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第91話:機巧神匠ガルド

 復讐の鬼と化したエルフ、ライーオの纏う悲痛で、光すら吸い込むような重厚な怒りが、砦の空気を完全に支配し、凍りつかせていた直後だった。


 誰も軽々しく声をかけられない。無邪気だった二人の少年すら息を呑む、その息の詰まるような沈黙を。


「どけ! どけぇい!! ワシの前を塞ぐな、ヒヨッコども!!」

 砦の奥、魔力炉の整備施設から、その場違いすぎる粗野な怒声がぶち壊すように響き渡った。


 ドスッ、ドスッ、と異常なほど重い足音を立てて突進してきたのは、立派な白い髭を丸太のように太い腹まで伸ばした、いかにも気難しそうなドワーフの老人だった。


 その両腕は、魔法の火傷と無数の切り傷で覆われており、ただの職人とは明らかに一線を画す威圧感を放っている。


「ガ、ガルドの旦那!?」

 砦を数日で建設した五人の上級職人たちが、血相を変えて慌てて道をあけ、直立不動の姿勢をとった。


「あいつが山岳国家ロムダースの『神匠』か」

 シンが呟くと、職人の一人が額の冷や汗を拭いながら、小さな声で深く頷いた。


「ああ。俺たち『上級職人』のさらに上の存在。ロムダースでも、歴史上片手で数えるほどしか称号を与えられていない最高峰の技術者。機巧神匠のガルド様だ。腕は間違いなく神業だが、性格は最悪中の最悪だぞ」


 だが、その伝説の機巧神匠の目は、英雄であるシンも、王族であるギリーエたちも、そしてライーオの纏う底冷えする復讐心すら、全く、完全に眼中になかった。


 彼の血走った視線は、ライーオの背後。大地を揺らして現れた鋼鉄の塊――アーティファクト・センシャの機能美に、完全に釘付けになっていたのだ。


「お……おおお……おおおおお……!!」

 気難しい老職人の皺くちゃな顔が、みるみるうちに、欲しかったおもちゃを目の前にした五歳児のように、だらしなく崩れていく。


「な、なんだこの無駄のない美しい流線型の装甲は!! この車輪の駆動系はどうなっとる!? この古代魔力の変換効率、匂いだけで分かるぞ、ワシらの常識とまるで次元が違う! あああっ、中を見せろ! 装甲を引っ剥がして分解させろ!! 頼む、隅々まで調べさせててくれぇぇッ!!」


 ガルドは、センシャの分厚く冷たい鋼鉄の装甲にベッタリと頬ずりし、ハッチの隙間から中を覗き込もうと必死に短い足で背伸びをしている。先ほどの威厳など消え失せ、ただの救いようのない兵器オタクと化していた。


「……好きにすればいい」

 ライーオが、その異様な光景に深くため息をつき、静かに身を引いた。


「私は聖樹の民だ。こんな小賢しく、油臭い鉄の塊より、自身の鍛え上げた弓と聖樹の加護を信じる。……せいぜい、魔族を惹きつける囮にでも使うことだ」


「本当か!? 今、好きにしていいと言ったな、耳長のエルフ!! 前言撤回は許さんぞ!!」

 ガルドの目が、狂気的な技術への探求心で爛々と輝いた。


「よし野郎ども! 休んでる暇はねぇぞ、仕事だ!! すぐにこいつの構造を隅々まで調べる! そしてこの砦の迎撃システムに、こいつの主砲を強制的にリンクさせるぞ!!」


「お、おうさッ!!」


 ガルドの号令一つで、五人の上級職人たちが、まるで獲物に群がる蟻のようにハンマーやスパナを手にしてセンシャに取り付き、あっという間に解析を始めてしまった。


 ――そんな、一触即発の悲壮感と、異常な職人魂が入り混じる騒ぎが一段落した直後。

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