第59話:祈りの唄−2
だが、現実はまだそこにある。
ソーが口を開いた。
「とりあえず……
この封印をどうにかしないと、だね」
レイズが、悪い笑みを浮かべる。
「いったん、ぶっ壊してみるか」
ミストが即座に返す。
「もしこれ壊せたら、お前は竜王を名乗れるよ」
竜王ウォールならこの結界破れちまうのか…
『っていうことだよね…』
俺とラナは2人で震えた
悪ソーが、肩を鳴らす。
「おい、クソ大将。ムラマサ抜いとけ」
「おぉ悪い方、なんでだ?」
「魔剣オボロで、次元ごと切り裂いてみる」
俺は、すぐに理解した。
「なるほどな。
万が一の事態のための、保険か」
ムラマサの柄に手をかける。
10秒後、抜刀完了。
「よし。いつでもいいぞ」
悪ソーが、一歩踏み出す。
「――朧斬っ」
魔剣オボロの太刀筋が、結界に触れた瞬間――
弾かれた。
いや、違う。
斬撃そのものが、粉砕された。
次元を裂くはずの朧が、
逆に周囲へと飛び散り、空間が悲鳴を上げる。
「やべぇ!!」
反射的に叫ぶ。
「戻れ!!!」
――時間逆行。
五秒。
世界が、巻き戻る。
悪ソーは、まだオボロを構えていた。
その前に、俺が飛び出す。
「ムラマサ使った。あとは察しろ」
悪ソーが、舌打ちする。
「……なるほど」
シンが腕を組む。
「次元ごと切り裂いても、無駄ってことか」
そのとき――
「困りごとかな?」
空気が、一瞬で変わった。
「!?!?」
全員が一斉に臨戦態勢へ移行する。
気配がない。
殺気もない。
だが――
圧倒的な“格”の違いだけが、そこにあった。
黒装束の男。
気づいた時には、すでにそこに“いた”。
シンだけが、目を細める。
「……お前か」
低い声。
「遠くで、ずっと見てやがったやつは」
男が、口角を上げた。
「ほう。
気づいていたか。さすが海神シン」
俺が一歩前に出る。
「で、誰なんだ」
男は、淡々と答えた。
「自己紹介が遅れたな」
「私は――
八咫烏の、カラスだ」
悪ソーが、鼻で笑う。
「わざわざ敵の大将首がやってくるとはな」
カラスは首を振る。
「勘違いするな。
戦いに来たのではない」
「疲弊した貴様らと、今の私。
戦えば……どちらも無傷では済まないだろう」
レイズが睨む。
「……何の用だ」
カラスは、淡々と言った。
「私たちはすでに、
魔剣オニマルと魔剣ムネチカを所有している」
場が、凍りついた。
カラスの視線が、俺に向く。
「君が、武装化の……」
「なんだ?」
一瞬、意味深な間。
「君は、何のために戦っている?なぜ、ウルシアのために戦う?」
俺は、言葉に詰まった。
カラスは、微かに笑う。
「まあいい。
君とは……いずれ肩を並べ戦うだろう」
「さらばだ」
「待て!!」
ミストが叫んだ瞬間――
カラスは、消えていた。
沈黙。
レイズが吐き捨てる。
「……何しに来やがったんだ」
そのときだった。
俺は、違和感に気づいた。
結界を見た。
――消えている。
「……え?」
ミストが目を見開く。
「なんだと……!?
封印が、解けている……!」
シンが苦笑する。
「凄腕の封印術師は、
解除もすげぇって聞くけどよ」
「……別格ってやつだな」
誰も、体に異常はない。
聖剣エクスとソラスは、静かにそこにあった。
――こうして俺たちは、
二振りの聖剣を手に入れ、ウルシアへ帰還する。
レーオとルーナの遺体を回収して。
だが、俺の胸に残ったのは――
勝利でも安堵でもない。
八咫烏。
魔剣。
そして、“肩を並べ戦う”という言葉。
次の地獄は、もう動き出している。




