表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『俺だけが知っているこの世界の「あらすじ」~モブ志望の俺は、神(作者)の死亡フラグをへし折る~』  作者:
王都激震!狙われた王女と……モブの俺

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/53

王女(ヒロイン)の暴走と、モブの最終決断

俺の『くすぐり地獄』作戦によって、『マッスル騎士団』は文字通り壊滅した。彼らは、心に深いトラウマを刻み込まれながらも(物理的には)無傷で解放され、王城へと逃げ帰っていった。

その報告を受けた王女アリシアの反応は、俺の想像を遥かに超えていた。

王城の玉座の間。俺のスパイ網からもたらされた情報によれば、そこでは、アリシアの怒声が響き渡っていたという。

「……ふざけるな! 私の騎士団を……国を、ここまで愚弄するとは! もはや、あの男に、一片の慈悲も不要!」

彼女の瞳から、かつての好奇心や、物語の登場人物としての輝きは、完全に消え失せていた。そこにあるのは、プライドをズタズタにされ、引き返せなくなった者の、剥き出しの憎悪だけ。

作者(神)は、ついに、ヒロインを『暴走』させるという禁じ手に打って出たのだ。

「全軍に告ぐ! これより、『忘れられた迷宮』及び、その周辺一帯の完全殲滅作戦を開始する!」

宰相や重臣たちの制止も聞かず、アリシアは叫んだ。

「魔導兵器の使用を許可する! 奴らのアジトごと、周辺の区画も、そこに住む民間人も、全て焼き払え! あの男に関わる全てのものを、この地上から消し去るのだ!」

……その報せを、ダンジョン最深部の司令室で聞いた俺は、静かに目を閉じた。

「……やりすぎだろ、作者」

民間人を巻き込む。それは、もはや物語の展開ですらない。ただの、八つ当たり。作者が、俺への憎しみだけで、この世界の無関係なNPCキャラクターたちを、駒として殺そうとしている。

俺は、今まで、どんな理不尽な展開も、どんな悪質な罠も、ゲームとして、遊びとして、楽しんできた。作者の筋書きを破壊し、その反応を見て、ほくそ笑んできた。

だが、これは違う。

これは、俺が守るべき『モブの矜持』を踏み越えた、許されざる一線だ。

俺がモブでいたいのは、物語の中心で輝く英雄や、悲劇のヒロインになりたくないからだ。そしてそれは、名もなき他のモブたちが、物語の都合で理不尽に殺されるのを見過ごすということじゃない。

「……マスター?」

ノワールが、俺の険しい表情を、不安そうに覗き込む。

俺は、ゆっくりと目を開けた。そして、俺の人生における、最も重大な決断を下した。

「……全員、聞け」

俺の声に、司令室に集まっていたノワールズ、スライムガールズ、そしてルナが、一斉に俺に注目する。

「このダンジョンを、放棄する」

「「「えっ!?」」」

全員が、驚きの声を上げた。

「俺たちがここにいる限り、アリシアは……いや、作者は、攻撃の手を緩めない。そして、その巻き添えで、関係のない街の人たちが死ぬ。それは、俺の流儀に反する」

俺は、静かに続けた。

「だから、俺たちは、ここから消える。この物語から、完全に退場する」

俺は、立ち上がると、これまで築き上げてきた全てを、見渡した。

この最強の要塞ダンジョン。スパイ網から得られる莫大な富。王都の裏側を支配できるほどの情報力。

「……全部、捨てる」

俺の言葉に、誰もが息を呑んだ。

「このダンジョンも、金も、情報も、何もかも、ここに置いていく。そして、俺たちは、誰も知らない場所へ行く。作者のシナリオが、絶対に届かない場所へ」

それは、俺にとって、最大の『敗北』であり、そして、最高の『勝利』を意味する決断だった。

作者とのゲームに、俺は、自ら『投了』を宣言したのだ。

だが、それは、作者が作った盤上から、自らの意志で降りるということ。物語の駒であることを、完全に放棄するということ。

その夜。

王都の全軍が、迷宮に総攻撃を仕掛ける、数時間前。

俺たちは、誰にも気づかれることなく、秘密の通路を使って地上へ脱出した。俺の懐には、当面の生活費となる、ほんのわずかな金貨だけ。

俺は、100名を超える元・魔物の少女たちと、一人のエルフの少女を引き連れて、振り返ることなく、王都を後にした。

目指す先はない。ただ、ひたすらに、文明から、物語から、遠い場所へ。

数週間後。

俺たちは、人里離れた、広大な草原にいた。地平線まで続く緑の絨毯。遮るものは何もなく、空はどこまでも青い。

ここなら、もう、アリシアの軍勢も、作者の悪意も、届くことはないだろう。

俺たちは、そこに、小さな集落を作り始めた。家を建て、畑を耕し、水を引く。

金も、便利な道具も、何もない。全てが、一からの手作りだ。

非効率で、泥臭くて、お世辞にも楽とは言えない生活。

だが、不思議と、俺の心は、今まで感じたことがないほど、穏やかだった。

「マスター! 見てください、綺麗な花が咲いてます!」

「ミナセさん、お昼ご飯ができましたよー!」

少女たちの、屈託のない笑顔と声。

ここにはもう、死亡フラグも、ご都合主義も、テンプレ展開も存在しない。

ただ、穏やかな時間が、ゆっくりと流れていくだけ。

俺は、大きく伸びをすると、草原の草の上に、大の字で寝転がった。

ああ、そうだ。

俺が、本当に欲しかったのは、これだったのかもしれないな。

何者でもない、ただの俺として生きる、名もなき日常。

作者よ、お前の勝ちだ。

そして、俺の勝ちだ。

この、何も起こらない、退屈なだけの最高のエンディングを、お前に捧ぐ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ