第78話:勇気の価値ー3
その瞬間、野盗たちがビクッと足を止めた。魔法じゃない。王族として、グリンデルやヤマタノオロチとの激戦をくぐり抜けてきた男の本物の『覇気』だ。
それでもリーダー格は「虚仮威しが!」と戦斧を振り下ろそうとした。
チィンッ――!
ジークがヒナワの引き金を引く。
放たれたのは極限圧縮された一条の熱線。
それは、リーダー格の男の戦斧の柄だけを、音もなく正確に切断した。
「……え?」
男の手に残ったのは、ただの木の棒。重い刃の部分が、ドスンと地面に落ちた。
「そこから一歩でも踏み出せば、次は武器ではなく命を貫きます」
ジークがヒナワの銃口を、男の眉間にピタリと合わせた。一切の揺れがない、完璧な射撃体勢。
「ひ、ひぃぃぃッ!!」
男たちは完全に戦意を喪失し、悲鳴を上げながらクモの子を散らすように逃げ出していった。
◆
夜。
子供たちが寝静まった後、バルトは焚き火の前で、顔を真っ赤にしてうつむいていた。
「……あんたが、本物なんだろ。ジーク王子」
ジークは微笑んで、バルトの隣に座った。
「王家の紋章を使い関係者を騙ったことは感心しないけれど……君が子供たちを守るために見せた勇気は、決して偽物じゃなかった」
俺は、懐からギルドのクエストで稼いだ金貨の入った袋を取り出し、バルトの膝の上にポンと投げた。
「なっ、なんだよこれ……!」
「王都の商人からの、投資だ。ガキどもに、まともなもん食わせてやれ」
俺が言うと、シンも笑って付け足す。
「ウソついて飯をくすねるのは、今日で終わりにしな。お前の波なら、まともに働いてもあいつらを食わせていけるさ」
バルトは金貨の袋を握りしめ、ボロボロと大粒の涙をこぼした。
「……ごめんなさい。ありがとう……本当に、ありがとう……!」
バルトは地面に額をこすりつけるようにして泣いた。
「そうだ、これ!」
バルトが思い出したように、教会の奥からボロボロの布に包まれた何かを持ってきた。
「俺、アイツら食わせるために、東にある『三鍛冶の墓所』って呼ばれる古い遺跡で、金目のものを探してたんだ。その時に、変な石板の欠片を見つけて……」
バルトが布を広げる。
そこには、手のひらサイズの奇妙な金属板があった。
その表面を見た瞬間、俺の心臓がドクンと跳ねた。
『最高傑作の作り手たち、ここに眠る』
『Rest in Peace』
「……なっ」
「大将? どうした」
俺が目を丸くしているのを見て、シンが不思議そうに覗き込んでくる。
「……読める」
「え?」
ジークが首を傾げる。
「これ、古代文字ですよ?エルフの国シルアの長老レベルが読めるような……」
「いや、俺の国の言葉だ」
俺は金属板を震える手でなぞった。
日本語と、英語。異世界にあるはずのない文字。
「……バルト。その『三鍛冶の墓所』ってのは、ここからどっちだ?」
「え、東の山を越えた先にある、深い霧の谷の底だけど……」
俺とシン、そしてジークは、パチリと視線を合わせた。
探していた、最後のマスターピース。
魔剣、聖剣、アーティファクトを作り出した者たちの墓所への、決定的なヒントだった。
「……行くぞ、明日朝一で」
俺が言うと、シンは皮袋の酒をあおり、ジークは力強く頷いた。
翌朝、ジークは最後に出立を見送るバルトへ向かって笑いかけた。
「ウルシアのジーク王子は、君のような勇気ある男を、友と呼ぶはずだ。……元気でね、バルト」
俺たちは、決定的な手がかりを手に、最東端の地へと歩みを進めることになった。




