第14話 四大天使ウリエルの審判
「はぁ・・・はぁ・・・」
「スッキリした?」
叫び疲れたサルガタナスの元に、歩み寄る。
私は水を飲ませてやろうと思ったからだ。
その時、ピキッ、とした。
なんだ?と思ったが、動かない。
体が動かない。あれ?なんで?
いや、全く動かないぞ。1ミリも動けない。
サルガタナスの方も、どうやら同じようだ。全く動けない。
ふと、視界になにか動いてるものを見つけた。
私とサルガタナスの間に、何かが、蠢いている。風で、埃が舞っている。
いや、それは綿・・・?違う。
なにか分からないものが、くるくると小さな竜巻、渦巻きを作っている。
わかった。糸だ。糸が渦巻いている。
すると、その糸は突然形を作り出した。
なにか、形を作っている。くるくると折り重なって、
・・・指?足だ。それが足首を作り、ゆっくりと、上に登っていく。
それは人間だった。膝、太もも、股、腰、胴体、首、肩、両腕、両指、
そして顔。髪の毛のない頭部。と思ったら一瞬で腰まで髪の毛が伸びた。
裸の女、真っ白な肌。そこから糸は小豆色のスーツを作り出した。髪の毛も切り揃えられ、ショートヘアになった。
また悪魔か?と私は思った。こんなことをするのは少なくとも人間じゃあない。
その女は、両手を広げ、こう言った。
「どうも始めまして。私の名はウリエル。糸を司る天使です。」
低い声だ。女の、低い声。
天使?天使って・・・いや悪魔がいるならそりゃ天使もいるだろうけど。
なぜ、天使が、私たちを、拘束する?
「ウリエル・・・何しに来た・・・」
動けないサルガタナスが、敵意を持って答える。
ウリエルは、空中に座った。何もない場所に。
「試練を突破し、ソロモンの鎖骨により、君の邪神の血が消えた・・・と、思われる。」
私はウリエルに聞いた。
「ウリエルさん、思われる、って何?っていうかなんで私たちを拘束するの?」
ウリエルは無視して続ける。
「邪神の力ってのは、そんな単純じゃあ無い。その程度で消えるなら、私たちは苦労はしない。」
「・・・」
サルガタナスは何も言わない。
「しかし、今の君は、確かに邪神の力が消えている。ま、悪魔の力も消えて、ただの人間の様になってもいる。」
私はサルガタナスの方を見た。
そうだったんだ。もう悪魔じゃなくなったんだ。
呪いを解くためには、悪魔であることを捨てても、やりたかったんだ。
「そこで私は考える。将来の憂いのためにも、今ここで、サルガタナス、君を消滅させるべきではないか?と。」
「ちょっと待ってよ!急に出てきて、何を好き勝手言ってるのよ!あなたにそんな権利は無いわ!!」
ウリエルが指で張り巡らせた糸を弾く。すると私を拘束する糸が動き、私は両手を上に引っ張り上げられた。
両足も縛り上げられ、イモムシのようなポーズにさせられた。
「クロードルカ。君はわかってないようだね。邪神の恐ろしさを。もし、サルガタナスの邪神の力が目覚め、
邪神と成り果てたとき、どうなると思う?滅ぶのだよ。この星が。宇宙が。」
「滅ぶって・・・あなたたち、天使は守ってくれるんじゃないの。神様は?」
「確かに、もちろん私たち天使もこの世界を守るため、命をかけて戦う。が、正直、完全復活した邪神には勝てない。
そして神は今も戦っている。邪神は一体じゃない。今、この瞬間も、この宇宙の果てで、邪神たちの侵入を防ぐために、
未来永劫に渡る無限の戦いが繰り広げられている。君たち人間には理解も想像もできない、無限の世界の戦いが。」
・・・私は、今日、信じられない、誰にも信じてもらえない超常現象を体験したが、それを経てもなお理解できない。
スケールがドデカすぎる。急に宇宙と来た。宇宙の果て、って・・・
が、嘘じゃないのだろうとは思った。
深く息を吸い、吐き、心を落ち着ける。考える。人間の私に出来ることは、考えることだ。
「・・・」
私は、何を言うか、何を言うべきか、考える。
「ふむ、君は、私が思っているより、優秀な人間なのかも知れないね。では話を続けよう。
君は力を失った、しかし、それが、一時的なものなのか、永続的なものなのか、私には分からない。
故に、現実的選択として、今ここで、消滅させるのが、世界の平和を天秤にかけたときの、
必然的選択だと思うのだけれど、いかがかな?悪魔の力を失ったサルガタナス、そして人間のクロードルカ。」
サルガタナスは答える。苦しみながら。苦悩しながら。
「・・・四大天使の一人、ウリエル。お前は、正しい。オレがお前の立場だとしても、
同じことをするだろう。それほどに、邪神の血は厄介だ。それはオレが最も理解している。実感している。」
「だろうね。」
「だがオレは・・・やっと呪いから解き放たれた。今ここで、消滅したくない。いやだ。
この体を、この自由を、この普通を失いたくない。」
「だろうね。」
ウリエルは簡潔に返す。
ウリエルは振り返り私に問いかける。
「人間のクロードルカくん。君の意見を聞こう。これが最後の会話だ。私を説得してみたまえ。
出来なければ今ここでサルガタナスは消滅させる。」
ウリエルの言うことは無茶苦茶だ。なんて理不尽な、なんて無慈悲な存在。
でも、正しいと思う。
私はサルガタナスの邪神の力を受けたから理解している。あの力の邪悪さを。あの力の恐ろしさを。
あの力は、この世にあっては行けない力だ。
しかし、私はサルガタナスの感情も理解している。生まれたときからの呪いからの解放。
その喜びを、歓喜を、希望を、こんな形で終わらせることは許せない。
私は考える。
時間がほしい。
考える時間が。
・・・
・・・
・・・
ウリエルは待っている。
私が口を開くのを。
サルガタナスも待っている。
全てを私に託している。
考える。考えろ。
私は考える。
ウリエルが口を開く。
「何もないなら、これで終わりだ。」
「待って!!」
そう、待って。だ。




