第77話:勇気の価値ー2
ジークは、子供たちが無邪気にパンを頬張る姿を、少し悲しそうな、でも温かい目で見つめていた。
「……行こう」
ジークが、廃教会の入り口へと歩き出した。
「おい、ジーク」
「大丈夫。僕に任せて」
ジークが姿を現すと、バルトが弾かれたように立ち上がり、子供たちを背中に隠した。
「な、なんだお前ら! 俺を誰のダチだと分かって……」
「その銀時計、ウルシア王家が特注した銀時計ですね」
ジークは、バルトの言葉を遮り、優雅に微笑んだ。
「王都より参りました、旅の商人です。ジーク王子の『ご友人』が、この地で身寄りのない子供たちを庇護されていると聞き、感銘を受けました」
バルトの顔が、赤くなったり青くなったりと忙しく変わる。
「お、おう! そういうことなら、手伝わせてやってもいいぜ! 俺、王子のダチだしな!」
こうして俺たちは、偽物の『王子のダチ』の手伝いとして、廃教会の修繕や子供たちの遊び相手をすることになった。
◆
作業の合間、ジークがそれとなく時計の出処を尋ねた。
「ああ、これか? 実はな、数年前、西の山の方ですげぇ爆発があってさ。山が三つも吹き飛んだんだ。その直後に、空からパラシュートみたいに降ってきたんだよ」
バルトが時計を磨きながら自慢げに語る。
(……おい)
(……間違いない。カリナさんとメレーナ姉上の喧嘩の余波で、姉上の懐中時計がこんなとこまで吹っ飛んできたんだ)
俺とジークは、顔を引きつらせながらヒソヒソと頷き合った。山を三つ吹き飛ばした喧嘩の落とし物。とんでもない代物だ。
夕方。
俺の力仕事とシンの水魔法で、廃教会の屋根はすっかり綺麗になっていた。
バルトは「お前ら、すげえな!」とはしゃぎながら、子供たちと一緒にシンの魔法に見入っている。
「……いいのか、ジーク」
俺が隣で薪を割りながら聞くと、ジークは苦笑した。
「僕の名前で、あの子たちが今日一日生き延びられるなら、安いものだよ」
その時だった。
ヒュンッ!
空気を裂く音と共に、教会の入り口の柱に、太い矢が突き刺さった。
「きゃあああっ!」
子供たちが悲鳴を上げて固まる。
「チッ……盗賊団か」
俺が斧を放り捨てて立ち上がる。
入り口から、武装した十数人の男たちがニヤニヤと笑いながら入ってきた。いびつな形の武器を持った、タチの悪い野盗だ。
「おいおい、こんなボロ屋にガキがうじゃうじゃいやがる。人買いに売れば、少しは金になりそうだなぁ」
リーダー格の男が、下品に舌舐めずりをした。
子供たちが震え上がる。
だが、その子供たちの前に――ガクガクと両膝を震わせながら、バルトが立ち塞がった。
手には、サビだらけの折れた剣。顔は恐怖で涙目になり、腰は完全に引けている。
「う、うるせえ! お、俺を誰だと思ってやがる!」
バルトは裏返った声で叫んだ。
「俺は、ウルシア王国の第三王子、ジーク・ウルシアのマブダチだ!! 俺達に手出ししたら王子が黙ってねぇぞ! お前らなんかに、コイツらは指一本触れさせねえ!」
野盗たちが、一瞬きょとんとした後、腹を抱えて大爆笑した。
「ぎゃははは! 田舎の貧乏人が王子のダチだとよ! いいぜ、ならその首、俺たちが貰ってやる!」
リーダー格が、巨大な戦斧を振り上げてバルトに襲いかかる。
バルトは目を固く瞑りながらも、決して逃げなかった。
『相棒!!』
「分かってる!」
俺が飛び出そうとした、その時。
俺の肩を、スッと前に出た腕が制止した。
「――僕の友を名乗るなら」
凜とした声が、廃教会に響いた。
「もう少し、胸を張ってください。バルト」
ジークだった。
彼はバルトの前に静かに立つと、マントの裏から『ヒナワ』を静かに抜き放った。
「な、なんだお前!?」
「……動くな」
ジークが一言、低く言い放った。




