第95話:絶対の譜面ー2
「次に、後衛の支援および広範囲制圧部隊」
ギリーエは、青い石を前衛の後ろ、砦の防壁の上へと配置していく。
「ザラ殿。あなたには、デザート&イーグルを起点に、前衛への能力上昇と敵への能力低下の完璧な管理を頼みます。あなたの舞一つで、前衛の火力を瞬間的に数十倍に跳ね上げ、敵の能力を紙屑同然に削り落としてください」
「ええ、任せてちょうだい。あたしの舞で、この薄暗い魔境を最高に血生臭くて華やかな舞台に演出してあげるわ」
ザラが、黒の銃と白の銃を指でクルクルと回しながら妖艶に微笑む。
「シン殿。あなたの莫大な魔力は、攻撃ではなく索敵と大瀑布による広範囲の進軍ルートの限定に使ってください。敵を、前衛が殺しやすい一点へと集めるのです。そしてショウ殿、聖剣エクスで、シン殿のサポートを」
「……了解だ。俺の波で、魔族どもをすり鉢の底に集めてやる」
シンが腕を組み、不敵な目で頷いた。
「はい。シンさんに、無駄な動きはさせません」
ショウが前髪を分け直し、淡々と答える。
「ライーオ殿。あなたは射程外からの超長距離狙撃を。……標的は、貴族クラスのみです」
「……標的の座標さえ分かれば、必ず眉間を穿つ。俺の放つ矢は、聖樹の怒りそのものだ」
ライーオが、底冷えする声で大弓を強く握りしめた。その殺気が、テーブルの地図の端を微かに枯らせる。
「ジーク。お前はヒナワで、ライーオ殿が撃ち漏らした敵、もしくは防壁に肉薄した強敵を的確に削り取れ。……熱量は、ここぞという時のために温存するんだ」
「は、はいっ……! 兄上の指示通りに、必ず……!」
ジークが、震える足を踏ん張り、力強く返事をした。
完璧だった。
誰一人として無駄な動きをさせない、強者のエゴすらも戦術に組み込んだ、恐るべき布陣。
だが、ギリーエの采配はこれで終わりではなかった。彼の視線が、最も異質な者たちへと向けられる。
「そして。バル=ゼファル国王直属暗殺部隊のお二人。クラファス殿、リリアノート殿」
ギリーエの冷徹な視線が、砦の広間の中で最も異質な空気を放つ二人へと向けられた。
彼らが纏うのは、戦士の闘力でも、魔法使いの魔力でもない。純粋な死そのものを煮詰めたような、一切の人間的な感情を排した暗殺者の気配。
「お二人には、遊撃として陣形をすり抜けた素早い敵の処理、あるいは敵陣深くに潜むであろう貴族クラスの首だけを確実に刈り取る狩りをお願いします。
あなたたちの機動力と隠密性を殺さないため、あえて前衛のラインには組み込みません。……単独行動は許可します。盤面を乱さない範囲で、好きに暴れてください」
「承知いたしましたァァァッ!!」
クラファスが、背筋をピンと伸ばし、軍人以上に美しい直角の敬礼を見せた。
「我がスプリガンの名にかけて! 陣形を抜け出た魔族の皆様の死体を、完璧に左右対称の芸術的なオブジェとして積み上げてご覧に入れましょう! ああ、血の飛沫すら計算し尽くされた美しき解体ショーの始まりです!!」
「あー、りょーかい、りょーかい」
その隣で、リリアノートが気怠そうに首の後ろを掻きながら、異形の鎌を肩に担ぎ直した。
「……ファッさん、前に出過ぎて前衛の邪魔すんなよ。オレは適当に、手足もがれても死なねぇような面倒くさいヤツの首だけ落として回るからよ」
生と死の境界線が完全に麻痺している、狂人の戯れ言。
だが、彼らの実力を疑う者は、この場には誰一人としていなかった。彼らの言葉は妄想ではなく、確実に実行される事実だ。




