12.最高の笑顔
「あ……これ……」
僕は部屋の片付けをしている時、一つのキーホルダーを見つけた。
懐かしくて、それを大事に手に取る。
あれは、僕が高校生になったばかりの頃だった。
(回想)
僕は高校生になり、クラスに気になる女の子がいた。
ハズキという名前の女の子。
「好き」とか、そういうのではなく、ただ気になる女の子だった。
今日も、教室で何気なくハズキを見つめる。
ハズキは、クラスの女子たちと笑って話している。
でも、僕にはハズキの笑い方に違和感があった。
楽しそうに笑っているけど、どこか無理して笑っているように見える……。
僕の中でそんな風にハズキは見えていた。
ある日のことだった。
僕とハズキはクラスの日直の関係で教室に残った。
「早く終わらせよっか!」
ハズキが明るい声を出しながら笑顔で言う。
「……なんで、無理してまで笑おうとするの?」
僕が発した言葉に、ハズキが驚いた顔をする。
「いつも笑顔で笑っているけど、本当は無理してるよね?」
僕が更に紡いだ言葉にハズキの顔から笑顔が消える。
「……どうして分かったの?」
ハズキが寂しそうな顔でそう僕に問い掛ける。
「なんとなく……」
僕は正直に応える。
「見抜かれたの初めて……」
ハズキが悲しそうに微笑みながら、そう言葉を紡ぐ。
ハズキはゆっくりと話しだした。
女子の間である特有の輪のこと。
輪を乱すことは許されない雰囲気があること。
話を合わせて入れば、攻撃されないこと。
ハズキは、攻撃を避けるための防衛として、笑顔を作り、話を合わせて笑っていただけだと知り、僕の心の中で苦しさを感じる。
何故なら、僕は僕のままでありたいから、誰とも馴れ合おうとしなかった。
その結果、僕の周りには人がいないけど……。
「……あれ?」
ハズキが話終わり、ふとハズキが足元に置いているカバンが目に入る。
「それ……」
僕が開けたままのカバンの中に入っている鍵の付いたキーホルダーを指差す。
「それ、ネットでしか歌が流れないグレイローズのキーホルダーだよね?」
「グレイローズ……知っているの?」
僕の言葉にハズキが驚いたように応える。
「うん。僕、その人の作る曲好きだから、よく聴いているよ」
「ホント?!じゃあ、この曲は知ってる?!」
ハズキが、グレイローズの曲名をいくつか挙げる。
どれも僕が好きな曲だったので、ハズキとグレイローズの話題で盛り上がる。
「……で、この曲がまた切ないんだけど、心にめちゃくちゃ響いたんだよね!」
ハズキが嬉しそうに話す。
その笑顔からは一ミリも無理している様子は無い。
それと同時に、胸が熱くなるのを感じる。
ハズキの笑顔は僕の心に温かな光が差し込むようだった。
ハズキのこと、好きかも……。
僕の顔が仄かに赤くなっていくのを止めることができない。
「好きかも……」
「え……」
僕の口から不意に出た言葉にハズキも顔を赤くする。
「え……えっと………グレイローズが好きってこと……だよね……?」
ハズキが顔を赤くしながらそう言葉を紡ぐ。
「その……ハズキのこと……好きかも……」
僕の発した言葉にハズキは顔を真っ赤にしてしまった。
(回想終わり)
あれ以来、僕とハズキは、二人で一緒にいるようになったな……。
そんな思い出に耽っていると、部屋のチャイムが鳴り響く。
社会人になった僕は、アパートで一人暮らしをしていた。
そして、今日から一緒に暮らす人が部屋に訪れた。
「今日からよろしくね!」
ハズキが満面の笑顔でそう言葉を紡ぐ。
その笑顔は、偽りの無い、本当の笑顔だった……。
(完)




