70話 分けられた訓練場
朝の空気は、前日までと同じはずだった。
だが、アルトレス邸の訓練区画には、はっきりとした“変化”があった。
「――今日から、訓練場は分ける」
簡潔な指示だった。
それを告げたのは、ミリアだったが、
その背後にはエド、そしてエリオラが立っている。
誰一人、異を唱えなかった。
前日の光景を見れば、それは当然の判断だったからだ。
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第一訓練場。
ここに集められたのは、基礎組。
年齢も、実力も、まだ発展途上の者たち。
魔力操作も体の使い方も、これから固めていく段階だ。
「はいはい、並んで並んでー」
軽い口調で声をかけるのは、
アルトレス軍魔術部隊副隊長――マシュウ・ピコット。
「今日は昨日の続きじゃないからね!
基礎は基礎。呼吸、姿勢、魔力の流し方からやるよ!」
和やかな空気。
だが、それは甘さではない。
“壊さないための訓練”が、ここにはある。
子どもたちは神妙な顔で頷き、整列した。
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第二訓練場。
空気が、明らかに違っていた。
ここに集められているのは、応用組。
昨日、ナノカの指導で地獄を見た面々だ。
「全員、回復は済んでるわよね?」
場の中央で、腰に短剣を下げた小柄な女性が言う。
ナノカ・マキシム。
副隊長補佐。
ピンク色の髪を揺らし、にこにこと笑っているが――
その黄色い瞳は、一切笑っていなかった。
「今日は“昨日よりマシ”なだけよ♡」
数名が、分かりやすく顔を引きつらせる。
その中で。
一人だけ、静かに立っている少女がいた。
ナナ。
顔色は良くない。
足元も、少しふらついている。
それでも――倒れていない。
(……また、立ってる)
周囲の者が、無意識に視線を向ける。
ナナは何も言わない。
ただ、指示を待つように、前を見ている。
ナノカは、その様子を横目で確認し、口角を上げた。
「じゃ、始めましょっか。
昨日と同じ。
――“耐えなさい”」
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そして、第三訓練場。
ここは、完全に隔離されていた。
周囲には簡易結界。
立ち入りを許されているのは、ほんの数名。
中央に立つのは、二人。
リオル・アルトレス。
そして、カイル・アーリトレット。
「……今日は、ここだけだ」
エリオラ・レヴィナントは、腕を組んで言った。
「余計な目も、余計な音もいらねぇ」
一瞬、言いかけてから、軽く舌打ち。
「……いらないわ」
すぐに言い直す。
ヴォルクルとミノンは、少し離れた位置で控えている。
護衛として。
だが、介入はしない。
「昨日言ったな」
エリオラは、二人を交互に見る。
「今日は、勝ち負けじゃねぇ」
「……私が見るのは、
“立ち続けられるか”だ」
リオルは、小さく息を整えた。
カイルは、拳を握りしめる。
(……同じ場所だ)
だが、同時に理解していた。
(……ここに立てるのは、選ばれた奴だけだ)
それが、悔しかった。
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三つの訓練場。
同じ時間。
同じ朝。
だが、そこにあるものは、まったく違う。
守るために分けられた場所。
伸ばすために分けられた場所。
そして――
“異常”を育てるために、切り離された場所。
アルトレスは、もう迷っていなかった。
それぞれの器に、
それぞれの地獄を与える。
その判断が、
この日から静かに、だが確実に動き始めていた。




