表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

78/104

76話 1ヶ月の答え


修行を始めてから、ちょうど一か月が経っていた。


第三訓練場の空気は、朝から張り詰めている。

土の匂い、汗の匂い、そして――魔力が滞留しない、澄んだ感覚。


リオルとカイルは、並んで立っていた。


一か月前と比べれば、明らかに違う。

細いながらも無駄のない筋肉がつき、姿勢が崩れない。

呼吸は浅くも乱れず、自然に体の奥へと落ちている。


ひょろひょろだった頃の面影は、もうない。


「……止まれ」


エリオラの声が、訓練場に落ちた。


二人は同時に足を止める。

息は荒れていない。

だが、全身に確かな疲労が溜まっているのが分かる。


エリオラは腕を組んだまま、二人を見下ろした。


「走り込み、筋力、呼吸。

 一か月分の地獄は、だいたい仕込んだ」


カイルが小さく喉を鳴らす。


「……で?」


「成果を見る」


即答だった。


エリオラは一歩前に出る。


「魔力を出してみろ」


その言葉に、二人の空気が一瞬だけ変わる。


以前なら、恐怖が先に来ていた。

魔力=制御できないもの。

出した瞬間に壊れるかもしれないもの。


だが今は――違う。


リオルは、静かに息を吐いた。

深く、ゆっくりと。


(……大丈夫)


胸の奥にある“それ”は、騒がない。

ただ、そこに在るだけだ。


リオルの掌に、淡い水の球が生まれた。


揺れない。

暴れない。

呼吸と同じリズムで、静かに回転している。


エリオラの目が、わずかに細くなる。


「……続けろ」


リオルはもう一度、息を整える。


次の瞬間――

水の球の横に、小さな火の球が灯った。


水と火。

相反するはずの二つが、同時に存在している。


だが、ぶつからない。

弾けもしない。


ただ、そこにある。


ヴォルクルとミノンは、後方で息を潜めていた。

守る位置のまま、視線を逸らさない。


(……暴走していない)


それだけで、異常だった。


「……ちっ」


隣で、カイルが舌打ちする。


だがその表情に、焦りはない。

悔しさはある。

けれど、以前のような苛立ちはなかった。


「負けてらんねぇな」


そう呟いて、カイルも魔力を解放する。


冷気が、空気を撫でた。


瞬間、彼の手の中に氷が形成される。

剣の形。

だが以前よりも、輪郭がはっきりしている。


魔力の漏れが少ない。

無駄がない。


「……安定してる」


エリオラは、淡々と評価した。


「余計な力みが消えたな、カイル」


「……自覚ある」


カイルは肩で息をしながらも、少しだけ口角を上げた。


「前より、頭に血が上らなくなった」


その言葉に、リオルは小さく目を瞬かせる。


エリオラは、二人の魔力が完全に落ち着いたのを確認してから、短く告げた。


「合格だ」


二人同時に、息を吐いた。


「暴走はない。

 制御できている。

 体も、ようやく器として形になった」


エリオラは腕を組み直す。


「ここまでは準備だ」


その一言で、場の空気が変わる。


「次の段階に入る」


リオルとカイルは、自然と背筋を伸ばした。


「――魔術だ」


その言葉は、宣言だった。


「理屈は、もう頭に入ってるはずだ。

 一か月、座学もやらせたからな」


「だから、次は――」


エリオラは、わずかに笑う。


「実践に落とす」


カイルが、ぐっと拳を握る。


リオルは、自分の掌を見つめた。


水も、火も。

怖くなかった。


(……できる)


そう思えたことが、何よりの変化だった。


エリオラは、二人に背を向けて歩き出す。


「今日はここまでだ」


「明日からが、本番だぞ」


振り返らずに、そう言い残す。


リオルとカイルは、並んで立ったまま、その背中を見送った。


一か月の修行は、終わった。


そして――

本当の修行が、ここから始まる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ