第55話 朝日と共に
玄関を出ると、まだ彼方に顔を出したばかりの太陽が、それでも眩い光を放って蒼汰の目を細めさせた。
今日は月曜日であるため、学生である蒼汰は本来学生服を着ているはずだが、実際は休日に着ているカジュアルな普段着を着ていた。
そんな蒼汰に続いて、デフォルトな格好の核神が二体出てくる。
一体は朝も夜も変わらない安定の無表情で、もう一体は体を少し前傾にして少し眠たげだった。
「本当に行くのですか? 一人で」
蒼汰、アイソドシンク、シロームの後ろから、もう一体核神が姿を現す。
いつもは横縛りにしている黒髪を二本に縛っておさげにし、服装は薄水色のスタンダードな型のパジャマだった。
レクシア、睡眠モードである。
そんな可愛らしく新鮮な装いの彼女ではあるが、昨夜大変な苦労をしていた。
アイソドシンクは元より蒼汰の家に住み着いている為目を瞑っていたのだが、そこにシロームまで泊まると言い出したのだ。
確かにシロームには今居場所がないのかもしれないが、だからといってそれを放っておけるレクシアではなかった。
苦悩の末、自分も監視役として一晩滞在することにした。
その際に葵緋奈にあらぬ誤解を与えてはいけないと、蒼汰に『レクシアは帰った』という苦手な嘘をついてもらった。
そうしてまずは、蒼汰に廊下で寝るように指示を出したのだが、項垂れる蒼汰を見たアイソドシンクとシロームが、自分達も一緒に廊下で寝ると言い出して聞かなかった為、それでは意味がないと仕方なく断念。室内の床に布団を敷いて寝ることを許可した。
男性と同じ部屋で一晩過ごすなんて、レクシアとしては内心ドキドキだったが、それはどうにか押し殺して耐えた。
しかしまたしても、例によって例の二体が、蒼汰と一緒に寝ると言い出したので、もう眠りに就いている緋奈を起こさないように静かに説教。なんとか説き伏せて二体を伴ってベッドに入り、両脇の二体を腕で固定した。
ようやく眠りに就けるかと思ったところで、そのベッドが蒼汰のものだということを思い出し変に意識してしまいなかなか寝付けなかったのだった。
そもそも核神にとって睡眠は生理的に必須ではなく、娯楽のようなものである。
しかし人型であるということによる無意識、それと核神は普段割と暇である為、普通に睡眠を取ることが多いのだ。
よって、レクシアは気分的に寝不足だった。
とはいえ、ぐっすり眠った割に眠そうな目のシロームよりはシャキッとしているのだが。
そんなレクシアの事情を知らない蒼汰は、皮肉にも爽やかな表情で問われたことに答える。
「ああ、一人で行く。皆で行ったら警戒されちゃうだろうし。まあつっても、アイソドシンクとは離れられないから病院までは一緒に行くけどな」
「シロも、蒼汰に任せるって決めたけど途中までは一緒に行く。せめて近くに居たいし、クロちゃんの。それと蒼汰ともね」
背筋を伸ばしながら言うシロームに、蒼汰は苦笑しながら。
「なんか、おまけみたいだなぁ」
と、ぼやく。
そんな蒼汰にシロームは、少し慌てた様子で補足をした。
「そ、そんなことないよ! シロは、蒼汰のこと大好きだから」
可愛い顔でそんなこと言われれば、蒼汰の顔が赤く染まるのは必然だった。
「あ、ありがと……」
二人の様子を見て、レクシアは分かりやすくムッとした顔になる。
「ほら、そんなことを言っている場合ではありませんよ。世界はあなたに掛かっているのですから」
「ああ、分かってるよ」
「それにしても、本当に大丈夫なのですか? 何か考えがあるようですが……」
レクシアは一転して心配を顔に浮かべる。
「任せとけって。《時間》の核神と同質化しちゃってる以上、問題は音織楸だろ。けど、あいつの意思の強さは本物だ。あいつは絶対に、姉の為に計画を遂行しようとする。だとしても、あいつの存在を消すわけにはいかない、だろ?」
「それはまあ……人間を一人消すことは、そのまま世界を変えてしまうことに繋がりますから……」
「そうだよな。まあそうでなくても俺が止めるけど。なら、交渉するしかないってことだ」
自信満々に言ってのける蒼汰だが、レクシアの不安は拭えなかった。
「交渉って……そんなに上手くいくでしょうか……」
「だから、考えがあるんだってば。交渉の切り札を、俺は持ってるんだよ」
「ですから、その切り札とは、なんなのですか?」
「それは秘密。心配すんなって」
秘密にされればそれは心配になろうというものだが、しかし最終的にレクシアは、この目の前の笑顔を信じることにした。
「分かりました。学校の方には、私から上手く言っておきます」
「よろしく頼む。恩に着るよ」
「いえ、一蓮托生ですから」
世界の命運が、掛かっているのだから。
「お、それじゃあ、出発?」
「そうだな。ん? シンク、どうした?」
シロームの質問に答えた蒼汰は、ふと違和感に気付いた。
アイソドシンクが蒼汰のシャツの裾をぎゅっと握っていたのだ。
「いえ、別になんでもありません。無意識でした」
「?? そっか……んじゃまあ、行くか!」
「おーう!」
内向的だったシロームが元気に掛け声をあげる。
それを見てレクシアは微笑み、
「行ってらっしゃい」
そう、優しく声を掛けるのだった。




