第15話 終わり
「サルガタナスって、何年ぐらい生きてるの?」
サルガタナスは答える。
「・・・あー、わからない。少なくとも40億年は生きてるじゃないかな。いや、もう一々数えないんだよ。
記憶にある最古の悪魔と天使の戦争がそのへんだった気がする。」
私はウリエルに答える。
「サルガタナスが悪魔の力を失い、人間同然になったというのなら、あと60年ぐらいで老いて死ぬわ。たぶん。」
ウリエルは答える。
「そうだね。たぶん。」
私は続ける。
「40億年、覚醒しなかった邪神の血が、力を失った60年で、復活すると思う?あなた達、永劫を生きる存在から見れば、
ほんの一瞬。まばたき一つの間でしょう?その時間。待ってほしいわ。サルガタナスが、老いて死ぬまで。」
必死に絞り出したでっちあげの理屈だ。
あまりにも弱い。
しかしもう今出来ることはこれだけだ。
手足を、体を縛られ、口しか動かせないような状況で、唯一出来ることだ。
それを聞いたウリエルは、考えているようだ。
「ふむ・・・この土壇場で、よくもまぁ、屁理屈を並べ立てたモノだ。」
うっ・・・ダメか。
他に、なにか取っ掛かりはないか?なにか、なにか無いか。
「良いだろう。」
ウリエルが糸を指で弾くと、拘束されていた体が自由になる。
「ぐえっ」
空中に拘束されていたのだから、急に解放され、着地に失敗し、顔から地面にぶつかる。
骨と血面がぶつかり、鈍い衝撃が体に走る。
痛い。
いや、それよりも、今ウリエルはなんと言った?
サルガタナスがウリエルに問いかける。
「本当か?」
ウリエルは答えず、私の方に手を伸ばす。
すると、糸が私の右手に絡まってくる。
その糸は、編み込まれ、1本の太い紐・・・腕輪?になり、私の右手にくっついた。
「ただし、もし、なにか、髪の毛1本ほどの違和感、異変を感じ取ったら、その腕輪を切れ。
それが報せとなって、私を呼ぶ。そして、その時はサルガタナスを消滅させる。
60年経っても、消滅させる。それが私が出来る最大の慈悲だ。文句があるなら、今ここで消滅させる。」
そう言って、ウリエルは、ウリエルの体は、ぐにゃりと解け、糸となり、
糸は空中に消えていった。
ウリエルは消えた。
私はサルガタナスの元に駆け寄って、抱きしめる。
「やったじゃない!!」
サルガタナスは、一瞬困惑して、私を両手で抱きしめ返す。
「ああ。ありがとう。君のおかげだよ。」
しかし、あることに気づいた。
「でも、60年経ったら、ウリエルが殺しに来ちゃう。」
未来永劫を生きる悪魔の、寿命を決めてしまった。
これは、良いことだったのだろうか。
「構わないよ。ぼくの目的は達成された。ぼくは満足だ。
誰かを抱きしめることが出来ただけで、満足なんだよ。」
「あと、ずっと一緒に居ることになっちゃった・・・あなたを監視しろって事は、つまりそういうことで・・・」
サルガタナスはちょっと驚いた顔をした。
「ふむ・・・確かにそうだね。君は良いのかい?ぼくと、死ぬまで一緒に居ることになるんだよ?」
「いいわ。あなたの寿命を決めたのは私だもん。責任取って、最後まで面倒見るわ。」
「・・・それは、なんというか、ペットみたいな言い方じゃないか?」
「そうね、大きな猫を一匹飼うようなものよ。」
ふっ、とサルガタナスは笑った。




