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第七人類絶滅報告書  作者: ななめハンバーグカルパス
第四部 デルタは目を瞑る
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歌う者たち

 毛布の上から伝わる体温は、人のそれと変わらなかった。それなのに、腕の中の重みは、まるで物を運んでいるときと同じだった。サキはその違和感を、誰にも言えずに飲み込んだ。


 ヴァディムが先導する。瓦礫の道を慣れた足取りで進みながら、彼は一度も振り返らなかった。


「もう少しだ」


 低い声だけが、答えだった。


 連れて行かれた先は、かつて学校だったらしい建物だった。崩れた壁の隙間から、夜風が吹き込んでいる。けれど中庭には、奇妙な静けさがあった。——いや、静けさではない。


 低く、規則的な音が満ちていた。


 ハミングだ。十人ほどのH-住民が、地面に座り込んだまま、同じ高さの音を、途切れることなく鳴らしている。誰かが指揮しているわけでもないのに、声と声の間に、寸分の狂いもなかった。


 腕の中の女を、その輪の中へそっと下ろす。誰も振り返らなかった。歓迎の言葉も、驚きの表情もない。ただ、輪が一人分だけ広がり、彼女の声が、何の継ぎ目もなくその合唱に溶け込んだ。


 戻ってきた、という感覚は、たぶんこの場所のどこにもない。


「前は、もっとばらばらだった」


 ヴァディムが、壁に背を預けて言った。


「唸るやつ、笑うやつ、ただ黙ってるやつ。それぞれ好き勝手だった」


「今は?」


「揃ってる。ここ数週間で、急に」


 サキは、輪の中心へ視線を戻した。十数の口が、一つの旋律をなぞっている。三つの音、六つの音、九つの音。区切りごとに、わずかに高さが変わる。


 ——歌っているのかもしれない、と前に思ったことを思い出す。あれは、当たらずとも遠からずだったのかもしれない。


「気味が悪いとは思わないの」


「思うさ。だから見張ってる」


 ヴァディムは、自分の拳を見つめた。


「だが、止め方がわからない。殴って黙らせるわけにもいかない」


 その時、輪の中の声が、ふっと止んだ。

 すべての声が、同時に。

 風の音だけが残った中庭で、十数の虚ろな瞳が、ゆっくりと、同じ方向——東の闇へ向いた。


 ヴァディムの拳が、強く握り込まれる。


「……こんなことは、初めてだ」


 サキも、東を見た。瓦礫の向こうに、何があるというのだろう。

 何も見えない。けれど、見えないはずのものに向かって、十数の瞳が、揃って焦点を結んでいた。

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