第66話:神王獣ヤマタノオロチー4
大陸の頂点に君臨した神王獣の巨体が、音を立てて崩れ落ちた。
八つの首が地面に沈み、再生の輝きが完全に失われる。瞳の光が、泥に吸い込まれるように消え去った。
森を支配していた圧倒的な圧が、嘘のように霧散する。
俺は、立っていられず、その場に片膝をついた。
「……やった、か……?」
『勝ったよ。……相棒、手、震えてる』
(うるせぇ。……当たり前だろ)
ガコン、とハッチが開き、ジークが顔を出した。
「……い、生きてる……! 俺、生きてるよ……!」
「ジーク。こういう時は、遠慮なく泣いていい場面ですよ」
ギリーエが、小さく苦笑しながら彼の肩を叩く。
「うん! めっちゃ泣く!!」
ライーオは、オロチの死骸を見下ろしたまま、動かなかった。
表情はない。だが、弓を下ろしたその手が、ほんの少しだけ震えているのを俺は見逃さなかった。
俺は深く息を吸い、オロチの巨体へ手を伸ばした。
武装化の条件。完全に死んだ、人以外の生物。
触れた瞬間――世界が、深い緑に染め上げられた。
神王獣の莫大な魔力と情報が、俺という器に奔流となって流れ込んでくる。
変形。圧縮。凝縮。
脳内に、オロチの能力が展開された。
『完全武装化・八体分身』。強さを保ったまま、八つの属性を持つ自分の分身を生み出すという、あまりにも狂ったチート能力。
(……だが、今はまだ早すぎる。俺の器じゃ制御しきれねぇ)
俺は能力の大部分を死骸に還し、その王たる力の『一部』だけを抽出して装飾品化した。
形を成したのは、深緑の『ベルト』。
腰に巻いた瞬間、まるでそれが俺の新しい臓器であるかのように、重力と空間が俺の意思と同調する感覚があった。
『……相棒、またとんでもないの拾ったね』
(ああ。……これで、次の魔族とも戦える)
俺は振り返り、戦車――センシャを見た。
泥に塗れたオリーブドラブの兵器は、静かに排気熱を揺らしている。
ギリーエが、戦車の装甲を撫でながら言った。
「センシャは無事に回収できました。ですが……これを国へ持ち帰れば、間違いなく各国の火種になりますね」
「八咫烏の連中も、黙っちゃいないだろうな」
ジークが鼻をすすりながら首を傾げる。
「……ねぇ。じゃあこれ、どうするの?」
ギリーエが、ライーオを見た。
「ええ。持ち帰るよりも、遥かに理にかなった『最高の運用方法』があります」
森の中で、風が吹いた。
もう、俺たちを押し潰そうとする“王の圧”はない。
代わりに、静かに揺れる葉擦れの音だけが、俺たちの勝利を労うように響いていた。




