第30話 いつもと違ういつも通りの昼休み
お昼休み、葵蒼汰はいつも通り学校の屋上にいた。
だが一緒に居るのはいつも通りの白敷叶ではない。
「気持ち悪いです、普通に」
超絶美少女。
その五文字が過分なく相応しい彼女は人間ではない。
この世の全ての《存在》を司る神、である。
そして相変わらず、長い黒髪を横縛りにしていた。
そんな彼女が、女子らしく持参した変なキャラクターの絵がプリントされているビニールシートを敷いてその上に足を流して座り、傍らに座る蒼汰に罵声を浴びせた。
「相変わらず辛辣だなぁ。まあ、客観的に見ればそうなんだろうけどさ」
蒼汰は朝の緋奈との一幕を語って聞かせたのだが、レクシアにとっては不快だったらしい。
「しかしやっぱり、急に愛が強まった気がするんだよなぁ、妹の」
「まあ、葵緋奈としてはまったく知らないことでしょうが、パラドクスとしては『消える運命を自覚していたのに救われた』という本能みたいなもので、拠り所にしていただけだったあなたに本格的に懐いた、ということじゃないですか。知らないですが」
「そういうことなのかな。まあ、嬉しい気もしないでもないからいいんだけどさ」
「でしたら、そんなのろけ話を聞かせないでもらいたいですが」
レクシアはつまらなそうにそっぽを向く。
「おっとレクシアさん、もしかして嫉妬してくれてる?」
「そんなわけがありますか!」
「そっか残念……」
「ど、どうして残念なんですか……」
分かりやすく肩を落とす蒼汰に対し、なぜかレクシアはドギマギする。
「いや、レクシアさんみたいな美少女に好かれたら俺としては嬉しいからさ、男として」
「まったく、軽薄なんですから……。核神に好意を期待しないでください。それと、学校ではシアと呼べと、何度も言ったはずですが?」
核神であるレクシアは、馳道坂高校に自身の存在を捩じ込む際に、生徒達が違和感を覚えないように偽名を使用した。
核神としての固有名であるレクシアではなく、学校では“在神詩愛”と名乗っている。
だから蒼汰にもそう呼ぶようにことあるごとに言っているのだが、まだその設定に馴染めていないようだった。
「ああ、そうだっけか。でも学校出てからシアって呼ぶと怒るからさ……」
「そこは臨機応変にお願いします」
「シンクにはシアって呼ばれても怒らないくせに……」
蒼汰が文句言うと、レクシアはムッとした顔になる。
「アイソドシンクにも何度も注意はしています。一向に直らないだけです」
「はいはい、善処するよ」
「本当に分かっているのですか? ……私だって本当はそんな簡単に名前を呼ばせたくないのに……」
後半は小声すぎて、蒼汰の耳には微かな音しか届かなかった。
「なんだって?」
「なんでもありませんっ!」
レクシアが顔をほんのり赤くして叫んだその時。
がちゃっ!
と音を立てて屋上のドアが開き、誰かが入ってきた。
「ふああ、やっと戻ってこれた……」
脱力感を全面に押し出して、戦利品の入ったビニール袋を手に二人に近寄ってくる姿は、蒼汰の幼馴染みである白敷叶だった。
低い位置で二つに結んだ髪が素朴な可愛さを演出している。
いつの間にか、なことで蒼汰は驚いたのだが、レクシアと叶は仲良くなっていた。
蒼汰の知らない内に、である。
どうやらレクシアが自分の存在を馳道坂高校の生徒として捩じ込んだ時に、蒼汰と仲の良い叶の中にも、『在神詩愛という存在の記憶』を生成したらしい。
《存在》の核神のくせに、やってることはパラドクスとあんまり変わらn……。と蒼汰は思ったが、それを言ったらレクシアを怒らせることが目に見えていたので、心の中にしまっておいた。
「あれ、二人とも食べててよかったのに、待っててくれたの?」
「おう。俺は食おうって言ったんだけどレ――じゃなくて、詩愛がさ」
「当たり前です。白敷さんだけ一人で食事させるつもりですか、あなたは」
「別にそれでも私は大丈夫だけど、ありがとう在神さん。あれ、在神さん――」
そう言って叶もビニールシート膝をつけ、そのままレクシアの顔に自分の顔を近付けると。
「顔赤い?」
核心を突いた。
核神を突いたとも言える。
「あ、いや、これは……」
問われたレクシアはどう説明していいか分からずに、なんとなく蒼汰を睨む。
おいおい、なんでそんな目で俺を見るんだ――と蒼汰が辟易していると。
「あ、蒼ちゃん、また在神さんになにか失礼なこしたの? ダメだよ」
「いやしてないから。ていうかまたって、前にもしたような言い方をするな」
「あはは、ごめんごめん。イメージでつい」
「いえ、実際失礼なことしかされていないような気もしますが」
「え、嘘だろ……? 紳士でなくとも真摯でありたいというのが俺のモットーなのに……」
「真摯に失礼なのではないですか、あなたは」
「ひでぇな……」
蒼汰とレクシアのやりとりを見て、叶がクスクスと笑う。
「是非とも真摯な紳士になってほしいものですね」
「まあ、無理せず頑張ります……」
そんな感じで話がまとまったのを見計らって、叶が切り出す。
「あ、それじゃご飯食べよっか? 待たせちゃってごめんね」
「いえ、勝手に待ってただけなので、謝る必要はないです。では、いただきましょう」
なんか俺だけテンション下がった状態で昼食か、と溜め息を吐きながらも。
「「「いただきます」」」
三人の手がそれぞれの食事に伸びていくのを見ながら、蒼汰は思う。
あーあ、幸せだな。
と。




