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第93話:砂塵の踊り子

最後に歩み出てきたのは、夜の闇を溶かしたような艶やかな黒髪をなびかせる、褐色の美女だった。


 魔境の冷たい風にそぐわない、露出の多い砂漠の踊り子の衣装。だが、その薄い絹の布地からは、並の防具など紙切れ同然に思えるほどの、極めて高密度な魔力障壁が展開されているのが視覚を通さずとも分かった。


「あたしはザラ。バル=ゼファルの特級冒険者よ。……あのふざけたオッサン、ローディオには、昔ちょっとばかし命を救われた借りがあってね。あいつの一声なら、地の底の地獄までだって一肌脱ぎに来るわ」

 ザラが、艶やかな唇を綻ばせてパチンとウインクをする。


 その瞬間、横にいたレイズが「おっ」と声を上げ、あからさまに目を輝かせた。


「へぇ……あんたが噂の砂塵の踊り子か。砂漠の宝石たぁ聞いてたが、噂に違わぬ美しさだな。こんな死臭のする泥沼には似合わねぇ」

 レイズが口笛を吹く。


「あんた、そのナリで戦い方は? まさか色仕掛けで魔族を落とすわけじゃねぇだろ」


「あたし? あたしの武器は砂魔法と……踊りよ」

 ザラは、腰に提げた金色の装飾具をチャリンと鳴らし、妖艶に微笑んだ。


「戦場を舞いながら、味方を鼓舞するの。私の踊りを見た味方は闘力や魔力が爆発的に向上し、逆に敵は泥を被ったように弱体化する。」


 その言葉を聞いた瞬間。

 レイズがポンッと手を叩き、「あ」と何かを閃いたような顔をして、俺の方を向いた。


「大将。さっきお前に渡したばっかで悪いんだが……」

 レイズは、俺の腰のホルスターを指差した。


「デザート&イーグル、こっちのザラの姉ちゃんに任せた方が、とんでもなく凶悪なことになりそうだぜ」


 俺は腰のホルスターに収めたアーティファクト・デザート&イーグルに視線を落とす。

 対象の闘力と魔力を2倍〜100倍に引き上げる白の銃デザート。

 対象の能力を半分〜100分の1に削り落とす黒の銃イーグル。


 確かに、本来この銃の真価は「極端なバフとデバフ」にある。

 もし、それを広域バフの専門家であるザラが、自身の踊りと併用して撃ちまくったらどうなるか。


「……なるほど。味方にデザートを撃ち込みながら踊れば、効果は乗算で跳ね上がる。敵にイーグルを撃ち込めば、カスみたいな弱さに引き下げられるわけか」

 俺は納得して頷き、二丁拳銃をホルスターから抜き放った。


「餅は餅屋だ」

 俺は迷うことなく、その伝説のアーティファクトをザラへと放り投げた。


「俺は魔剣ムラマサと武装化で、一番前でヘイトを稼いで前線を張る。後方からのバフとデバフの管理は本職に任せた方が、部隊の生存率も殲滅力も跳ね上がる。……使いこなせるか? ザラ」


 ザラは空中で、その重厚な二丁の拳銃を鮮やかに、そして愛おしそうにキャッチした。

 くるりと指で華麗に銃を回して見せる。


「あら……いい玩具じゃない。ずっしりしてて、最高に趣味が悪いわ」

 ザラは、銃口を西の空――瘴気の吹き出す大穴へと向けた。


「あたしの舞に、この極端すぎる魔法が乗れば……魔族の数万の戦力なんて、文字通り濡れた紙屑にしてあげるわ」

 ゾッとするほど艶やかで、そして血も凍るほどに残酷な笑みだった。


 これで、後方の支援火力と戦場支配は完璧な布陣になった。

 機巧神匠の防衛兵器。

 カエサル双竜の圧倒的火力。

 オーシャンの海神と聖剣。

 スプリガンの暗殺者たちによる特攻。

 そして、踊り子による戦場支配。

 人類が持ち得る、最高にして最狂のカードが、この東の最果てにすべて揃ったのだ。

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