第27話 アンニュイインザスカイ
最近、クロちゃんの様子がおかしい。
《空間》の核神であるシロームはそんな思いと一緒に、身体を抱え込んでいた。
場所は空で、現在は日本という国の、名も知らぬ街の上空。天気は晴れで、そこかしこに微かな綿雲が浮かんでいる。
日は大分傾いていて、もうあと半刻もすれば地平線にその円形の輪郭が触れそうな頃合いだった。
普段は、対の核神である《時間》のクロナと共にさまざまな場所をたゆたっているのだが、ここ最近は一つの場所に留まっていた。
だから、クロちゃんの様子がおかしいのだ。
空中にしゃがみこむ、という人間離れした体勢で眼下を見下ろすシロームの表情は、どこかふてくされているように見える。
それもそのはずだった。
だってふてくされているのだから。
ねぇ、なんでずっとこの場所に居るの?
違うとこに行こうよ。
どうして毎日“下”に行くの?
シロと一緒に居る時間が減ったの、気付いてる?
ねえ、クロちゃん。
本当はそう言いたい。
でも気の弱いシロームは、姉のように慕うクロナを問い詰めるようなことができないでいる。
もどかしい。
可愛い顔が台無しだった。
少し垂れ気味な目の中に浮かぶ群青色の瞳も。
水色と白を基調にした近未来的な外装も。
ふわりとした空色のショートヘアが、緩やかな風に揺れる様も。
恐らく誰の目にも、物悲しく見えるだろう。
それくらいに、シロームは縮こまっていた。
恨めしげに眼下の街を見つめ続けるが、別に特別な物が見えるわけではなかった。
ただ今日もクロナが降りているから。
そちらの方を見ずにはいれないだけだった。
シロームは引っ込み思案で、少し臆病なのかもしれない。
大好きなクロナに付いていくことができればいいのに、実際はこうして“空”に引き込もっている。
だって、下には人間が居る。
それがどんな存在なのか、詳しくは知らないけれど、今関わらずにいて特に不都合は無いのだから、あえてその種族の領域に踏み込む必要はないよね?
それに踏み込んだところで、実際に関わりを持てる人間なんてほとんど居ないのだから。
干渉者という、一部の特殊な人間だけが、私達核神と意思の疎通ができるらしい。
関わる必要はないし、どこに居るか分からないそんな人間、探すだけ時間の無駄だよ……。
と、ずっと一緒に居る妹分は思っているというのに、そんな気持ちを知ってか知らずか、クロナは連日下界に降りていく。
何をしているのかは、知っている。
そう、“この空”に来たばかりの時、気まぐれで久しぶりに下に降りていったクロナが、帰ってきてから楽しそうに話していた。
クロちゃんは出会ったらしい。
シロにとってはただの噂話でしかない、あの干渉者という存在に。
それからというもの、クロちゃんはその女の子に夢中なのだ。
シロのことなんか忘れたかのように、毎日毎日降りていく。
ただ、本当に忘れたわけではないようで、一日が終わる前には帰ってくる。
けれどそのあとは案の定、クロちゃんの頭の中はあの子の話題で持ち切り。
きっと今日もそうだ。
でも今日は、シロもちょっとは勇気を出して見ようと思う。
クロちゃんと、ちゃんと話そう。
言いたいことを、言ってみよう。
大丈夫、なんだかんだ、クロちゃんは優しいんだ。
シロームが、クロナとの談笑の一時を脳裏に思い浮かべていると。
「ただいま」
早くもその時がやってきたようだ。




