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第77話:勇気の価値ー2

 ジークは、子供たちが無邪気にパンを頬張る姿を、少し悲しそうな、でも温かい目で見つめていた。


「……行こう」

 ジークが、廃教会の入り口へと歩き出した。


「おい、ジーク」


「大丈夫。僕に任せて」

 ジークが姿を現すと、バルトが弾かれたように立ち上がり、子供たちを背中に隠した。


「な、なんだお前ら! 俺を誰のダチだと分かって……」


「その銀時計、ウルシア王家が特注した銀時計ですね」

 ジークは、バルトの言葉を遮り、優雅に微笑んだ。


「王都より参りました、旅の商人です。ジーク王子の『ご友人』が、この地で身寄りのない子供たちを庇護されていると聞き、感銘を受けました」

 バルトの顔が、赤くなったり青くなったりと忙しく変わる。


「お、おう! そういうことなら、手伝わせてやってもいいぜ! 俺、王子のダチだしな!」


 こうして俺たちは、偽物の『王子のダチ』の手伝いとして、廃教会の修繕や子供たちの遊び相手をすることになった。



 作業の合間、ジークがそれとなく時計の出処を尋ねた。


「ああ、これか? 実はな、数年前、西の山の方ですげぇ爆発があってさ。山が三つも吹き飛んだんだ。その直後に、空からパラシュートみたいに降ってきたんだよ」

 バルトが時計を磨きながら自慢げに語る。


(……おい)


(……間違いない。カリナさんとメレーナ姉上の喧嘩の余波で、姉上の懐中時計がこんなとこまで吹っ飛んできたんだ)


 俺とジークは、顔を引きつらせながらヒソヒソと頷き合った。山を三つ吹き飛ばした喧嘩の落とし物。とんでもない代物だ。


 夕方。


 俺の力仕事とシンの水魔法で、廃教会の屋根はすっかり綺麗になっていた。


 バルトは「お前ら、すげえな!」とはしゃぎながら、子供たちと一緒にシンの魔法に見入っている。


「……いいのか、ジーク」

 俺が隣で薪を割りながら聞くと、ジークは苦笑した。


「僕の名前で、あの子たちが今日一日生き延びられるなら、安いものだよ」


 その時だった。

 ヒュンッ!

 空気を裂く音と共に、教会の入り口の柱に、太い矢が突き刺さった。


「きゃあああっ!」

 子供たちが悲鳴を上げて固まる。


「チッ……盗賊団か」

 俺が斧を放り捨てて立ち上がる。


 入り口から、武装した十数人の男たちがニヤニヤと笑いながら入ってきた。いびつな形の武器を持った、タチの悪い野盗だ。


「おいおい、こんなボロ屋にガキがうじゃうじゃいやがる。人買いに売れば、少しは金になりそうだなぁ」

 リーダー格の男が、下品に舌舐めずりをした。


 子供たちが震え上がる。


 だが、その子供たちの前に――ガクガクと両膝を震わせながら、バルトが立ち塞がった。

 手には、サビだらけの折れた剣。顔は恐怖で涙目になり、腰は完全に引けている。


「う、うるせえ! お、俺を誰だと思ってやがる!」

 バルトは裏返った声で叫んだ。


「俺は、ウルシア王国の第三王子、ジーク・ウルシアのマブダチだ!! 俺達に手出ししたら王子が黙ってねぇぞ! お前らなんかに、コイツらは指一本触れさせねえ!」


 野盗たちが、一瞬きょとんとした後、腹を抱えて大爆笑した。

「ぎゃははは! 田舎の貧乏人が王子のダチだとよ! いいぜ、ならその首、俺たちが貰ってやる!」


 リーダー格が、巨大な戦斧を振り上げてバルトに襲いかかる。


 バルトは目を固く瞑りながらも、決して逃げなかった。


『相棒!!』


「分かってる!」

 俺が飛び出そうとした、その時。


 俺の肩を、スッと前に出た腕が制止した。


「――僕の友を名乗るなら」

 凜とした声が、廃教会に響いた。


「もう少し、胸を張ってください。バルト」

 ジークだった。


 彼はバルトの前に静かに立つと、マントの裏から『ヒナワ』を静かに抜き放った。


「な、なんだお前!?」


「……動くな」

 ジークが一言、低く言い放った。

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