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小さな小さな物語  作者: 華ノ月


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14/15

14.愛しの君へ


 俺は昔から短気で、すぐ怒る性格だった。


 仕事場でもよく部下を叱っていたせいか、部下からは、少し怖がられていた。


 それは、家でも同じだった。


 妻が食事の準備に時間が掛かっていると怒鳴り、それを見ていた娘からは「嫌な父親」として映っていただろう……。


 だが、妻は俺が怒鳴っても、文句の一つ言わずに、家のことをしてくれていた。


 時々、この短気な性格を治さないと、離婚を言い渡されるかもしれないと、不安になったこともある。


 しかし、持って生まれた性格はなかなか変えられず、些細なことで怒鳴ってしまうことがよくあった。



 そんな俺も歳を重ね、85歳になった。


 ある日のことだった。


 俺は家の階段を踏み外し、転落してしまった。


 幸いにも、脳には異常がなかったが、身体を動かす事が出来なくなってしまい、自宅のベッドで、寝たきりを余儀なくされてしまった。


 そんな状態になり、俺はベッドの上でふと思った。



『これは、今までの自分の行いが悪かった罰なのかもしれない』



 そう思うと、不意に一筋の涙が流れた。


 俺がこんな状態になっても、妻は俺を見捨てずに、精一杯介護をしてくれた。


 ベッドの上で過ごすようになり、日々が過ぎていく……。


 ある日、俺は自分がもう長くないことを、なんとなく感じた。


 そして、それと同時に湧き上がる想い……。



 こんな身体になっても、精一杯介護してくれる妻……。


 俺が短気で怒りやすくても、そばにいてくれた妻……。



 次から次へと妻に感謝の想いが込み上げてくる……。


 俺は、愛している妻に、ちゃんとお礼を言ったことがなかった。




 『最後は、きちんと伝えよう』




 俺はそう思い、部屋に食事を運んできた妻に声を掛けた。


「ミサト……」


 俺が妻の顔を見ながら、妻の名前を呼ぶ。


「なんですか?」


 妻が微笑みながら、柔らかな声で応える。


「今まで、すまなかった……」


 俺の発した言葉に、妻はキョトンとした顔をする。


「俺は短気だからな……。今まで些細なことで怒鳴ったりして、本当にすまなかった……」


 俺がそう言葉を紡ぐと、妻は俺の手を優しく握ってくれた。


「あなた、覚えていますか?出張で地方に行く度に、私にお土産を買ってきてくれたこと……。その度に、あなたは喜ぶか分からないけどって言いながら、少し顔を赤くしてましたよね……」


「そ……そうだったかな……?」


 妻の言葉に俺はその時の事を思い出し、少し恥ずかしい気持ちになる。


「私はその度に、愛されているんだな〜っていう事が伝わって、本当に嬉しかったんですよ……」


 妻が微笑みながら、そう言葉を紡ぐ。


「私は、あなたの優しいところも沢山知っています。だから、私はあなたとずっと一緒にいたくて、毎日を頑張れたんですよ」


 妻の語る言葉に、俺は涙ぐんだ。


 感謝の想いで、心に温かいもので満たされていく。



「ミサト、愛してる……」



「私も愛しています……」



 俺と妻はお互いを見つめ合いながら、そう言葉を交わし、微笑み合う。


 温かな想いがオレの中で広がっていく……。


 それと同時に、俺は、強い眠気に襲われた。


「なんだか……もの凄く眠いな……」


「なら、眠るまで手を握ったままでいますね」


 妻が、優しく、優しく、俺の手を握り続ける。



 その温もりに俺は安心して、深い眠りに落ちていった……。



(完)

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― 新着の感想 ―
拝読させて頂きました。 とてもいい御夫婦ですね! 短気だけど実はいい旦那様でよかったです。 それ以上に奥様がいい人すぎる…。 でも最後は…。 泣きそうになりました。
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