第90話:復讐の防人
ズォォォォォォォン……ッ!!
大地を激しく揺らし、魔境に生える腐った大木を無惨に何本もなぎ倒して現れたのは、巨大な鋼鉄の塊だった。
「なんだ、ありゃ……!?」
レイズが目を見開く。
かつて、シルアの森で神王獣ヤマタノオロチと死闘を繰り広げた、絶対防御の移動要塞。
俺が元いた世界の兵器のよう、魔力を燃料として燃える独特の油の匂いが周囲を包む。アーティファクト『センシャ』だ。
プシュゥゥッ!と高圧の蒸気を噴き出して重厚なハッチが開き、そこから一人の男がゆっくりと、亡霊のような足取りで降り立った。
聖樹から切り出された身の丈ほどの大弓を背負った、大柄だが引き締まった体躯のエルフ。
「……ライーオ殿……」
ギリーエが、痛ましそうに、そして己の非を懺悔するかのように、絞り出す声でその名を呼んだ。
俺も、息を呑んだ。
彼とは一度、シルアの森で会っている。ルーナとレーオの父親。
あの時は、誇り高く、森を愛する厳格な長に見えた。
だが。
愛する子供たちを、最悪の魔族ワーズによって理不尽に惨殺され、その死体すらも弄ばれた男の顔に、かつての森の長としての穏やかさは、欠片すら、一ミクロンも残っていなかった。
「……」
ライーオの瞳には、光がない。
そこにあるのは、周囲の光すら吸い込むような底なしの暗黒。絶対零度まで冷やされた、純度百パーセントの、ドス黒い復讐の炎だけだ。
彼が一歩歩みを進めるたび、ただそれだけで、周囲の雑草が彼の放つ濃密な殺気に耐えきれずに萎れていく錯覚すら覚えた。
「……遅くなった」
ライーオの声は、地獄の底を這うように低く、掠れていた。
「この異形の兵器の動かし方を、私の頭で理解するのに手間取った。……だが、もう逃がさん」
彼が背中の大弓に手をかけた瞬間、空気がビリッと凍りついた。
「魔族の血を、内臓を、骨の髄まで、一滴残らず絞り尽くし……我が子らが眠る聖樹の、肥やしにしてやる」
憎悪。怨念。
それは、今この戦場にいる誰よりも深く、誰よりも純粋な殺意だった。
彼の言葉を聞いたリクとショウの顔から、先程までの無邪気な笑みが完全に消え去り、恐怖に息を呑んでいる。
無邪気な少年たちと、復讐の鬼と化した父親。
希望の光と、絶望の闇。
各国の強者たちが、それぞれの思惑、正義、復讐、そしてかすかな希望を胸に、この最果ての防衛砦に、文字通りすべてを懸けて集結していく。




