表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/96

第88:招かれた希望ー2

 飛竜の背から降りてきたのは、カエサル王国の二人だけではなかった。

 自国の戦力だけでは間に合わないと判断したのか、ウルシア王国の王族までもが、単なる一兵卒のように竜の背に相乗りして現れたのだ。


「遅くなってすまない。……待ったかい? ジーク」

 いつもの文官のような書類の束の代わりに、分厚い魔導書を片手に降り立ったのは、ウルシア王国、第二王子ギリーエ。


 王宮で政務を執る温和な兄の面影はない。その全身からは、戦場の最前線に立つ覚悟と、迫り来る魔族を徹底的に殲滅するための冷酷な知略が刃のように滲み出ていた。


「クソみたいな場所に陣取ったな、お前ら。……だが、殺戮の舞台としてはクソ悪くねぇ」

 三頭目の竜から飛び降りたのは、ウルシア王国、第四王子ソー。


 彼の顔には、不敵で好戦的な笑みを浮かべる、悪の人格と、仲間を案じる静かな闘志を瞳に宿した善の人格が、マーブル模様のように入り混じっていた。


 歩くたび、彼の腰に差された人類の希望の象徴、聖剣ラナと、魔族の絶望の象徴、魔剣オボロが、重々しい音を立ててぶつかり合い、周囲の瘴気を威嚇するように払いのける。


 そして――最後の一頭から、重力すら感じさせない軽やかな身のこなしで降り立った影。


「……無事でよかった」

 光の剣姫、聖騎士カリナ。


 彼女の美しい金髪が、荒野の乾いた風に舞う。

 王国の象徴として、常に気高く完璧であらねばならなかった彼女の眼差しは、今は死地に赴く騎士のそれではなく。ただ純粋に、共に戦ってきた仲間の無事を喜ぶ、心配と安堵で微かに濡れていた。


 手にした純白の剣が、彼女の感情に呼応するように、この暗闇の中で温かく澄んだ光を放っている。


「お前ら……!」

 俺は防壁から飛び降り、彼らの元へ駆け寄った。

 気の利いた言葉なんて、何も思い浮かばなかった。多くは必要なかった。


 ガシッ!

 レイズが俺の肩を強く抱き込み、骨が軋むほど乱暴に揺さぶる。


「よく生きてたな大将! オジキが本国でお留守番してる分、俺が先陣切ってきっちり暴れてやるよ!お前はもう十分に仕事した!あとは後ろでふんぞり返って見てな」


「バカ言え。レイズがとちって死なねーよう、俺が前線で道を作ってやるよ」


「カエサルから飛竜の全速力でウルシアに寄って、無理やり王子様たちを拾ってきたのよ。この短期間での強行軍、後で一生分感謝しなさい」

 ミストがフッと微かに微笑む。


「大将」

 レイズが、自身の腰のホルスターから、重厚な黒い二丁拳銃を取り出し、俺に向かって無造作に放り投げた。


「とりあえずは、お前がそれを持っといてくれ」

 パシッ。

 両手で受け取った瞬間、腕が下がるほどの恐ろしい質量。


 アーティファクト・デザート&イーグル。

 そのひんやりとした金属の感触と、掌の形にピタリと吸い付くようなグリップ。銃口から微かに漏れる魔力の残滓が、この武器の恐ろしさを物語っていた。


「了解。……多分使えないと思うけど…」


「謙遜すんなよ。さんざん色んなモンスター武装化しまくって操ったんだ、いけんだろ。多分…」

 絶妙な空気にオレとレイズがニヤリと笑う。


『あはっ、みんな揃ったね! カリナさんもソーも、前に会った時よりずっと顔つきが良くなってる! これなら勝てるよ、相棒!』

 ラナの声が、俺の胸の奥底で嬉しそうに弾んだ。彼女の存在が、張り詰めて千切れそうだった俺の精神を力強く繋ぎ止めてくれる。


「……ジーク」

 ギリーエが、砦の階段を転げるように駆け下りてきた弟の前に立ち、その細い肩に、いつになく優しく、そして力強く手を置いた。


「よく耐えたね。あの臆病だったお前が、誰よりも早く魔族封印の地に赴き、極限の恐怖の中で睨みをきかせていた。……お前は、ウルシア王国の誇りだ」


「う、うん……! 僕、頑張ったよ、兄上……! すっごく怖くて、何度も逃げ出したかったけど……でも、シンさんたちが前を歩いてくれるから……僕も、逃げなかったよ!」


 ジークの目から、これまで張り詰めていた糸がプツリと切れたように、大粒の安堵の涙がポロポロとこぼれ落ちた。


 王族としての重圧と、常に強者たちに囲まれ続けていた劣等感。そのすべてを一人で押し殺し、正気を失うほどの極限の最前線で踏みとどまり続けた彼への、これ以上ない最高の労いだった。

 

 絶望の底で、いつ決壊するかも分からない封印を、たった三人で監視し続けていた俺たちにとって。

 彼らの到着は、どんな強固な防壁よりも、何よりも強い希望の波だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ