第35話 贈り物
時間が過ぎるのはあっという間である。
それは楽しい時間なら尚更であり、辛い時間であればそうでもない。
『ずっと続けばいい』と思うときこそ瞬く間に過ぎ去り、『早く終われ』と思うときこそまるで永遠のように続く。
かといって別に、人の感情が時間の流れに作用しているわけではもちろんなく、個人個人の感情が時流速の感じ方に作用しているだけの話だった。
そしてここ一週間で言えば、葵蒼汰の時間はあっという間に過ぎていった。
朝は妹の緋奈に苛烈に起こしてもらい、学校ではレクシアに時折睨まれながらも叶と談笑し、放課後は儚と知らない道を歩き、帰宅した後はアイソドシンクと一緒にお茶を飲む。
そんな日々で、蒼汰は心身共に充実感を得ていた。
しかしどんなものにも終わりはくる。
始まった以上は終わりがくる。
終末ならぬ週末、一週間の終わり。
今日は土曜日だった。
「そんで、どんなものを探してるんだ?」
蒼汰は儚と共に、隣町にある昨年オープンしたばかりのショッピングモールへとやって来ていた。
蒼汰から誘ったのではない。
儚が、ある人に贈るプレゼントを選びたいので協力してください、と珍しくお願いしてきた。
それに対し、蒼汰は先日のハンカチのお礼も兼ねてと、二つ返事でオーケーしたのだった。
「どんなものがいいのでしょうか?」
「いや知らんけど……」
二人は今、立体駐車場含めて五階まであるショッピングモールの一階、東側の入り口から入ったばかりの開けたホールに立っていた。
「じゃあ、どういう意図のプレゼントなのか聞いてもいいか?」
「んん、なんとなく? ですかね」
「いやいやいや……」
儚から『プレゼント』という単語を聞いたときこそ、ついに千散にも友達ができたのか、と蒼汰は喜んだものだった。
だが実際にこうしてプレゼントを選ぶ段階にきてみると、儚の口からは相手の特徴も贈りたい理由も、明確なものは一つも出ずにいて、蒼汰は困惑気味だった。
「どういう人なの?」
「人……えっと、暗くてネガティブで儚げで、あとちょっと気が触れています」
「え、待って。それ千散のこと? あーあれか、自分に誕生日プレゼントみたいな?」
「いや、暗くてネガティブはそうかも知れませんし
、儚げはそう見えているのかもしれませんが、私、気は触れていません。確かに誕生日は過ぎたばかりですが……」
思いの外冷静な自己分析ができている儚だった。
「ああ、そうか……。ていうかちょっとアレだな、その人……」
「変わってますよね」
「お前が言っちゃうんだ……」
蒼汰の言葉の意味がよく分からずに、儚は首を傾げた。
「まあいいや……。で、もうちょっと情報が欲しいところだが、何してる人なんだ? 学生だったら部活とかさ」
「えーと、引きこもり?」
「うん、俺はさ、その人に必要なのはプレゼントじゃなくて、手を差し伸べてあげることだと思うんだ」
「腕を斬って差し出すんですか?」
「怖えーな! どんなクレイジー女子高生だよ! 手を差し出すんじゃなくて、差し伸べるの!」
うーーーーん、と悩んだ挙げ句儚は。
「難しいです」
「まあな……相手のことをよく知らないと、プレゼントを選ぶのは確かに難しいよ……。お前から見てその人の印象は?」
その人物の顔を思い浮かべているのか、儚の視線は斜め上を向いていた。
「寂しそう、です」
「ほうほう」
ここにきてようやく有力な情報が出てきた、と蒼汰は思った。
「じゃあ、それでいいんじゃん」
「はい?」
「寂しそうに見えるなら、寂しさを紛らすようなものを贈ったらいいんじゃないか?」
寂しさを紛らす。
儚の中にそういう発想はなかった。しかしプレゼントする相手の鬱々とした表情を思い浮かべると、蒼汰の出したその案は妙案に思えた。
「なるほど、いいかもしれないですね。で、それはどういうものですか?」
「お前なぁ、少しは自分で考えろって……このまま俺が決めていったら、俺からのプレゼントになっちまうだろうが。大体プレゼントなんてのは、その人のことを真剣に考えて選んだものならなんだっていいんだよ。お互いに好意があるならそれで喜んでくれるはずだ」
そう語る蒼汰を、儚はじっと見つめていた。
「好意あるのかどうかは分かりませんが……分かりました。少し、考えてみたいと思います」
そう言ってその場で思考を初めてしまった儚を見て、蒼汰は珍しく溜め息を吐く。
見かねて儚の小さな手を優しく握ると、
「ほら、歩きながら、いろいろ見ながら考えようぜ」
そう言って歩き出そうとする蒼汰に対してコクリと頷き、儚も足を動かし始めた。




