復讐の『設計図』と、異世界の『鉄塊』
狩人の小屋に籠り、来る日も来る日も金属を生み出し続けて、一週間が経った。
小屋の中は、もはや足の踏み場もないほどの金属の山。俺の『物質形成』スキルは、今や、一度に数キログラムの鉄塊を、寸分の狂いもなく作り出せるまでに上達していた。
だが、これだけでは、足りない。
ただの金属の塊では、あの『ルール』を纏ったゴブリン・チャンピオンには、届かない。
俺に必要なのは、剣でも、槍でもない。
この世界の『理』そのものを、無視できるほどの、圧倒的な『何か』。
俺は、目を閉じ、かつて、俺の中にあったはずの『知識』の奔流に、意識を沈めていった。
前世の記憶はない。だが、なぜか、日本の、特にミリタリーやSFに関する知識だけは、鮮明に残っている。
銃、戦車、戦闘機。火薬、爆薬、レールガン。
その、膨大な『設計図』の中から、俺は、一つの『答え』を、選び取った。
それは、俺が、かつての知識の中で、最もそのデザインを愛し、その性能に惚れ込んでいた、一つの銃器。
近未来的なフォルムを持つ、ベルギー製の、異形のサブマシンガン。
「……これだ」
俺は、目を開けた。
その瞳には、もはや、迷いはない。
俺は、これまでに生み出した全ての金属を、一度、頭の中で『溶解』させ、再構築を開始した。
スキルを行使する。
俺の目の前の空間に、少しずつ、パーツが形成されていく。
強靭な鋼で作られた、レシーバーとボルト。
軽量なアルミ合金の、フレーム。
耐熱プラスチックポリマーの、グリップとストック。
一つ一つの部品を、俺のメタ知識にある、完璧な設計図通りに、寸分の狂いもなく、生み出していく。
それは、もはや、神の御業だった。
いや、神(作者)の作ったルールを破壊した、その先の、悪魔の所業か。
数時間後。
俺の手の中に、一つの『鉄塊』が、完成した。
全長50センチメートル。重量、約2.5キログラム。
上部に配置された、半透明の弾倉。人間工学に基づいた、独特のグリップ形状。
FN P90 (プロジェクト ナインティ)。
この、剣と魔法の世界には、あまりにも不釣り合いな、異次元の『凶器』。
俺は、その冷たい感触を、確かめるように、何度も、撫でた。
だが、これだけでは、ただの置物だ。
次に、俺は、弾丸を、作り始めた。
5.7x28mm弾。
硬い鋼鉄の弾芯を、柔らかい鉛と、銅のジャケットで覆った、特殊な小口径高速弾。
これもまた、設計図通りに、完璧に。
そして、最後に、弾丸を発射するための『火薬』。
ニトロセルロースと、ニトログリセリンの混合物。これもまた、物質形成スキルで、原子レベルから再構成し、作り上げる。
俺は、作り上げた50発の弾丸を、一つ一つ、丁寧に弾倉に込め、それを、P90の本体に、カチャリ、と音を立てて、装着した。
そして、予備として、もう一つ、同じ50発入りの弾倉を作り、腰のポーチに収める。
合計、100発。
これが、俺の、全弾だ。
これ以上を作る時間も、精神力も、残されていない。
俺は、完成したP90を、肩に担いだ。
不思議と、体にしっくりと馴染んだ。まるで、最初から、俺の体の一部であったかのように。
小屋の外に出る。
空の『黒い太陽』は、さらにその大きさを増し、世界は、不吉な黄昏の色に染まっていた。
俺が、仲間たちを見捨ててから、一週間。
彼女たちが、まだ、生きている保証はない。
だが、俺は、行く。
「……待ってろよ、みんな」
そして、
「待ってろよ、作者」
俺は、復讐の道具(P90)を手に、仲間たちが待つ(であろう)、あの戦場へと、再び、歩き出した。
ステータスは、最弱のまま。
だが、俺の手には今、この世界のどんな英雄も、どんな魔王も、持ち得ない、絶対的な『力』が、握られていた。
最後の戦いが、今、始まる。
俺の、100発の弾丸が、火を噴く時、この物語は、本当の『終わり』を迎えるのだ。




