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第16章 休日の散歩と飛行機雲


今日は休日。紗江は朝からなぜかソワソワしていた。田島がツアーの途中で立ち寄るかもしれない、と連絡があったからだ。田島は「顔だけ見ればそれで満足」と言ったが、紗江の心の奥はもっと長く一緒にいたいと願っていた。


部屋にいると胸がモヤモヤして落ち着かない。散歩に出る準備を整え、外に出た。いつも通勤で通る道とは反対方向へ歩き出す。少し歩くと、中規模の公園に水辺があり、ベンチがいくつか置かれている。紗江はボトルに入れたコーヒーとクッキーを持ち出し、そこで飲もうと決めた。


道すがら、普段見慣れない景色に心が躍る。隠れ屋のようなおしゃれなカフェや小さな雑貨屋が並び、歩くだけでワクワクが止まらない。思わず雑貨屋に立ち寄ると、大人向けの黒いレザーのキーカバーを見つけた。白の編み目が美しく光る。「あの人、こういうの好きかも…」と小さく呟き、手に握りしめる。


「プレゼント用でお願いします」店員に告げると、丁寧に包装されて手渡された。紗江は心の中で何度も「サプライズ…サプライズ」と繰り返す。再び公園に向かい、家を出てから40分ほどで水辺のベンチに腰を下ろした。額の汗をハンカチで拭き、紙コップにコーヒーを注ごうとしたその時、背後から声がした。


「朝比奈さんっ!」


振り返ると、ランニング姿の三上が立っていた。


「三上さん…⁉️」

「朝比奈さん…何でここに?」

「さ…散歩に来ました」

「僕たち…よく会いますね」

「ええ、まぁ…びっくりしました。今からコーヒーを飲むんですけど、三上さんもどうですか?」


驚いた顔の三上は少し照れ、紗江の隣に腰を下ろした。二人は湖面を眺めながらコーヒーを口にする。三上は小さく笑い、「出勤前に時々体力作りに走っているんです」と照れくさそうに話した。


「意外でした…」紗江が答えると、先日のジュヴレ・シャンベルタン アン・シャンの話題になり、30分ほど話し込む。三上は立ち上がり、「今度は違う意味での驚きがありますので、楽しみにしていてください」と言い、ランニングへ戻った。


紗江は「楽しみにしています」と微笑む。ひとりになった紗江はバックからクッキーを取り出し、コーヒーと一緒に口に運ぶ。空を見上げると、幾重にも重なる飛行機雲がまるで付箋のように広がっていた。


その時、田島からLINEが入る。


――ごめん、時間が調整できなかった、夜にオンラインで話そう

――分かった、夜に待っているね

――じゃ、後程ーー

――了解しましたーー


紗江はいつの間にか落ち着かない気持ちが平常心に変わっていることに気づく。ブラックコーヒーの苦味が、少し寂しい心に染み渡る。


――私は大丈夫――


何度も心の中で呟きながら、紗江は静かに微笑んだ。

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