『命の危機』という名の作者の本気(ガチギレ)
俺の「どうでもいい予言」作戦は、数日間、効果を発揮した。
二度目に召喚された際、俺は「王城の庭師が、新種の毛虫に悩まされる話」を予言し、三度目には「侍女長が、流行りの刺繍の図案が手に入らずにやきもきする話」を披露した。その度にアリシアは頭を抱え、俺は早々に追い返された。完璧な流れだ。
だが、俺は知っていた。作者(神)が、このまま引き下がるはずがないことを。
その予感は、最悪の形で的中する。
その日、俺はルナと共に、街はずれの森へ薬草採取に出かけていた。いつも通りの、平和なモブの日常。
異変は、唐突に訪れた。
「ミナセさん、あれ……!」
ルナが指差す先、空が、急速に黒い雲に覆われていく。ゴロゴロと、不吉な雷鳴が響き渡る。天候が、ありえない速度で悪化しているのだ。
(来る……!)
俺は全身の神経を逆立たせた。これは、自然現象じゃない。作者による、直接的な「シナリオ介入」だ。
次の瞬間、俺たちの頭上目掛けて、紫色の雷が、凄まじい轟音と共に降り注いだ!
「うおっ!」
俺は咄嗟にルナを突き飛ばし、地面を転がる。俺たちが今まで立っていた場所が、雷に焼かれて黒く焦げ付いた。
だが、攻撃はそれだけでは終わらない。
まるで意思を持っているかのように、雷が次々と俺だけを狙って落ちてくる。俺は、まるで神の怒りから逃れる罪人のように、森の中を必死に走り回り、紙一重で雷撃を回避し続けた。
「ミナセさん!」「危ない!」
ルナの悲鳴が聞こえるが、もはや彼女を気遣う余裕はない。これは、作者が俺個人に対して仕掛けてきた、剥き出しの殺意だ。
俺がデタラメな予言でアリシアのやる気を削ぎ、壮大な物語の幕開けを妨害し続けたことに対する、実力行使。作者の、ガチギレだった。
《警告:これ以上のシナリオへの非協力的な態度は、キャラクターデータの『強制削除』に繋がります》
《速やかに王城へ向かい、王女アリシアに協力しなさい》
脳内に、もはや脅迫としか思えないシステムメッセージが響く。周囲には、雷に打たれて燃え盛る木々。地面には、俺を狙った無数の落雷の跡。完全に包囲されている。
「……はぁ、はぁ……」
さすがの俺も、息が上がってきた。
「わかったよ……わかった。行けばいいんだろ、行けば」
俺は天に向かって、中指を立てる代わりに、降参の意を示した。
これ以上抵抗すれば、本当に消される。作者は本気だ。モブとして生き残るためには、時には、巨大な悪(作者)の言いなりになるしかない時もある。
俺が降参の意を示すと、嘘のように黒い雲は晴れ、空には何事もなかったかのように太陽が顔を出した。あまりに都合のいい展開に、乾いた笑いしか出ない。
俺は、駆け寄ってきたルナに「大丈夫だ」とだけ告げると、泥だらけの服のまま、まっすぐに王城へと向かった。
王城の執務室で、アリシアは鬼の首でも取ったかのような得意げな顔で俺を迎えた。俺のこのボロボロの姿が、何よりの証拠だったのだろう。
「……どうやら、そなたにも『本物の物語』が始まったようではないか」
「ええ、まあ。おかげさまで、死にかけましたよ」
俺は、降参した。だが、ただでは屈しない。
俺は、観念したように深々と頭を下げた。
「アリシア殿下。……私が、間違っておりました。どうか、お許しください」
「ふん、ようやく認める気になったか」
「はい。実は、私がこれまで語ってきた予言は、すべてデタラメです。本当の物語が、あまりにも恐ろしく、殿下を危険に晒したくなかったために、嘘をついておりました」
俺は、悲劇のヒロインもかくやという、切ない表情で訴える。
「ですが、天は……神は、私に『真実を語れ』と命じております。このままでは、私の命が……」
この期に及んで、徹底的に「自分の命可愛さ」に固執する小者ムーブを貫く。これが俺の最後の抵抗だ。
アリシアは、俺の情けない態度に呆れつつも、満足そうに頷いた。
「よろしい。ならば、今度こそ真実の『物語』を語るがよい。私を退屈させたら、今度こそ、雷では済まさんぞ?」
俺は、覚悟を決めた。
仕方ない。やってやる。
お前ら(作者とアリシア)が望むなら、壮大で、感動的で、胸が熱くなるような、最高の王道ファンタジー(テンプレストーリー)を、完璧にプレゼンしてやる。
ただし、その主役は、断じて俺じゃない。
俺は、どこまでも『語り部』という名の、安全なモブに徹するだけだ。




