表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/96

第65話:神王獣ヤマタノオロチー3

「戻れェェッ!!」


キィィイィィン!!


 ムラマサが、悲鳴のように鳴いた。


 五秒。世界が強引に巻き戻る。


 空気が擦れ、時間が反転し、俺の身体は「遅延を食らう前」の空中へ戻された。


 未来視の首が、再び目を見開く。


 理解不能。見たはずの未来が、訪れない。神王獣が生まれて初めて味わう『異物』の感覚。


 オロチの動きが、ほんの一瞬だけ、完全に停止した。


(今だ!)


「ライーオ!!」


「分かっている!!」


 放たれた三本の聖矢が、重力、時間遅延、未来視の首の眉間を同時に撃ち抜く。


 矢が刺さった瞬間、首の瞳から光が消え、能力が封じられた。


 同時に、戦車センシャの中から、ギリーエの恐ろしく冷静な声が響いた。


「……なるほど。これ、こうですね。大体把握しました」


「え!? え!? いや、これ無理! 絶対無理だって!!」


 ジークの泣き叫ぶ声。だが、ハッチから飛び出した彼の腕は、ヒナワを完璧な射撃姿勢で構えていた。


「うおおおおおおッ!!」


 極限圧縮された一条の熱線が、森の闇を切り裂いた。


 炎の首の眉間を無音で貫き、内側から完全に焼き尽くす。再生すら追いつかない一撃必殺。


「援護を続けます。……砲を、胴体へ」


 ギリーエの冷徹な声と共に、戦車の巨大な砲塔がウィーンと駆動音を立ててオロチを捉えた。


「撃ちます。――ジーク、耳を塞いでください」


「え!? え!? ま、待って待ってまっ――」


 ズッドォォォォォォンッ!!!!!!


 空気がひしゃげ、森が一瞬沈黙した。


 圧縮魔力の砲弾がオロチの巨大な胴体に直撃し、肉の壁を四方に爆散させる。


 神王獣が、初めて明確な苦痛の咆哮を上げた。


 怒り狂ったオロチの全属性の攻撃――雷、重力、毒、氷が、一斉に戦車へと集中する。


「ギリーエ!! ジーク!!」


 俺の背筋が凍ったが――戦車は、無傷だった。


 猛烈な攻撃の嵐の中で、装甲が微かに揺れるだけ。精神干渉の波すら、分厚い鋼鉄の前で虚しく霧散していく。


 絶対防御。精神干渉無効。


 これこそが、アーティファクト『センシャ』。


「……素晴らしい。まさに、完全無敵の絶対防御ですね」


 ギリーエが、戦車の中から感心したように呟く。


「俺! もう一生ここに住む!!」


 ジークが泣きながら叫んだ。


「言うと思ったよ、バカ王子」


 俺は歯を食いしばりながら、獰猛に笑った。


(勝ち筋が、完全に繋がった)


 オロチの能力は、全てが必殺だ。だが、ムラマサが未来を乱し、聖樹が精神干渉を弾き、戦車がすべての理不尽を受け止める。


「ギリーエ! 戦車を前に出せ! 俺が注意を引いてで誘導する!」


「了解しました。……ジーク、操縦の魔力供給を続けてください」


「無理って言いたいけど、言ったら絶対怒るよね!?」


 ジークが泣きながらヒナワを構え直す。


「……討つ」


 ライーオの矢が、つがえられた。もう迷いはない。娘と息子の無念を晴らす、純粋な裁きの矢だ。


 俺は戦車を盾にしながら、黒龍の推力で縦横無尽に飛び回る。


 神王獣が、明らかな焦りを見せ始めた。今までどんな生き物も一瞬のうちに塵としてきた自信とプライド、自分の理不尽が一切通じない鉄の塊と、未来を書き換える羽虫。


 その焦りの隙を、ギリーエが見逃すはずがない。


「今です。――撃て」


 ズドォォンッ!!


 至近距離からの魔力砲が、残っていた首の根元を豪快に吹き飛ばす。


 千切れた首が、必死に再生しようと肉芽を蠢かせる。


 だが、そこへライーオの聖矢が突き刺さった。


「やはりか。聖樹の矢は、再生を無効化する」


 ライーオの分析通り、矢が刺さった部位から肉の蠢きがピタリと止まる。


 残った首が、断末魔のように吠えた。


 最後の手。狂ったような重力操作で、戦車ごと大地をぺしゃんこに潰そうとする。


 だが、鉄の箱は軋みすらしない。


「潰れませんね。……本当に、見事な兵器だ」


「流石にチートすぎるだろ、センシャ……!」


(これで、終わりだ!)


 俺はムラマサを構え、最後の時間遅延の首へ飛んだ。


 ズバァンッ!と斬り落とし、すかさずジークがヒナワの熱線で傷口を焼き切る。


 残るは、再生能力を司る巨大な『本体の核』のみ。


 ライーオが、背中の筒から「一本だけ色が違う矢」を引き抜いた。


 純白。聖樹の芯そのものを削り出したような、神聖な魔力の塊。


「……この矢は、すべてを浄化する聖樹の核。本来なら、我が子に護符として送るはずだったものだ」


 ライーオの声は、恐ろしいほど静かだった。


「だが今は――お前たちの切り開く未来のために、使う」


 俺は道を開けた。


 戦車の砲身が下がり、ジークがヒナワを下ろす。


 ライーオの指が、弦から離れた。


 白き閃光。


 矢は光の筋となり、ヤマタノオロチの巨大な胴体の中心――魔力の核を、寸分の狂いなく貫いた。


 森が、呼吸を止めた。


 次の瞬間。


 大陸の頂点に君臨した神王獣の巨体が、音を立てて崩れ落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ