第三話 俺の鑑定はやっぱりおかしいらしい
三千年前に死んだ古代竜。
その死骸の上に、この村は建っている。
「……どうすればいいんだ、これ」
俺は山を見上げながら呟いた。
古代竜。
もちろん名前くらいは知っている。
かつて世界には、現在の竜とは比較にならないほど強大な竜が存在していたという。
だが、それも伝説の話だ。
本当に存在していたかすら分かっていない。
それが目の前にある。
しかも死骸だけで山になるほど巨大だ。
「村長に言った方がいいのか?」
いや。
何と言えばいい。
『この山、実は竜の死体ですよ』
信じてもらえるわけがない。
俺自身、まだ信じられていないのだ。
「とりあえず帰ろう」
もう日も暮れる。
調査するにしても明日からだ。
俺は村へ戻ることにした。
◇
翌朝。
家の扉を叩く音で目を覚ました。
「レオンさん! レオンさん!」
「……はい?」
扉を開ける。
そこにはリナがいた。
「大変なの!」
「何が?」
「おじいちゃんが!」
昨日の薬草で何かあったのか。
一気に眠気が吹き飛んだ。
「案内してくれ」
「こっち!」
リナについて走る。
たどり着いたのは昨日の畑だった。
そこには――。
「おお、来たか!」
元気に畑を耕しているガルドさんがいた。
「…………」
「見てくれ! 腰が完全に治ったぞ!」
「……それはよかったです」
大変とは何だったのだろう。
「それでな、レオンさん」
ガルドさんの隣には、知らない老人が三人立っていた。
「この三人も腰が痛いらしい」
「はあ」
「昨日の草、まだあるか?」
嫌な予感がした。
三人の老人が期待に満ちた目でこちらを見る。
「いや、あれは薬なので、適当に飲むのは……」
「わしは大丈夫だったぞ!」
「そういう問題じゃなくてですね」
俺は頭を掻いた。
仕方ない。
一人ずつ鑑定してみる。
――――――――――
【状態:慢性的な腰痛】
【推奨処置:月白草】
――――――――――
一人目。
――――――――――
【状態:腰部筋力低下】
【推奨処置:安静・軽度の運動】
――――――――――
二人目。
――――――――――
【状態:腰部筋肉損傷】
【推奨処置:月白草】
――――――――――
三人目。
「二人は使って大丈夫だと思います」
「わしは?」
二人目の老人が聞く。
「あなたは必要ありません」
「なんでじゃ!」
「なんでと言われても……」
薬草が必要ないからだ。
「代わりに、少しずつ体を動かした方がいいと思います」
「腰が痛いのにか?」
「無理しない程度にです」
老人は不満そうだった。
その時。
「レオンさん」
後ろから声がした。
振り返る。
五十代くらいの男が立っていた。
「村長!」
リナが言った。
この人が村長か。
「昨日からあなたの噂を聞いていましてな」
「噂?」
「不思議な草でガルドの腰を治したとか」
「不思議というか……」
そこら辺に生えている草なのだが。
「少しお願いがあるのです」
「お願い?」
「見てもらいたいものがありましてな」
◇
村長に連れてこられたのは村の倉庫だった。
「これです」
中には農具が並んでいる。
その一番奥。
一本の古びた剣が置かれていた。
「剣?」
「この村に昔から伝わっているものです」
錆びている。
刃もボロボロだ。
「何でも、数百年前にこの村を救った英雄が使った剣だとか」
「英雄……」
「もっとも、本当かどうかは分かりません」
村長が笑った。
「武器屋に見せたこともありますが、価値のない鉄剣だと言われましてな」
「それを俺に?」
「ガルドから聞きました。あなたは物のことが分かるそうですね」
「まあ……少しだけ」
嫌な予感がする。
俺は剣を見る。
《真眼》
――――――――――
【名称】竜断剣アルディオン
【分類】聖剣
【品質】伝説級
【状態】著しく劣化
【残存性能】12.4%
【特殊効果】
竜種に対する攻撃力増加
魔力伝導率増加
所有者身体能力補正
【修復可能】
――――――――――
「…………」
またか。
「どうです?」
「ええと……」
価値のない鉄剣。
どこがだ。
「たぶん、かなりすごい剣です」
「すごい?」
「聖剣らしいです」
「…………」
村長が黙った。
「聖剣?」
「はい」
「これが?」
「はい」
村長は錆びた剣を見る。
そして俺を見る。
もう一度剣を見る。
「レオンさん」
「はい」
「冗談ではなく?」
「俺も冗談だったらいいと思ってます」
村長はしばらく黙っていた。
「証明できますか?」
「証明?」
「これが本当に聖剣なら」
なるほど。
もっともな話だ。
俺の鑑定では聖剣と表示されている。
だが、それだけでは他人には分からない。
「修復できるみたいです」
「できるのですか!?」
「たぶん」
「ぜひお願いします!」
「いや、待ってください」
俺は表示を詳しく見る。
――――――――――
【修復方法】
黒曜竜晶:必要量32g
炎帝茸:一本
精霊結晶:必要量14g
魔力炉による加熱処理。
――――――――――
「…………」
材料はある。
全部この村の周辺に落ちている。
問題は最後だ。
「魔力炉って何だ?」
「魔力炉ですか?」
村長が首を傾げる。
「この村にはありませんな」
「ですよね」
さすがに何でも都合よく揃っているわけではないらしい。
「一番近い町なら、鍛冶屋があります」
「どのくらいですか?」
「馬車で半日ほどです」
町か。
少し考える。
聖剣の修復。
正直、興味はある。
俺の鑑定に表示された方法が本当に正しいのか確かめてみたい。
「分かりました」
俺は頷いた。
「一度、その町へ行ってみます」
「本当ですか!」
「ただし、直せる保証はありませんよ」
「もちろんです!」
村長は嬉しそうに笑った。
こうして俺は。
辺境で静かに暮らすはずだったのに。
なぜか聖剣を持って、町へ行くことになった。
そして、この時の俺はまだ知らなかった。
その町で。
かつて俺を追放した『蒼天の剣』と、再会することになるとは。




