王女(ヒロイン)の敵対と、モブの籠城(ダンジョン経営)
俺が、新たに手に入れた『商品』たちを前に、第二のアイドルグループ結成を宣言した、まさにその時だった。
屋敷の玄関が、今度は礼儀正しく、しかし有無を言わせぬ強さでノックされた。
「……誰だ?」
ノワールが警戒しながら扉を開けると、そこには、王女アリシア直属の近衛騎士が、一枚の羊皮紙を手に立っていた。
「水無瀬殿に、第四王女アリシア殿下より、最後通牒である」
騎士は、冷たく言い放つと、羊皮紙を俺に突きつけた。
そこに書かれていたのは、極めて簡潔、かつ、無慈悲な命令だった。
要約すると、こうだ。
『貴殿が囲っている、魔族及びスライムと称する存在は、王国の平和を脅かす危険因子と認定する。即刻、全ての個体を引き渡し、王国の管理下に置くこと。従わぬ場合、貴殿を『国家反逆罪』に問い、屋敷ごと、実力を持って排除する』
(……なるほどな。そういう手で来たか、作者)
俺は、全てを理解した。
俺を直接殺すことも、乗っ取ることもできなかった作者が、次に打ってきた手。それは、この世界の『正規ヒロイン』である王女アリシアを、俺の『敵』としてぶつけてくることだった。
俺とアリシアを敵対させ、物語を強制的に『主人公 VS 国家』という、壮大なスケールに引き上げる。そして、その戦いの中で、俺を消耗させ、社会的に、そして物理的に抹殺する。実に、作者らしい、回りくどくて悪質なシナリオだ。
「……だ、そうです。皆さん、どうしますか?」
俺が、わざとらしく芝居がかった口調で、背後にいるノワールズと、新入りのスライムガールズたちに問いかける。
彼女たちは、一様に不安げな表情で顔を見合わせた。
すると、ノワールが、俺の前に進み出て、毅然と言い放った。
「マスター。私たちは、あなたの『商品』です。商品の所有権は、マスターにあります。誰にも、渡すつもりはありません」
それに続くように、スライムガールズのリーダー格らしき個体も、ぷるぷると震えながら、しかし、強い意志を目に宿して言った。
《……わ、私たちも……あなたに『価値』を、見つけてもらったから……!》
おいおい。
いつの間に、こんなに忠誠心(ビジネスパートナー意識)を育ててしまったんだ、俺は。
俺は、やれやれと肩をすくめると、最後通牒を突きつけてきた騎士に向き直った。
「……というわけで、答えは『NO』だ。アリシア殿下と、その背後で糸を引いてる陰険な作者様によろしく伝えておけ。戦争がしたいなら、いつでも買ってやると」
俺の宣戦布告に、騎士は顔を真っ青にして王城へ戻っていった。
さあ、戦争の準備だ。
だが、この屋敷で籠城するのは得策じゃない。すぐに兵に囲まれ、火攻めにでもされたらひとたまりもない。
俺が選ぶべき戦場は、一つしかない。
「全員、集まれ! 引っ越しだ!」
俺は、ノワールズとスライムガールズ、総勢100名近い軍勢を引き連れ、王都の地下へと向かった。
目指すは、あの『忘れられた迷宮』。
「ここを、我々の新たな『拠点』とする!」
俺の号令一下、彼女たちの能力を総動員した、大規模な『ダンジョン改築』が始まった。
ノワールズは、その腕力で新たな通路を掘り、強固な罠を設置していく。
スライムガールズは、その特殊な体質を利用し、壁や床に擬態して奇襲ポイントを作り上げたり、粘着質の『スライムトラップ』を仕掛けたりした。
俺は、司令官として、メタ知識をフル活用し、最も効率的で、最も悪랄なダンジョンの設計図を描いていく。
『ここに落とし穴を作れ。底にはスライムを配置して、粘着地獄にしてやれ』
『この通路は、ノワールズのゲリラ戦用に、あえて狭く、暗くしろ』
『最深部には、俺様専用の、豪華なボス部屋と、最高級のベッドを用意しておけ』
作者よ、お前が俺に与えた試練は、皮肉にも、俺だけの、俺のための、最強の『城』を作り上げる、最高の労働力となった。
これはもう、ただの籠城じゃない。
『ダンジョン経営シミュレーション』の始まりだ。
アリシアよ、騎士団よ、そして作者よ。いつでもかかってこい。
入場料は、お前たちの命で払ってもらうぜ。




