるから間違いない。服には乱れもないし、顔は幸せそうだ。
「……無事なのか?」
「寝てるから大丈夫よ」
そう言ってシャイナは、俺から見ればボロボロでぼさぼさの髪を手で整え、ホイールアーマーを着込んだモヒカン、ああそうか、こいつが知性派ヒャッハーだったのか、の頬にキスをする。
「久々に楽しめたわ。もう迎えが来ちゃったから行くけど、またいつか来てもいい?」
「ははっ、今度は両方ともお手柔らかに頼むぜ!」
ああ畜生。こんなの世紀末モヒカンの正しいあり方じゃねぇ。
ヒャッハーは暴力的で容赦ないからヒャッハーなんだ。プレイヤーの不倶戴天の敵にして、魂の同胞でないと……ん?
「いやちょっと待て、シャイナ。寝てるから大丈夫ってどういう事だ?」
「言葉のままよ。主人公も寝ている間は、いかなる勢力にも敵対されない。ほら、フチオミ君だって、野宿している間は襲われなかったでしょ?」
「なる……って事は、こいつ今、睡眠待ち状態?」
「そのとおりよ。フチオミ君が何時間かけずり回ったか知らないけど、シィちゃんにとってはほんの数秒間の出来事ね」
「……よかった。俺の性癖、その秘密は守られたんだな」
安堵する俺の肩に、ポンと手を置く知性派ヒャッハー。
「安心しろよ兄ちゃん。俺はこんなちんちくりんに手を出したりしねぇから! ま、そっちの姉ちゃんみたいないい女なら別だが、無理やりどうこうしようなんて思わねぇよ」
やっぱりこいつ、俺の信じるヒャッハーじゃない。
「さぁ、シィちゃんが目を覚まさないうちに、町まで戻りましょう。仕事達成の証拠なら、もう私がもらってあるわ」
そう言って干からびた胸のすき間から、証拠アイテム「倉庫の鍵」を取り出すシャイナ。
「合い鍵だ! 俺の部屋に直接来られる扉の鍵だからな、またいつでも来てくれよな」
「頼まれたって、誰が二度と来るかよ!」
吐き捨てた俺の手を、何かがきゅっと握る。
ヒャハ子だ。ヒャハ子が目にウルウルと涙を浮かべ、こっちを見ている。
「ひゃ、ひゃっはぁ? ふっちーひゃっはぁ?」
(い、いっちゃうの? ふっちーともう会えないの?)
「お、なんだよヒャハ子、そいつの事気に入ったのか?」
知性派ヒャッハーが笑い、ヒャハ子の髪を撫でる。
「そうか、お前ももうそんな歳になってたのか……いいぜ、俺が許す。そいつに付いていくといい!」
「待てやこのリア充ヒャッハー! 俺抜きで話決めんな!」
牙を剥く俺。
いやだって、普通そうだろ? いくら美少女だって、世紀末ファッションで、三ヶ月は風呂に入ってなさそうで、おまけにヒャッハー語しか喋れんのだぞ? そんなもんに懐かれて嬉しいか?
そもそも連れて行く義理もないし、それ以前に連れ回すのには無理がある。
「お前ら仮にもバンディッドだろう? 町に入ったら速攻射殺され――」
「ないわよ」
シャイナが俺の言葉をさえぎった。
「あなたの仲間にすれば、つまり〈雇用コマンド〉使えば、あなたのファクションに入るから敵対されないわ」
「いやそのりくつはおかしい。俺は一介のNPCだぞ、主人公じゃねぇ。そんなコマンド使えるわけがないだろう? 今までだって無理だったし」
シャイナはニタリと笑い、チッチッと指を振る。
「NPCにだってコマンドは使えるの。みんな使おうとしないだけよ。この数日あなたがコマンドに気づかなかったのは、シィちゃんの仲間になってたからよ。仲間にはコマンドを使う権利はない。でも、今は違うでしょ? 一介のNPCさん」
そして俺の腕をつかみ、ギリッと握り込む。
「ほら、こんなに好かれてるのよ? シィちゃんが目覚めるまでの僅かな自由を使って、責任を取ろうとは思わないの?」
「責任もクソも――」
「思わないの?」
凄みのあるゾンビ顔に見つめられ、俺は顔を反らした。
すると今度は、今にも泣き出しそうなヒャッハー少女と、そのとなりで不機嫌そうに棍棒をパンパンさせる激強リア充モヒカンが目に入る。
前門のゾンビ、後門のヒャッハー。そして空から泣き落とし。俺に自由なんて無い。この世界に来てから一度だってあったものか!
「……ヒャハ子、『付いてこい、お前の助けがいる』」
「ヒャッハァァァァッ♪」
無情なるシステムメッセージが、俺に返事の意味を告げた。
〈ヒャハ子が仲間になりました〉
俺は泣かねぇよ。泣けねえがな。




