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矛盾だらけのアイソドシンク ―The World of Paradox―  作者: 天崎澄
第一章 矛盾邂逅編
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第21話 告白

 とはいえ、葵蒼汰の頭の中に明確な勝算があるかと言えば、それは否だった。



「待ってください」



 反撃宣言をしてからどう反撃するかを考えていた蒼汰に、落ち着きを取り戻したレクシアが声を掛ける。



「あなたは、本当に私に勝てるつもりなのですか?」



 人間が神を下そうなどとそんな戯れ言めいたことを、到底信じることは出来なかった。



「いや、勝てるなんて思ってないけど」



 そんな情けないことを言う蒼汰に一瞬呆れかけたレクシアだったが、蒼汰の目を見てハッとする。

 澄み渡り、迷いの欠片もなく、ただただレクシアを下さんと真っ直ぐ視線を突き刺している。

 何が、彼にこんな目をさせるのだ。



「でも、勝たなきゃいけないと思ってる」



 パラドクスの、悪影響か。



「どうして、あの偽りの存在の為に、そこまで――」



「緋奈の為じゃない」



「じゃあ、なんの為だと言うのですか」



「自分の為だ。俺にとって緋奈が大事だからだ。緋奈を助けたいんじゃない。俺に緋奈が必要なんだ。だからお前を倒す」



 もう、レクシアは蒼汰の戦意を疑いはしない。

 だとすれば疑うべきは、先程蒼汰が口にしていた『レクシアの弱点と勝機が見えた』という点だった。



「あなたの身体は、今痛みに悲鳴を上げている筈です。あなたと私の戦闘力の差は目に見えて明らか。それでもまだ、私に勝てる可能性があると本当に思っているのですか?」



 レクシアのそんな問いに、蒼汰はまたしても不適に笑う。



「いや、この痛みをもってして、俺にも勝ちの目があると確信したんだ」



「あなたは……狂っているのですか?」



 レクシアは怪訝そうに顔を歪ませた。



「お前からすればそうかもな。でも俺の頭は至ってクールだよ。そして再三、言わせてもらう。俺にも勝ちの目はある」



 蒼汰がその根拠を語るのをレクシアは無意識に、黙って待っていた。



「何故ならお前は、俺を殺さないからだ」



 蒼汰のその言葉を、一笑に付するでも聞き流すでもなく、レクシアは蒼汰を睨み付けた。



「私をなめているのですか? 人間など、殺そうと思えば簡単に――」



「殺そうと思えないんだろ?」



 レクシアの息が、微かに詰まった。



「何を、バカなことを……」



「お前の言った通りだ。お前は、殺そうとすれば俺を簡単に殺せるだろう。何せ神様と人間だ。文字どおり一捻りだろうな。けどじゃあ、なんでお前は一撃目を“素手”で、“致命傷足り得ない打撃”を負わせたんだ? 殺せるなら、殺せば良かったんだ」



「………………」



「答えは簡単だ。お前は俺を殺す気がない」



「違います」



「違わない。度々の降伏勧告がそれを物語ってるんだよ。俺が降参すれば、もう戦わなくていいし、俺(人間)を殺さなくて済むからな」



 レクシアは無意識に伏せていた顔を上げ、蒼汰と目を合わせると、ふぅ、と息を吐いた。



「なるほど………なるほどです。認めましょう。確かに私には、人間を(ほふ)る覚悟が足りなかったのかもしれません。一人の人間を亡きものにするというのは、世界を変えることに繋がりますから。ですが、改めましょう。このままではそれ以上に、世界に害が及んでしまう。世界を運営する一柱(いっちゅう)として、それは看過出来るものではありません。なので改めて、私は貴方を殺します」



 レクシアの視線が更に冷度を増して凍てついたものになる。しかしそれを見た蒼汰は怯むでもなく、むしろ茶化すように言葉を挟む。



「決意を新たにしたところに水を差すようで悪いんだが、ハッキリ言ってさっきのお前の攻撃、全然効いてないからな?」



「何を……人間の身でそんな筈が……」



「マゾフェスト、って言葉を知ってるか?」



「は?」



 急にこの場に相応しくない単語がポンと出てきて、レクシアは唖然とする。



「知らないなら説明しよう。マゾフェストって言うのは――」



「ひ、必要ありません。言葉の意味は知っています! 少し驚いただけです」



「へー、本当に知ってるのか?」



「知ってます!」



「じゃあ説明してくれよ」



「へ?」



 戦闘の最中において、レクシアは最も間の抜けた顔をしていた。寂しげな夜風が二人の間を通り抜けて行く。



「本当に意味を理解しているのか、それを確認したいんだ」



「それ……必要ですか」



「超必要」



「わ、分かりました……。ま、マゾフェスト――通称マゾやMと呼ばれるその人種は、簡単に言うと被虐に興奮や快感を覚えるという……その、へ、へんたい……」



 最後の方は消え入りそうな声で、顔は案の定真っ赤だった。



「ほう。具体的には? どういうことで興奮するんだ?」



「う、え? いや……い、一般的には、男性だと、女王様と呼ばれるいやらしい格好の女性にムチで叩かれたり……蝋燭を垂らされたり、という……イメージが浸透しているようです……」



「ふーん、女性は?」



「お、女の人は……身体を亀の甲羅のように縄で……その、縛られて……身動き取れない状態で敏感な箇所を………って何を言わせるんです!」



 レクシアは恥ずかしさのあまり我に返ったらしい。



「なんかお前、知識偏ってんな……」



 言わせた蒼汰が少し引いていた。



「い、一般的な知識です! 大体それになんの意味があるんですか!?」



「うん、まあ簡単に言っちゃうと、俺がそのマゾなんだ」



 レクシアは頭の中が真っ白になった。





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