プロローグという名の決意表明
俺、水無瀬は、ある日唐突に、自分が「小説家になろう」系のファンタジー世界の登場人物であると自覚してしまった。
普通なら、絶望するか、あるいは、チートスキルでも探して成り上がりを目指すところだろう。
だが、俺は違った。
俺の脳内に流れ込んできたのは、膨大なラノベや漫画の知識。それらが導き出した結論は、ただ一つ。
「――絶対に、目立たない」
主人公になれば、魔王と戦わされる。
ヒロインと関われば、面倒なイベントに巻き込まれる。
強力なライバルキャラなど、死亡フラグの塊だ。
冗談じゃない。俺が望むのは、そんな波乱万丈な人生じゃない。
朝は鳥の声で目を覚まし、昼は畑仕事に汗を流し、夜は自分で育てた野菜で作ったシチューを食べる。そんな、地味で、退屈で、どこにでもあるような、平穏な『スローライフ』だ。
物語の強制力が俺を捉える前に、俺は行動を開始した。
なけなしの金をはたいて、一頭のロバと、オンボロの荷馬車を買う。そして、物語の中心地になりがちな王都を、一目散に後にした。
目指すは、人里離れた辺境の地。
地図の端っこに、米粒ほどの大きさで記されている、『ポプラ村』という名前の、小さな村。
そこなら、きっと、勇者も、魔王も、お忍びの王女様も、やっては来ないだろう。
これは、俺が、神(作者)の筋書きから逃れ、自分だけの『物語』――いや、『日常』を、自分の手で作り上げるための、静かなる戦いの記録である。
世界を救う? 興味ないね。
俺が救いたいのは、俺自身の平穏な未来だけだ。




