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HGL!  作者: 真月みなも
マリアージュ編
4/15

3 チーズケーキとカモミールティー



 マイハウスの操作用のウィンドウを開いて、家具を選んで……と。

 おー、簡単に配置できるー。まさか、家具の移動が手作業になっちゃってたりしたら、どうしようかと思ったけど、システムそのまま使えるのは助かるなぁ。


 最初はおっかなびっくりの操作だったけど、マウスクリックとそんなに変わらない感覚でアイテムが移動できるのは、とっても助かる。


 とりあえず、居間の椅子を少し増やしておく。来客に備えないとね。あとはふかふかのラグかなぁ。ソファの前に配置、っと。


 あー、こんな事態なのに、なんだか楽しくなってきちゃったんだけど!

 自分の部屋の配置換えって、こんなに楽に出来ないし。

 あ。アイテムインベントリが開く。何か食べるものとか出しておこうかな。……まず、食べられるかどうか、毒味してみてからだけど。


 カインが生産職を料理にしているのは、料理アイテムにはステータス上昇を助けてくれる物があるからだ。思い切りステータスに偏りがあるからねえ…。


 幸いにも、ロスト・タクティクスでは複数のステータス上昇効果を重複できるから、あたしはそれを活用させて貰っている。たとえば、魔力と幸運と体力を同時にとか。同じ効果のアイテムを重複することは出来ないんだけどね。たとえば、幸運を10上げてくれる食べ物と、20上げてくれる食べ物を同時に使う事はできない。その場合は、後から食べたアイテムの数値で上書きされてしまうんだ。


 生産アイテムにも、細かく熟練度が設定されていて、やっぱりそれぞれ極める事で、効果が大きくなったり、成功率が高くなったりする。熟練度の高さは、そのアイテムに設定されている完成度を見ると、大体分かる。あとは素材にも完成度が設定されていて、その数値が高い物を使う方が、完成品も数値が高くなってくるんだ。


 極めれば極める程、良い物ができる。


 こういう努力が報われる部分が、大好きだ。もう、ホントやり込み派には堪らない。

 というわけで、鍛えに鍛えまくった料理技術で作り上げたハーブティーとチーズケーキです。素材も、一流素材をマーケットで仕入れたので、最高の出来と言えよう。


 アイテムインベントリから取り出すと、ふわっと優しくカモミールの香りが漂う。

 うん、匂いは大丈夫そうだね……。


 テーブルの上にケーキとハーブティーを配置すると、フォークを手に取り、まず一口。ふわっと柔らかい口溶け。甘過ぎず、優しいチーズの香りが口の中いっぱいに広がる。なんて自分好みな味……!これって、今まで食べたチーズケーキの中で、一番好みかもしんない……!


 思わず自画自賛しちゃったけど、うん、これホントおいしい。

 熟練度とか完成度の数値に関係してるのかな、やっぱ。


 これなら、お客様を迎えるのには、文句のない状態だわ。あとは、到着の連絡を待つばかり、と。

 ハッシュとジル姉さんを呼んでみたんだ。落ち着ける場所としては、マイハウスが良いかなと思って、整えてみた。疲れてるかもしれないから、休むにもちょうど良いしね。



 ピンポーンと、慣れた呼び出し音が響いて、あたしはフレンドチャット欄を操作する。開いたスクリーンに、黒茶狼耳の獣人の青年の顔が映し出される。ハッシュだ。


『カイン、黒猫通りに着いたよ』


「オッケー、じゃ、ゲート二人分だけ開けるよ」


 マイハウスは参加人数が設定できるタイプの、チャットルームのようなスペースだ。部屋の主に、その変更権がある。あとは、困った人が来た時に、強制的に排除する権利とかね。閉鎖空間は何があるか分からないからなー。


 あたしは設定を弄って、ハッシュに伝える。多分、今は外に入る為の扉が現れているはずだ。指定人数が埋まれば、その扉は消える仕様になっている。


「お邪魔しまーす」

 がちゃっと扉が開いて、二人が室内へと入ってくる。


 ゲーム内で見た姿とは言え、懐かしさを覚える二人の姿に、あたしは安堵した。もし、あたしだけが取り残されたなら、きっともっと不安だっただろう。

 仲間って思える人達がいてくれて、ホントに良かった。


「いらっしゃい、ハッシュ、ジル姉さ……」


「カインくーーーーーんっ」

 ぼふっと柔らかい感触に突進された。衝撃に驚く間もなく、むぎゅむぎゅと押しつけられる柔らかい感触。いや、あの。そういうの、別に求めてないんですけど。


「ちょっ、待っ、ジル姉さん、当たってます、当たってます~!!」

「当ててんのよっ」

何故か自信満々に返された。こんなお決まりのギャグをかませる程には、気分が浮上したんだろうか。


「もー、ジル姉さんのそれ犯罪だからー」

 突然の抱擁攻撃に慌てる素振りのあたしを見かねて、ハッシュが救出してくれる。

 じたじたと暴れるジル姉さんをあしらうハッシュの様子に、仲が良いんだなぁ、と思わずしみじみしてしまう。


 友達同士でマリアージュした、って言ってたから、他のカップルみたいにべたべたした所がないのが良いんだよね。下手にカップルと仲良くなると、いらない嫉妬を受けたりすることもあるし。


「あんまり誰にでも、そういう事してると、大変な事になるからねっ」

ビシっと人差し指を立てながら、あたしはジル姉さんに言う。はぁい、と素直に応える姉さんはちょっと可愛かった。根は素直な良い人なんだよね。


「さ、こっちどうぞ。お茶とケーキで良かったかな?」

 あたしは居間へと二人を招いて、椅子を勧める。甘い物って気分を落ち着かせてくれるよね。


「はわー…」

 甘い物で気が緩んだのか、ジル姉さんが幸せそうな声を上げる。


「うっわ、何コレ、何コレ」

 同じくチーズケーキを口にしたハッシュは興奮し過ぎて、ぶんぶんと尻尾が音を立てて揺れている。良いなぁ、尻尾良いなぁ。


「熟練度には自信あるからねー」

 ほわんとしながらあたしは答え、ケーキを口に運ぶ。とろける口溶けが癖になりそう。自分で作っておきながら難だけど、コレって乙女泣かせだわ。食欲止まらなくて食べ過ぎそうな感じ。


 ぽっちゃり系へたれわんこ魔術師……ダメダメっ!


 思わず想像しちゃってぶんぶんと首を振る。ぽよんとおなかの出たカインなんて、ちょっと愛せないわっ。


「カイン、これおいしいよっ。今すぐお店開けそうっ」

 まだ興奮気味にチーズケーキを貪るハッシュに、思わずおかわりのケーキを出してしまった。こんな風に喜んで貰えると、作った身としては、やっぱり嬉しいもんね。


 熟練度上げに励みまくった所為で、あたしのアイテムインベントリはチーズケーキに侵食されまくっているのだ。まだまだ大量のチーズケーキが眠っている。

 うん、でも、あたしはぽっちゃり系は遠慮したいので、おかわり我慢しとこ。……太るかどうか分からないけどねー。


 しかし、このアイテムインベントリ、すっごい便利かもしれない。中に入ってる食べ物は、そのままの鮮度で保管されるのか、傷んでいる様子はないし。

 こうやって一つ一つ使い勝手とか調べておかないとね。何が起こったのか、まだ全然把握できてはいないけど。


 程良い糖分に癒されながら、あたし達は情報交換を始める。

 と言っても、あたしマイハウスから外に出てないから、知ってる事と言っても限られちゃうんだけど。兄から聞いた、HPが0になると神殿に送られるようだという話は、二人を安心させられたようだ。まだ実際に自分の身で試してないから、本当かどうかは分からないけど、兄の周囲はそんな嘘を吐くような人ばかりじゃないみたいだから、信じても良いんじゃないかと思う。


「私達は、ラムダの洞窟にいたのは、もうハッシュが話してるのよね」

「うん」


 相槌を打ちながら、あたしはハーブティーを啜る。カモミールティーって、なんか落ち着くよね。寝る前に飲むのが良いって聞くけど。


「ロープ使って脱出したって聞いてる」

 ロープ使えるのは幸いだよね。ダンジョン最深部とかに潜っちゃってた人も、当然いるんだろうし。HP0で帰還よりは、ロープで脱出の方が、まだ精神的に良さそう。


「帰還石も使えるみたいだったから、それ使ってサウスタウンに戻ってきたの。そのまますぐこっちに来ちゃったから、あんまり詳しく分からないんだけど……」


 帰還石は、指定した街に戻る為の消耗アイテムだ。それぞれ街には帰還ポイントがあって、石塔が立っている。そこの石塔に登録をしておくと、帰還石を使用した時に、その場所に転移するっていう仕様。

 あたし達はサウスタウンを拠点にする事が多いから、ここに記録してるんだ。


「来る途中見たけど、広場とか、座り込んじゃってる人がいっぱいいたよ。俺達の他にも、結構プレイヤーがインしてたみたいだね。パニックしちゃってる人が多いみたい……」

 へにょっとハッシュの黒茶耳が垂れる。


 まあ、当然だろうねぇ。こんなゲームとかマンガみたいな事態が、実際に自分の身に降りかかるなんて想像したこともなかったし。この状況で、手放しに喜べるなんて、よっぽどの廃人とか……事態良く分かってないお子様とか?

 あたしも、さっきの配置換えとかでちょっと楽しんじゃったけど、まだパニックしてるもん。


「ギルド組んでる人とかは、メンバー同士で呼び合ったりして、集まってるみたいだったわよ。塵とか、デスパレとか固まってるの見たわ」

 ハーブティーで口を湿らせながら、ジル姉さんが言う。


 塵……DDDダスト・ダスト・ダストっていうギルドの別名ね。スリーディーとか、塵とかって略されたりするのよね。廃人と変態紳士の巣窟って言われてるんだけど……なんていうか、萌えを追求する人達が多くて、メンバーの大半が女性キャラだ。悔しいけど萌える塵スレとか、よく非公式な掲示板で立ってるみたい。


 デスパレも、死の舞踏(デス・パレード)っていうギルドの略称。うん、名前の痛さの通り、厨二病な人が多いっていう話だけど、同時に廃人も多いギルドだ。新マップのアップデートとか来ると、先に攻略するのは塵かデスパレか、って話題が出る位には、有名なギルドかな。


 両方とも人数の多いギルドだし、やっぱり集まってるのか。人間って群れる生き物だしねー。不測の事態だし、やっぱり見知った仲間で固まる方が安心っていうのはあるんだろう。あたしは、特にギルドに参加してる訳じゃないから、そういう集まりはないけど、やっぱり一人じゃ不安なのでハッシュとジル姉さんを呼んだ訳だし。


「フレチャ使えるのは良かったなー。使えなかったら、きっと俺、泣きながらサウスタウンでハッシュ達探し回ってたと思う」

 へらっと笑って肩を竦めつつ、あたしは言う。その様子を想像したのか、ハッシュとジル姉さんは笑ってくれた。


 サウスタウンを拠点にしてる友達は多いけど、サウスタウンの人口自体が多いから、探すのは大変かもね。先述の塵とか、デスパレもこの辺りが拠点だし。


 銀行施設やマーケット、NPCのショップもあり、なかなか使いやすい場所なんだ。クエストも豊富にあるし。使いやすいってことは、プレイヤーも集まるから、プレイヤーキャラクターが直接アイテムを販売する露店とかも多い。マーケットはNPCキャラが管理してくれるんだけど、売るのに仲介手数料がかかる。


 当然高額なアイテムほど手数料が多くかかるから、それを惜しむプレイヤーもいる。あとは、純粋に始めたばかりで、お金がない初心者プレイヤーとか。そういうプレイヤー達が露店を開いたりしてるんだ。


 露店の状態になると、アイテムを出している間は動けなくなるから、放置状態にするか、友達とかギルドメンバーとチャットでお喋りをするか、って感じかなぁ。


 マーケットに流す場合だと、NPCが販売を処理してくれるから、出している間は自由に動けるんだけどね。お金を払って自由時間を取るか、お金を払わず時間を拘束されるか……って感じか。


 む、と不意にハッシュの黒茶耳が垂れる。

「ログアウト、できないんだよね……。正直、まだ信じらんない感じ……」

 溜息と共に吐き出された声は、あまり元気がなかった。


 落ち込む友人を前に、獣耳良いなー、可愛いなー、とか思って萌えちゃってるあたしは、呑気すぎる上に人でなしだろうか。


 でも、ごめんなさい。キャラ萌えだけで飯三杯いけます。あたしの活力です。やる気です。やる気なかったら、何にもできません!!


「ま、なるようにしか、ならないでしょ。とりあえず俺達は、何ができて何ができないのか確認しなくっちゃね」

 とりあえず、励ましついでに頭を撫でつつ、もふもふを堪能させてもらった。もふもふ気持ち良い。もふもふは正義です。


「でも、まずはっ!」


「まずは?」

 気合いたっぷりに叫んだあたしに、揃って二人が首を傾げる。


「たっぷり睡眠!寝不足頭じゃ何にも考えられませんっ!」

 そう。あたし達は夜にログインしてて、こうなったんだ。もう良い時間だもんね。

 そんな良い時間にケーキとか食べちゃったけどなっ!

 でも、気分を落ち着かせるように、安眠効果のカモミールティーも出してみたし、多分大丈夫っしょ。


「ささ、お部屋の支度もしてあるから、しっかり寝ましょー!」


 マイハウスは、完璧にあたしの趣味です。倉庫も重宝だけど、それ以外も充実させて遊びたかったから、しっかりと拡張してある。


 可愛い家具とか見ると、ついつい買っちゃうのよね。置くための部屋とかも欲しくなっちゃうし。こればっかりは、譲れない娯楽だわ。


 こんなおうちに住みたいっていう欲求とか、たっぷり反映されてると思う。

 あたしに導かれるまま、客間へと移動したハッシュとジル姉さんは、呆れたようにあたしを見る。


「なんか、前より部屋おっきくなってない?」

「趣味ですから」

 きっぱりと答えながら、あたしは二人をそれぞれの部屋に案内する。中の人の性別がどうであれ、マリアージュしてるとはいえ、一応ハッシュは男性だし、ジル姉さんは女性だからねー。それぞれ送り届けてから、あたしも自分の寝室へと向かった。


 天蓋付きのベッド!ちょっと憧れてたんだよねっ。

 まさか、こんな形で実現しちゃうとかいうのは、予想外だったんですけど……。


 思い切り飛び込んでも、ふわっと優しく受け止めてくれるマットレス。すっごいふかふかで、想像していた以上に気持ち良い。


 なんていうか、ここから出たくなくなりそうな位に気持ち良い。

 興奮してるし、眠れるかな、ってちょっと心配だったんだけど。結論から言えば、あっという間にあたしは夢の中の住人になっていた。



                  

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