夏の恵みと、『永久氷室(パーマネント・アイスボックス)』
俺が『魔法創造』のスキルに目覚めてから、季節は再び巡り、ポプラ村に、二度目の夏がやってきた。
この一年で、俺の生活は、劇的に、変化していた。
俺の家には、もはや、暖炉に火を熾すための、火打ち石は、必要ない。『着火』の一言で、いつでも、火は手に入る。
洗い物は、『水流洗浄』で、一瞬で、ピカピカだ。
畑仕事で汚れた服も、『自動乾燥』で、すぐに、乾かすことができる。
俺が、次々と生み出す、地味で、便利な『生活魔法』の数々は、当初、村人たちから、気味悪がられたものの、その、あまりの便利さに、今では、すっかり、村の生活に、溶け込んでいた。
俺は、簡単な魔法の使い方を、アンナや、村の子供たちに教え、彼らの生活もまた、少しずつ、豊かになっていった。
もちろん、俺が教えたのは、あくまで、生活を補助する、ごく初歩的な魔法だけだ。攻撃魔法のような、危険なものは、俺だけの、秘密にしている。
だが、そんな、魔法に満ちた、快適なスローライフにも、一つだけ、解決できない、大きな問題が、残っていた。
それは、『食料の長期保存』の問題だった。
夏になれば、太陽トマトや、瑞々しい葉物野菜が、たくさん、収穫できる。
川では、脂の乗った魚が、大量に、獲れる。
だが、それらは、どれも、足が早い。
干物にしたり、塩漬けにしたり、といった、伝統的な保存方法では、その、獲れたての美味しさを、保つことは、できなかった。
「……ああ、もったいない。この、キンキンに冷えた川の水で締めた魚を、一週間後も、同じ鮮度で、食べられたらなあ……」
ある日の午後。
川で獲ったばかりの魚を、捌きながら、俺は、そんなことを、呟いていた。
その、何気ない一言が、次の、大発明の、引き金となった。
(……待てよ。冷やす? 氷?)
俺の脳内で、魔法創造の、新たな回路が、繋がり始めた。
火を熾せるなら、その逆も、可能なはずだ。
熱を『生み出す』ことができるなら、熱を『奪う』ことも、できるはず。
俺は、工房に、駆け込んだ。
そして、一枚の、大きな羊皮紙の上に、新たな魔法の『設計図』を、描き始めた。
俺が、イメージしたのは、前世にあった、ある家電。
電気の力で、箱の中の熱を、外に排出し、内部を、低温に保つ、魔法の箱。
―――冷蔵庫。
だが、この世界に、電気はない。コンプレッサーも、冷媒ガスも、存在しない。
俺は、それを、全て、『魔法』で、代用する必要があった。
俺は、まず、村の木工職人と協力し、分厚い木材で、大きな『箱』を、作り上げた。
そして、その、箱の内壁に、特殊な加工を施した、スライム・レザーを、何重にも、貼り付けていく。これは、外の熱を遮断し、中の冷気を逃さないための、『断熱材』の役割を果たす。
そして、ここからが、魔法の出番だ。
俺は、箱の、内部と、外部を繋ぐように、熱を伝えやすい、銅製のパイプを、設置した。
そして、そのパイプに、二つの、全く逆の性質を持つ、魔法を、付与していく。
一つは、箱の内部のパイプに、かける魔法。
周囲の熱を、強制的に、吸収し、パイプ自体を、冷却する、『吸熱冷却』の魔法。
これは、気化熱の原理――液体が、気体に変わる時に、周りの熱を奪う現象――を、魔法で、再現したものだ。
もう一つは、箱の外部のパイプに、かける魔法。
パイプ内部に集められた熱を、強制的に、外気へと、放出する、『強制排熱』の魔法。
この二つの魔法を、常に、発動させ続けることで、箱の中の熱は、どんどん、外へと排出され、内部は、常に、低温に保たれる、という仕組みだ。
魔力の供給は、箱の底に埋め込んだ、小さな『魔石』から、行う。これなら、半永久的に、稼働させ続けることが、可能だ。
数日間にわたる、設計と、製作、そして、魔法の付与。
ついに、俺の工房に、世界初となる、『魔法の冷蔵庫』が、完成した。
俺は、それを、『永久氷室』と、名付けた。
俺は、おそるおそる、その、重い扉を、開けてみた。
ひんやりとした、冷気が、顔を撫でる。
中に入れた、一杯の水は、一晩で、カチコチの、氷に、変わっていた。
「……成功だ……!」
俺は、思わず、叫んでいた。
その日の夕食。
俺の家の食卓には、一週間前に獲ったはずなのに、まるで、今、釣り上げてきたかのように、新鮮な、魚の刺身が、並んでいた。
そして、デザートには、永久氷室で、キンキンに冷やした、甘い、太陽トマト。
その、あまりの美味しさに、俺も、ルナも、そして、おすそ分けにやってきたアンナも、言葉を、失っていた。
これは、革命だ。
食文化の、革命だ。
俺たちの、スローライフは、また一つ、新たなステージへと、進化した。
俺は、冷たい刺身を、頬張りながら、次に作るべき『生活家電(魔法)』に、思いを馳せていた。
そうだ、今度は、氷ができるなら、あれも、作れるんじゃないか?
夏に、最高の、あの、冷たくて、甘い、デザートを……。
俺の、発明と、食欲は、もはや、誰にも、止められそうに、なかった。




