第4章:甘すぎる同床と、無自覚な夜
耀天の広すぎる寝台の中、私は掛け布団を頭までかぶり、毛布の中で丸くなっていた。
隣には、この国の頂点に立つ冷酷な摂政――のはずの男が横たわっている。
同じ布団の中に男(しかも超絶イケメン)がいるというだけで、背筋を走る緊張感が尋常ではない。
(いくら身体は男でも、中身は乙女なのよ! こんな至近距離で男の人の寝息とか、体温とか感じたら、正気でいられるわけないじゃない……!)
「蓮鳳」
頭上から、低く掠れた声が降ってきた。
同時に、すっと掛け布団が少しだけ捲られ、冷たい夜気が入ってくる。
「ふぐっ……!」
顔を出された瞬間、目の前に広がっていたのは、黒髪を乱した耀天の美貌だった。
昼間の隙のない完璧な朝服姿とは違い、胸元が少し寛いだ白い長袍から覗く鎖骨や喉仏が、妙に生々しい。
「……息苦しくないのか。そんなに縮こまって」
「だ、大丈夫です! 私は端っこで小さくなっていますから、皇兄様は広々とお休みください!」
必死で距離を取ろうと寝台の縁へ身を寄せると、耀天の眉がぴくりと動いた。
「あまり端に行くと落ちるぞ。……こちらへ来い」
「いいえ! ここが私の定位置ですので――きゃっ!?」
拒否する間もなく、強い力で腰を抱き寄せられた。
視界がぐるりと回り、気づいた時には耀天の広い胸の中にすっぽりと収まっていた。
「ひ……っ!?」
背中には耀天の胸板。腰には彼の大木のように太く力強い腕が回され、完全にロックされている。
密着した背中から、ドクドクと伝わってくる彼の力強い脈拍。そして、彼の首元から漂う甘く清涼な香木の匂いが、私の脳麻痺を引き起こしそうになる。
「こ、皇兄様……ッ! これ、いくら何でも近すぎ――」
「動くな。……お前が逃げようとするからだ」
耀天は私の頭頂部に顎を乗せ、満足そうに低く息を吐いた。
その腕の力加減は驚くほど優しく、けれど絶対に逃がさないという強い執着に満ちている。
(あ、赤面どころじゃない……! 顔から火が出そう……っ!)
耳元で彼の吐息を感じるたびに、身体が跳ねるようにピクッと震えてしまう。
「自分は男だ」と言い聞かせようとしても、元・女子としての反応は騙せない。赤くなり、指先までプルプルと震わせながら固まっている私を感じて、耀天が胸の奥で低く笑った。
「……フフっ。本当に、お前は面白いな」
(また笑った……! この人、私のこの反応を完全に面白がってるでしょ!?)
「以前の無口で怯えるだけの顔より、今のようにもぞもぞと動いて顔を真っ赤にしている顔の方が、ずっと私を狂わせる」
「狂わないでください!! 摂政閣下が狂ったら国が傾きますから!!」
「ならば、お前が私を繋ぎ止めておけ」
耳元で囁かれたその言葉は、もはや冗談でも冷やかしでもなく、ぞっとするほど真真に満ちていた。
(詰んだ……。完全にツボにハマったどころか、逃げ道をすべて塞がれた……!)
男として平穏に隠居する私のスローライフ計画は、こうして完全に崩壊した。
冷酷だったはずの義兄の甘い執着と、自分自身の制御不能なときめき(過剰防衛反応)に挟まれながら、私の波乱に満ちた宮廷同居生活が本格的に始まってしまったのだった。




