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第14章 夢の後で…


翌朝早く、田島は紗江のマンションを出て次の移動先へ向かった。

エレベーターの扉が閉まるまで見送り、玄関の静けさが戻った瞬間、紗江は今日が休日だったことを思い出す。


ソファに腰を下ろし、会社から持ち帰ったノートPCを開いてメールを確認する。

昨夜までの余韻が、少しずつ現実に溶けていく感覚。

――別れたあとに訪れる、この感じにも、少し慣れてきたのかもしれない。


メールを閉じ、キッチンで昨晩の片付けを始める。

久しぶりに自分でドリップしたコーヒーの香りが部屋に広がり、スピーカーからはエリカ・バドゥ。

その低く柔らかな声が、田島と離れたあとの隙間をそっと埋めてくれた。


何気なく開いたInstagramで、一枚の料理写真に目が止まる。

〈ブリのレアソテー 柑橘マリネ添え〉

ワインに合いそうだ、と直感的に思い、紗江はいつものスーパーへ向かった。


「ブリ、甘夏……」

食材を選んでいると、背後から声がする。


「朝比奈さんっ」


振り返ると、そこに立っていたのは三上だった。

紗江は少し驚いた様子で言った。「三上さん?ここでお買い物ですか?」

「ええ、時々立ち寄るんです」


たわいない会話のあと、三上が少し間を置いて言った。

「もしお時間あれば、近くのカフェでお話しできませんか?」


一瞬戸惑いながらも、紗江は頷いた。


二人が向かったのはcafé Éclatカフェ・エクラ

白を基調にした可愛らしいカフェで、向かい合って座る。

「お腹、空いていませんか?」

三上は紗江を気遣っている様だった。

紗江は「大丈夫です。このソーダをください」と指を指す。



注文が届き、ソーダを口にしたとき、三上が切り出す。

「例の、ワイン選びの件なんですが……」


その話題に、紗江はなぜか安堵した。

三上はバッグからフランスワインの一覧表を取り出し、真剣な眼差しで説明を続ける。

紗江の眼差しに引き込まれそうになる自分を、必死で抑えながら。


時計を見た三上が立ち上がる。

「また意見を聞かせていただけますか?」

「私でよければ、ぜひ…。」


別れ際、三上は微笑んだ。

「試飲していただきたいワインがあるんです」と紗江に伝える。

「分かりました、近々伺いますね」

そんなやり取りを交わし二人は別れた。


マンションに戻った紗江は、ブリのレアソテーを仕上げ、三種のチーズと白ワインを用意する。

写真を撮り、「今度一緒に食べようね」と添えて田島に送信。


エリカ・バドゥ、白ワイン、そして静かな夜。

今日の締めくくりに、これ以上のものはない――そう思いながら、紗江はグラスを傾けた。


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